3.イザーク殿下来日
数ある作品から本作品を選んでいただきありがとうございます。
アネットがアネットの両親と話し合ってから1週間がたった。今日はザクがアネットの家に来る日だ。表向きはレグルス殿下の件についての謝罪。本題は婚約のお願いだ。
アネットは自分の服を何度も見ながら部屋の中を行ったり来たりしている。
「う~。緊張する。」
(貴方が話すわけではないのに。何をそんなに緊張しているの?)
(ですけど、ザクがお父様と話をするのですから、上手くいくか心配で・・・。)
(考えてもしょうがないことは考えない。ほら、化粧が落ちないようにしなさいよ。)
アネットはザクを迎えるために最大限身体を磨かれ、化粧をされていた。謝罪に来ると言っても王子だ。こちらもそれ相応の対応をしなければならない。
そんな時、部屋の扉がノックされ、メイドのエルが入ってきた。
「失礼いたします。お嬢様。イザーク殿下がおこしになりました。」
「本当!?」
(アネット!!走らない!!)
(は、はい!!)
慌ててザクの元に行こうとしていたアネットは、私に叱られて歩く速度を落とす。玄関に辿り着くとザクがアネットの両親と話していた。ザクはアネットを見つけると、微笑んだ。
「こんにちは。アネット。今日は時間をとってくれてありがとう。」
「ザ、イザーク殿下、ようこそいらっしゃいました。歓迎いたします。」
「ザクで構わないよ。今回はこちらが謝罪とお願いに伺ったけど非公式の場だから。それにしても。アネットに会えて嬉しい。いつも綺麗だけど、今日は一段と綺麗だね。」
「そんな・・・。ザクも素敵。」
「アネット・・・。」
「うぉっほん!!」
「「!!」」
2人の世界に入ろうとしたところを、セレナーデ侯爵がわざとらしく咳をする。2人は恥ずかしそうに顔をそらした。
「詳しい話は中でしましょう。殿下。こちらにどうぞ。」
「ああ。」
セレナーデ侯爵の案内の元、ザクとアネット達は客室へ移動した。客室でザクとアネット達は向かい合う。
「それで今日のご用件は?」
「先日手紙で伝えた通りだ。まずは謝罪をさせてほしい。我が愚兄であるレグルスがアネットに多大なる迷惑をかけた。申し訳なかった。」
そう言ってザクがセレナーデ家の面々に頭を下げた。だが、それを見てセレナーデ侯爵は鼻を鳴らした。
「貴方の謝罪に意味はない。運よく回避することができたとはいえ、我々夫婦は最愛の娘を失っていたかもしれないのだ。謝ってすむのであれば騎士団はいらん。」
「その通りだ。だから謝るだけではない。謝罪として、セレナーデ侯爵は5年間、国に税を納めなくてよしとする。」
「なんだと!!」
セレナーデ侯爵が驚きで目を見開く。彼が驚くのは無理もない。そもそもこの国では、一代限りの爵位を除き、爵位を持つものは領地を持っている。領地に住んでいる領民から税をとり、その税の一部を国に納めている。
セレナーデ家は侯爵位であるため、領地の広さも他の貴族とは段違いだ。その分納める税金も馬鹿にならない。それを5年間なくすというのは国にとっては大きな痛手だろう。
ザクが懐から一枚の紙を取り出すと、それをセレナーデ侯爵に手渡した。
「これがその書状だ。父上のサインも入っている。」
「・・・確かに。」
セレナーデ侯爵は国王のサインが入った書状を何度も確認している。嘘をつくとは思っていないだろうが、信じられなかったのだろう。
「それだけ父上も反省しているのです。我が子可愛さに、あの男を放置したことを。無論、命は金では買えない事もわかっています。だが、今のところ空いている領地もないし、今回はこれで手打ちにしてもらえないでしょうか。」
「むう・・・。アネットはそれでいいのか?」
「わ、私ですか?」
急にアネットに話題を振られ、彼女は慌てる。ザクは改めてアネットに頭を下げた。
「今回一番辛い思いをしたのはアネット。君だ。我々は謝る事しかできない。他に我々にしてほしいことがあったら言ってくれ。出来る限りの事をしよう。」
(アネット。軽々しく許すなんて言ったら怒るからね。貴方は呪われかけたのだから。)
アネットの性格からして、気にしないから大丈夫と言いかねない。だが、それではあの男は同じことを繰り返すだろう。しかも取返しのつかない可能性がある。
「1つ、聞かせてください。レグルス殿下はどうなるのですか?」
「現在、貴族牢に幽閉している。何もしなければ障害幽閉で済むだろうが。もし何かやらかそうとするのであれば・・・。」
ザクがそこで口を閉ざす。まあ脱走して何かやらかすかもしれないということだろう。もし反乱でも起こすのであれば、処刑の大義名分がたつといったところか。
「どういうことだ?一歩間違えれば、呪いで多数の人を操り国家転覆を起こしていた可能性もあった。毒杯を渡すべきだろう。」
「貴方達は怒るだろうが、冷静に聞いてくれ。彼がやったのは、複数名を呪いにかけたのと、婦女暴行未遂でしかない。王族としては論外だから廃嫡なのは確定だが、殺すほどではないという意見がでています。」
「なんだと・・・!!」
セレナーデ侯爵が怒りのあまり席から立ち上がる。彼の身体から魔力があふれ出ている。アネットがセレナーデ侯爵の腕に抱き着く。
「お父様。落ち着いて下さい。話を詳しく聞きましょう。」
「う・・・うむ。」
アネットに諭されて正気に戻ったのか、セレナーデ侯爵は席に座り直す。だが、目はザクを睨みつけていた。ザクはセレナーデ侯爵に向けて頭を下げた。
「申し訳ない。私や父もあの愚兄を処分したいとは思っている。だが、彼が使った呪いの魔法を研究すれば、呪いも有効活用できるといいだしている者達がいまして。殺すのではなく、実験体にしたいと言い出しているんです。」
(呪いを自由自在に使いこなせればやりたい放題できるものね。)
呪いを使いこなせれば人を操ることができる。そうすれば裏で国を牛耳ること等、様々な事ができると考えているのだろう。アネットが不思議そうに首をかしげる。
「わが国では呪いを禁止しているのでは?」
「そうです。だが、彼らは禁止してばかりでは何かあった時に対策がとれない。呪いを知ることも大事だと言い出しているんだ。綺麗ごとを言っていますが、実際は、呪いを使いたいだけだろう。セレナーデ侯爵が言った通り、呪いで国家転覆など簡単に出来てしまうからね。」
「その彼らというのは・・・。」
「魔法研究会。魔法の発展を史上とする者達だよ。」
「あいつらか・・・。」
セレナーデ侯爵がため息をつく。魔法研究会。ゲーム知識だが彼らの存在は知っている。魔法こそが全てと考える人達で、日々魔法の研究にいそしんでいる。それだけであればいいのだが、中には貴族と繋がって謀反のために魔法を使おうとしている人もいる。危険な存在なのだ。
「彼らはなかなか厄介でして。彼らのおかげで魔法は発展しているから足蹴にはできません。だからと言って呪いを研究させるわけにはいかないんです。」
「どうするつもりだ。」
「父上と計画しているものがあります。それがうまくいけば魔法研究会の自由にはさせないようにすむと思います。その内容は後でお伝えします。そちらで判断していただければ・・・。この計画を話すのもお詫びの1つです。」
「ならば、アネットにもその計画を話せ。この子も被害者の1人だ。知る資格がある。」
「そうですね。君達、ちょっと席を外してもらえるかい。」
「はっ!!」
ザクがお付きの者達に声をかけて部屋の外にだした。セレナーデ侯爵も同様にメイドや執事達を下がらせた。外野がいなくなったところでザクが計画を話してくれた。
なんてことはない。あえて警備を手薄にし、レグルス殿下を脱走させる。そして配下の者を使って誘導し、反乱を起こさせ、それを理由に処刑しようというものだった。私としてはもっと壮大なものではないかと考えていたので、残念だった。セレナーデ侯爵も同意見だったようだ。不機嫌そうに鼻をならす。
「なんだ。その程度か。もっと盛大な事をするのかと思っていたがな。」
「呪いは脅威なので、下手なことは出来ないのですよ。少しでもリスクは抑えたいと考えています。」
「まあ、内容はわかった。アネット。一番危害を受けたのはお前だ。他に何か希望があれば遠慮なく言いなさい。」
アネットは少しだけ悩んでいたが、やがて何かを決意した表情でザクの目をまっすぐ見た。
「1つだけお願いがあります。もう呪いに怯える人達がでないように取締りを強化してください。必要があれば私も解呪の手伝いをしますから。」
「!!」
「アネット。それは!!」
「お父様。私はもうあんな思いをしたくありません。それと同時に他の人に同じ思いをさせたくありません。」
「むぅ・・・。」
ザクは立ち上がり、アネット達に向けて再び頭を下げた。
「約束しよう。イザーク・シルフィールの名において、呪いで苦しむ人が出ないように全力を尽くすと。そしてお言葉に甘えさせてもらいたい。アネット。君には私の隣で、呪いに苦しんでいる人、辛い思いをしている人を助ける手助けをしてほしい。」
「それって・・・。」
アネットの顔が赤くなる。実質プロポーズのようなものだ。ここで話を入れてくるとは。セレナーデ侯爵の顔が怒りで真っ赤になる。
「待て!!誰がいきなりプロポーズしろと言った!!それは別の話だろう!!筋を通せ!!」
「そうですね。では愚兄の話はここまでにして本題に入りましょうか。」
ザクは頷き、席に座り直した。そして深呼吸をしてセレナーデ侯爵をまっすぐ見た。
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