第20話:混沌の霧、晴れ渡りて
【──第四星痕・双子座が覚醒。個体名:レンに神格能力『鏡界の虚像』を授与。同時に、主への基礎身体能力バフがさらに上乗せ(スタック)されます──】
脳内に響き渡る四度目の厳かな声。
ドグンッ……!!!
心臓がかつてないほど強烈に拍動し、身体の奥底から限界突破した魔力と質量が溢れ出した。
サクラピンク、ゴールド、ヴァイオレット、そして新たに加わったプラチナシルバー。
四つの星痕のバフが重ね掛け(スタック)された俺の肉体は、ただそこに立っているだけで、周囲の空間そのものをピキピキと歪ませるほどの圧倒的な『神気』を放っている。
「嘘……僕と私の心が、こんなに静かで、温かいなんて……」
結晶の破片が舞い散る中、オッズアイの子供──レンは、自身の胸元に刻まれた『双子座の星痕』に触れながら、呆然と呟いていた。
これまで彼女(彼)を苛んでいた「自己の崩壊と引き裂かれるような孤独」は綺麗に消失し、今はその二面性を完璧な強みへと変える『神格能力』へと昇華している。
周囲を埋め尽くしていた無数の「俺たちの偽物」は、レンの心の安定とともに、一瞬にして光の粒子となって霧散していった。
「言ったろ。お前の嘘も孤独も、俺が丸ごと背負ってやるって」
俺はものぐさそうに前髪を掻き上げ、四色に輝くインナーカラーを揺らした。
「……ふん。完全に一本取られたわね。僕たちをここまで完璧に見破って、救い上げてくれたのは……君が初めてだよ、シリウス」
レンはふっと少年のような、あるいは少女のような、悪戯っぽくも美しい微笑みを浮かべると、俺の前でしなやかに片膝を突いた。
「これからは君が、僕たちの唯一の『本物』だ。──忠誠を捧げるよ、魔王様」
4人目の星の戦士が、完全に俺に降伏した。
その瞬間、それまで谷を埋め尽くしていた濃密な「迷いの霧」が、まるで世界の王を祝福するように、一気にサァァァ……と晴れ渡っていった。
雲の隙間から眩しい太陽の光が差し込み、薄暗かった渓谷が美しい緑の輝きを取り戻していく。
「シリウス様ーーっ!」
霧が晴れると同時に、後方からフェリスがサクラピンクの髪を弾ませて飛び込んできた。
「すごいです、すごいです! 霧が一瞬で消えちゃいました! レンちゃん……君も、もう大丈夫だよ!」
「フン、我が主の器の前には、どんな幻術の檻も無意味だったな」
ゴルドが大槌を地面に突き立て、満足げに深く頷く。
「まさか、あの偏屈で有名だった霧の双子まで一瞬で懐伏させるなんてね。……本当に底が知れない男だわ、あなたは」
サシャも紫色の髪を揺らしながら、呆れたような、けれどどこか嬉しそうな視線を俺に送ってきた。
「状況把握。──これで仲間は4人。要塞の民も含めれば、もう立派な一大国家の誕生だな」
俺はプラチナシルバーのメッシュが増えた自分の髪を弄りながら、晴れ渡った空を見上げた。
アリエスの絶対防御。
タウロスの神域建築。
スコーピウスの神罰の毒。
ジェミニの鏡界幻術。
世界に『無能』と蔑まれ、追放された黒髪の皇子は、気づけば大森林の全域を揺るがす絶対的な『極彩色の魔王』へと成り上がっていた。
「よし、新入りも増えたことだし、一旦要塞へ戻るぞ。……美味い飯と美味い水で、歓迎会を開かないとな」
「わぁっ、賛成です!」
「ふふ、私の毒はお酒のスパイスにでもして頂戴?」
「ガハハ! 俺の建築術で、最高の宴会場を一瞬で作って見せましょう!」
賑やかな仲間たちの声を背に受けながら、俺は不敵に口元を歪めた。
この極彩色の魔王軍が、やがて世界そのものを塗り替える日は、そう遠くはない。




