第19話:鏡像の乱舞と、双子の仮面
「ひゃっ……!? 私の偽物がいっぱいです……っ!」
「魔王様、こやつら、ただの幻にしては放つ殺気がリアルすぎますぞ!」
フェリスが悲鳴をあげ、ゴルドが戦槌を構えて周囲の『偽物の俺たち』を睨みつける。
鏡の岩壁から次々と這い出てくる幻影の群れは、本物と寸分違わぬ構えをとり、鋭い武器の切っ先をこちらに向けていた。
「うふふ、驚いた? 私たちの幻術は、ただのまやかしじゃないの」
「君たちの心の恐怖や迷いを吸って、物理的な質量を持つ『本物の絶望』へと変わるんだよ」
結晶の向こうで、黒の少年と白の少女が同時に不敵な笑みを浮かべる。
ジェミニ──『双子座』の器を持つ彼らの幻術は、大森林の強力な魔獣すら自滅させてきた絶対の檻だ。
「状況把握。──なるほど、ただの映像じゃなくて、魔力で編まれた実体のある分身ってわけか。だるいな」
俺は襲いかかってくる『偽物のゴルド』の大槌を、半歩だけ身を引いて紙一重で回避した。
直後、空いた左手で偽物の顔面を容赦なく掴み、そのまま結晶の床へと叩きつける。
バキィィィィィンッ!!!
凄まじい衝撃とともに偽物のゴルドが光の粒子となって霧散するが、すぐさま鏡の奥から新しい個体が這い出てきた。
「無駄だよ! 僕たちがこの空間の魔力を操る限り、お人形は無限に湧き出てくる!」
「さあ、自分自身の姿に切り刻まれて、ドロドロの死体になりなさーい!」
サシャが放つ劇毒の霧も、鏡の反射のような幻術の障壁に阻まれ、核心にいる双子までは届かない。無限に増殖する偽物の猛攻を前に、流石のゴルドやサシャにもわずかな焦りの色が浮かび始めていた。
だが、俺は前髪を掻き上げ、フッと冷めた笑みを漏らす。
「無限、ね。状況把握──あんたたち、さっきから『僕たち』『私たち』って、二人の声で喋ってるけどさ」
「……何が言いたいの?」
鏡の中の双子が、微かに眉をひそめた。
「本当は、最初から『一人』しかいないだろ」
「っ……!?」
俺の一言に、結晶の奥にいる双子の気配が、一瞬だけ明確に激しく動揺した。
俺のスタックされた五感と星のレーダーは、彼らの配置を完全に捉えている。どれだけ鏡に姿を映し、二人分の声を演じ分けようとも、この空間に存在する『魂の波動』は、たった一つしかなかった。
「誰かを信じるのが怖くて、裏切られるのが嫌だから、自分の中に『もう一人の完璧な理解者』を作り出した。……そうやって、誰も本物の自分に触れられないように、嘘の霧で世界を隠してきたわけだ」
「うるさい……、うるさいうるさいッ!!」
少年の声が激昂する。
「何も知らないくせに、知ったような口を利くな! 私たちは二人で一つだ! 誰も私たちを理解しない、誰も私たちを認めない……だったら、世界ごと騙し通してやるんだッ!!」
少女の声が悲痛に叫ぶ。
裏切りに満ちた世界で居場所をなくし、自分自身の心さえ二つに引き裂いて孤独に耐えてきた、痛々しいほどの『志』。
「だったら、その嘘ごと俺が背負ってやるよ」
俺は一歩、強く踏み込んだ。
アリエス、タウロス、スコーピウス──三つのバフが乗った俺の肉体が、音速の壁を突き破る。
「なっ……速──」
双子が反応するよりも早く、俺は無数の幻影を文字通り『ただの風圧』で吹き飛ばし、鏡の回廊の最奥──本物の身体が隠されている『中央の結晶柱』の前に姿を現した。
そして、戦うためではなく、その引き裂かれた孤独を繋ぎ止めるために、力強く、けれど優しく右手を差し伸べた。
「お前の嘘を見破れる奴なんて、この世界に俺くらいしかいない。……なぁ、俺のところで、本当の自分として生きてみないか?」
シリウスの言葉が、結晶の奥に潜む魂へと真っ直ぐに届いた。
その瞬間──。
結晶柱が目も眩むような純白と漆黒の斑の光を放ち、パリン、と美しく砕け散る。
中から現れたのは、右目が黒、左目が白のオッズアイを持つ、一人の『美しい双子の髪を持つ子供』だった。
その細い胸元に、光と影が交差する**『双子座の星痕』**が鮮烈に刻まれていく。
「あ……僕の、私の心が……一つに……満たされて、いく……?」
子供が呆然と自分の胸元を見つめる。
同時に、俺の前髪の内側。
サクラピンク、ゴールド、ヴァイオレットの隣に、新たに**『プラチナシルバー(白銀)の光のメッシュ』**が、まばゆい輝きを放ちながら五本目に灯った。




