第15話:極彩色の魔王と、蠍の軍勢
【──第三星痕・蠍座が覚醒。個体名:サシャに神格能力『神罰の紫毒』を授与。同時に、主への基礎身体能力バフが上乗せ(スタック)されます──】
脳内に響き渡る三度目の厳かな声。
ドクンッ! と、俺の心臓がこれまでにない激しさで跳ね上がった。
サクラピンク、ゴールド、そして新しく加わったヴァイオレット(紫)。
三つの星痕のバフが重ね掛け(スタック)された俺の肉体は、もはや呼吸をするだけで周囲の大気を震わせるほどの圧倒的なプレッシャーを放っていた。
「な、何が起きたの……? 私の毒が、暴走しないで、完全に私の意志に従っているわ……」
サシャは俺に手首を掴まれたまま、自身の胸元に浮かび上がった美しい『蠍座の星痕』を見つめ、呆然と呟いていた。
これまで彼女を苦しめていた「触れるもの全てを無差別に枯らせる呪い」は消え去り、今は彼女の意志ひとつで無害な光にも、一国を滅ぼす猛毒にも変えられる完璧な『力』へと昇華している。
「だから言ったろ。俺のところなら、あんたの力は誰も傷つけないって」
俺は掴んでいた彼女の手首を優しく放し、前髪を掻き上げた。
完全な黒髪の内側で鮮やかに明滅する、三色の極彩色のインナーカラー。それを見たサシャの瞳から、完全に戦意が消え去る。
「……負けたわ。まさか人間を『王』と呼ぶ日が来るなんてね。──でも、悪くない気分よ、シリウス」
サシャはフッと妖艶に微笑むと、巨大魔獣の背の上で、俺に向かってしなやかに片膝を突いた。
ボスのサシャが完全に降伏し、跪いた。
その瞬間、戦場に残されていた数百の魔族の兵士や魔獣どもの間に、凄まじい動揺が駆け抜けた。
「ば、バカな……! サシャ様が人間に屈しただと……っ!?」
「俺たちは、これからどうすればいいんだ……!?」
武器を握る手をガタガタと震わせ、パニックに陥る魔族たち。
俺はそんな彼らを見下ろし、要塞全体に響き渡るような、低く、けれど絶対的な威厳を持った声を放った。
「状況把握。──サシャの部下ども、よく聞け」
ビクッと、数百の魔族が一斉に直立不動になる。
アリエス・タウロス・スコーピウスの三つのバフが乗った俺の『覇気』は、それだけで彼らの本能に「絶対に逆らえない死神」としての恐怖を刻み込んでいた。
「お前たちのボスは、今この瞬間から俺の仲間だ。つまり、お前たちも俺の部下ってことになる。……異論がある奴は、今すぐ俺がまとめて拳で叩き潰してやるが、どうする?」
「ひ、ひぃぃっ……!」
誰も声を上げられない。俺が一人で数百の魔獣軍を素手で蹂躙した光景を、彼らは特等席で見ていたのだ。勝てるわけがなかった。
「誰もいないな? だったら話は早い。お前たちのその強力な毒と爪、これからはこの要塞を『守るため』の防衛戦力として使わせてもらう。──歓迎するぞ、俺の『魔王軍』へ」
俺が不敵に口元を歪めて言い放つと、魔族の兵士たちは一瞬の静寂の後、武器を地面に置き、一斉にその場に平伏した。
「は、ははぁっ! 魔王様万歳……っ!」「シリウス様にお仕えします……!」
要塞の石壁の上からは、それを見ていたフェリスやゴルド、そして弱小種族の面々が「おおおおおっ!」と地鳴りのような大歓声をあげていた。
「シリウス様、すごいです! 敵の軍勢を丸ごと味方にしちゃうなんて……っ!」
フェリスがサクラピンクの髪を弾ませて大喜びし、ゴルドも「さすがは我が主!」と満足げに深く頷いている。
(状況把握。……これで配下の数は一気に数百人規模に膨れ上がったな。村どころか、完全に『軍隊』の規模だ)
俺は黒髪の内側で輝く三色の光を弄りながら、大森林の夜空を見上げた。
魔力ゼロで国を追放された元皇子が、大森林の奥で多種族を束ね、文字通りの『魔王』として君臨し始める。
この極彩色の進撃は、もう誰にも止められない。




