4.ザクの想い
数ある作品から本作品を選んでいただきありがとうございます。
「率直に申し上げます。私、イザーク・シルフィールはアネット・セレナーデを将来妻に迎えたいと思っております。どうかお許しいただけないでしょうか。」
ザクが頭を下げる。それを見たアネットも慌ててセレナーデ侯爵に向けて頭を下げた。
「お、お父様。私からもお願いします。ザクと一緒にならせてください。」
「アネット・・・。」
「・・・。」
ザクが感極まっている中、セレナーデ侯爵は無言だった。少し経った後、彼は腕を組みザクを睨みつける。
「頭をあげなさい、イザーク殿下。」
「はい・・・。」
「先日、娘からイザーク殿下と婚約させてほしいと言われ、私は娘に協力すると話をした。」
「それでは・・・!!」
「ただし!!」
ザクが嬉しそうな声をあげるが、セレナーデ侯爵は遮る。彼はずっとザクを睨みつけていた。
「それは殿下が娘を心の底から愛し、信じている場合です。あなたには迷いがある。娘を信じきれていない。そんな相手に娘はやれません。」
「それは・・・。」
「ザク?」
アネットが心配そうな顔でザクを見る。先日夢の中で私が話した内容を思い出しているのだろう。ザクがアネットを全ての黒幕ではないかと疑っている可能性があると。
ザクも不安そうにアネットを見ていたが、やがて力強く自分の両頬を叩いた。パアンといい音が部屋に響き渡る。そしてザクはまっすぐにセレナーデ侯爵を見た。
「仰る通りです。セレナーデ侯爵。貴方の言う通り私には迷いがあった。私はアネットを愛しています。ですが、王子として彼女を疑わなければいけなかった。心からアネットを愛すために、彼女に持っている疑問を解消させてください。」
「アネットの言葉を信じられるのですか?」
「信じます。私はアネットの言葉であれば信じます。短い期間でしたが、彼女と一緒に居た時間はかけがえのないものでした。そんな彼女が言う言葉であれば信じます。」
「だ・・・そうだ。アネット。質問に答えてやりなさい。」
(セレナーデ侯爵は本当にアネットの事を大事にしているのね・・・。)
セレナーデ侯爵はザクが迷っている事を理由に、婚約を拒否してもよかった。だが、心の底からアネットを愛せるようにするために、彼の迷いを断ち切らせるためにあえて迷っていることを指摘した。本当に良い父親だ
アネットはザクを見て力強く頷いた。
「私に答えられる範囲で良ければ、答えます。」
「ありがとう。では、単刀直入に聞くよ。アネット。君は時戻りをしているかい?」
「!!」
「・・・はい。」
セレナーデ侯爵が驚く横で、アネットは冷静に頷いていた。私に言われていたから心の準備が出来ていたのだろう。やはり事前に話をしていて良かった。
「・・・驚いたな。突拍子もない話と言われる覚悟もあったんだが・・・。」
「恐らくザクもそうだろうと予想している方がいました。そうですよね?」
「ああ。私も時を戻っている。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!イザーク殿下も時を戻っているのか!?」
「ええ。セレナーデ侯爵も時戻りについてご存じなんですね。」
セレナーデ侯爵の驚いていたが、ザクは冷静に頷いた。
「ザクは、レグルス殿下を唆した人物が私ではないかと考えているんですね?」
「!!話が早くて助かるよ。」
「どういうことだ!!」
「お父様。落ち着いてください。」
話の展開が早すぎてついていけないセレナーデ侯爵を落ち着かせるために、アネットが彼の手を握る。セレナーデ侯爵は何度か深呼吸をして、アネットに向けて頷いた。アネットもそれを見て、ザクに向きなおって頷く。
「我が愚兄のアネットに対する執着具合は異常だと思いませんでしたか?」
「それは・・・確かに異常だと思っていたが。」
「何か理由があるのではないかと考えていました。情報を集める内に意味不明な言動について1つの仮説が生まれました。」
「その仮説というのが、アネットが時戻り前にレグルス殿下と関係を持っていたのではないかと・・・。」
ザクが頷く。私は知っているから納得できるが、よくそんな仮説をたてられたものだ。もし違っていたら頭がおかしい人物だと思われるだけだ。
「自分だけが時戻りをしたと考えるのは余りにも楽観視しています。しかも私の場合、病気、いや呪いか。呪いが既に既に植え付けられた状態で戻ります。自分が主役ではないことくらいわかります。」
「だからといってアネットが全ての元凶だと!!ふざけるな!!」
「お父様!!落ち着いて下さい!!」
震えながら立ち上がったセレナーデ侯爵の腕にアネットが抱き着く。だが、彼は今にもザクに殴りかかりそうだった。
「だから話を聞きにきたんです。本来は婚約のお願いをして、アネットから時間をかけて聞き出すつもりでした。」
「ふざけるな!!そんなの騙し討ちに等しいじゃないか!!許可をだして実はアネットが全ての元凶だと思ったらどうするつもりだった!?捨てるつもりだったのか!?そんなふざけたやつにアネットはやれん!!」
「そんなことありません!!彼女を愛していたからに決まっているでしょう!!」
ザクの悲痛な叫びが部屋に響き渡った。気が付くとザクはアネットは泣いていた。
「私は彼女を愛しています。私に思い出だけじゃなく、未来を与えてくれた彼女を。父上にだって王位を捨ててもいいからアネットと一緒になりたいと伝えたぐらいです。だけど愚兄の事を無かったことにするわけにはいかなかった・・・。だからアネットと話をしたかった。もし彼女が邪悪な考えを持っていたのなら、その考えをなくすように導きたいと・・・。今度は私が彼女を救い上げる番だと考えていました。」
「ザク・・・。」
「私も半端な気持ちでここに来ていません。どうかアネットとの婚約を認めて頂きたい。」
そう言ってザクは再び頭を下げた。セレナーデ侯爵は苦々しい顔をしながらザクを睨みつける。そして、アネットの方を見た。
「アネットはどうしたい?」
「え?」
「こいつはアネットが全ての元凶ではないかと考えるようなやつだ。それでもこいつと一緒になりたいか?」
(さすがに殿下をコイツ呼ばわりはまずいと思うんだけど・・・。)
そんな事を考えつつも、私は静観していた。ここは私が口を出すべきじゃない。アネットの未来に関わることだ。アネットが自分で考え、決断しなければいけない。余計な口出しをするべきではない。
アネットは視線をセレナーデ侯爵からザクに移した。
「ザク。顔をあげて。」
「・・・。」
「ザク。決める前に1つだけ聞かせて。さっき言っていた言葉。私の話す事を信じると。本当に信じられる?私が全ての元凶かもしれないのに。裏では貴方の事を笑っているかもしれないのに。」
「信じる。僕は最初に会った時のアネットの優しさに惹かれたんだ。君の言葉だったらどんな内容でも信じると約束する。」
ザクは顔をあげてアネットの目をまっすぐ見ると、迷いのない表情でアネットの問いに答えた。アネットはそれを見て、頷いた。
「お父様。ザクも。とにかく座ってください。全てお話します。私の時戻り前の人生全てを。その上でもう一度、私を愛してくれると言って下さるのであれば。私は貴方と一緒にいます。」
「・・・お前がそういうならば聞こう。」
「お願いする。」
ザクとセレナーデ侯爵が席に座る。アネットは紅茶を一度飲み、一息ついた。そして口を開いた。
「長い・・・長い話になります。まずは私が時戻り前に学園に通い始めてから話ましょう。」
そう呟いて、アネットは語り始めた。自分の過去を。
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