2.私の考え
数ある作品から本作品を選んでいただきありがとうございます。
「それで、ノゾミさんはイザーク殿下の事をどう考えている?勿論君の意見を鵜呑みにするつもりはないから、安心してくれ。参考意見として聞かせてほしい。」
「そうですね。私の意見は一旦置いておきます。まず客観的な意見を言わせてもらっていいですか?」
「うむ。」
「お願いするわ。」
私の言葉にアネットの両親は頷いてくれた。それであれば遠慮なく言わせてもらうとしよう。
「一言で言うとアネットがイザーク殿下と結婚するのは論外ですね。そうすることで彼女には3つの壁が立ちはだかります。」
「3つの壁?」
「ええ。」
私は指を1本たててアネットの両親に向けて突き出す。
「1つ目は婚約者になるための壁。イザーク殿下が王太子になるのであれば、彼に取り入ろうという人が大量に現れます。その人達を押しのけていかなければいけません。嫌がらせを受ける可能性があります。場合によっては命を狙われる可能性すらあります。」
「そうだな。」
続けて私は突き出している手から2本目の指をたてた。
「2つ目は国王に受け入れて頂くための壁です。正直に申し上げますと、レグルス殿下の件で、王家とセレナーデ家の仲は最悪と言ってもいいでしょう。隣国との件がありますので、国王はセレナーデ侯爵の事を頼りにしているようですが・・・。」
「ああ。最近隣国が国境近くに軍を配備しているという情報が入ってきた。その対抗策のために私を使いたいのだろう。現役の魔法軍団長は国の警備として手元に置いておきたいのだろうな。名誉顧問である私に国境へ行ってくれないかと要請が出ている。ふざけるなと蹴っているがな。」
私の言葉にセレナーデ侯爵は深いため息をついた。彼の情報によると、隣国は本格的に戦争に向けて動いているようだ。この国が強国であるというのに関わらず戦争を仕掛けようとするのにはそれなりの勝算があるのだろう。例えば時戻り前に覚えた強力な魔法を魔法軍団に教え込んで、こちらを一気に殲滅させる等・・・。魔法は日々研究されている。10年弱時がたっていたのなら、相当数の魔法が開発されていたはずだ。
(隣国って、ノゾミさんが教えてくれた時戻りの人がいる・・・。)
(ええ。リンク・スロースト。向こうの第1王子ね。)
隣国が時戻り前の知識を持っているのではと疑っているのには理由がある。隣国には攻略対象が1人いるのだ。しかも権力のある第1王子。彼は血気盛んで世界統一を企んでいる設定だ。今までの前例からして、彼も時戻りをしている1人だろう。時戻り前の知識を用いれば、戦争しても勝てると考え、こんなに大胆に動いているのだろう。
「隣国のことは一旦置いておくとしても、王家とセレナーデ家がこの状態では結婚は難しいでしょう。もしかしたら結婚させてやるから、国に尽くせと言ってくるかもしれません。」
「なんだと!!そんなこと許せるものか!!」
セレナーデ侯爵が怒りのあまり立ち上がる。まあ彼の気持ちもわかる。アネットが人質のようなものだ。その状態で2人が幸せになるのは無理だろう。
「落ち着いて。お座りください。今ここで怒ってもしょうがありません。」
「む・・・。そうだな。」
セレナーデ侯爵は我に返ったのか、ソファに再び座り直す。自分を落ち着かせるためか紅茶を飲んだ。私は彼が落ち着くまで少し待つことにした。
少し経つと、セレナーデ侯爵が私を見て、頷いた。
「失礼した。続きを頼む。」
「はい。それでは最後の1つです。」
私は再び手を突き出して、3本目の指をたてた。
「3つ目はレグルス殿下の壁です。」
「レグルス殿下?どういうことだ?」
「レグルス殿下はアネットに異常に執着していました。彼は平民にするとイザーク殿下が言っていましたが、あの執着具合と呪いは脅威です。いつアネットに襲い掛かってくるか分りません。」
「面倒な・・・。処刑でもしてくれれば簡単なものを・・・。」
「そうですね。そこはイザーク殿下が来た時に要交渉でしょう。」
私は深いため息をつく。アネットの両親には、アネットがレグルス殿下を狂わせた黒幕だと疑われている可能性については伏せておいたほうが良いだろう。実際そんなことはないし、そのせいで仲が余計に悪化してもしょうがない。
「これだけの壁がある以上、結婚すべきではないでしょうね。アネットが耐えられるか分かりませんし、耐えられなかった時、取り返しのつかないことになりかねません。時戻り前の時以上に大きな傷を作るかもしれない。」
(そんな!?私頑張れます!!前よりも少し強くなりました!!)
(そう言って、上手くいかなかったらどうするの?あなたが耐えきれなかったら、あなたの両親は深く傷つくわ。)
(それは・・・。)
結婚とは2人の問題ではない。家と家の問題。相手が次期国王ならば国の問題だ。婚約してやっぱりダメでしたではすまされない。
「それはわかったのだけれど・・・。それを踏まえてノゾミさんの本音は?」
セレナーデ夫人が恐る恐る聞いてくる。私は彼女に向けて笑った。
「好きになったならしょうがないでしょう。私は応援しますよ。」
(え・・・?)
「は・・・?アネットを応援すると?」
アネットもセレナーデ侯爵も私の言葉にあっけに取られていた。まあさんざんぼろくそ言っておいて結論は応援するだ。混乱するのも無理はない。だがそれが私の本心だった。
「セレナーデ侯爵。私、いえ私達はアネットに幸せになってほしい。そうですね?」
「無論だ。」
「それなら私達ができることは、アネットがどんな道を選ぼうと応援し、支えることです。否定することじゃありません。」
「む・・・むう。」
セレナーデ侯爵がうなる。だが、彼は納得がいってないようだった。まあ当然だろう。あれだけ否定的な話をしたのだ。彼は不満げな表情でこちらを見る。
「だが。たくさんの壁がアネットの前に立ち塞がっているのだ!!それを回避させるというのも立派な選択肢だと思うが!!」
「その結果、アネットが日々泣くことになったとしても?」
「!!」
セレナーデ侯爵がはっとした表情を浮かべる。私は彼を見て力強く頷く。
「アネットは時戻り前、自分の意思を殺してただただ生きていました。それをやり直す機会を得たのです。それであれば、彼女がやりたい事をやらせてあげるのが我々のつとめではありませんか?」
「しかしだな。それでアネットが危ない目に合うと思うと・・・。」
「私がいます。」
「!!」
「今までと同じように、私がアネットを守ります。壁なんてぶち破ればいい。王家とセレナーデ家の不仲はセレナーデ侯爵。貴方がぶち破ればいい。娘のために一肌脱ぐくらいわけないでしょう。」
(ノゾミさん・・・!!)
アネットが感極まった声をあげる。本当のことを言えばアネットにはジネットやランロットを選んでほしかった。ただ彼女はザクを選んだのだ。それであれば私は彼女の意思を尊重するべきだと思ったのだ。
「む、むう。確かにその通りだが・・・。」
「あなた・・・。アネットが生まれた時に貴方は泣きながら、皆でこの子を幸せにしようとおっしゃってくださったじゃありませんか。私もアネットには笑っていてほしいです。アネットの意思を尊重してくださいませんか?」
「ぐ・・・!!」
セレナーデ夫人の言葉にセレナーデ侯爵は苦々しい顔をしていた。彼は俯いて、色々考えていたようだが、やがて深いため息をつくと私の方を見た。
「すまない。アネットに替わってもらえるか。」
「ええ。」
(アネット。交替よ。」
(はい。)
私はアネットと交替し、奥に引っ込む。後は彼女次第だ。
「お父様。替わりました。」
「・・・アネット。改めて聞く。お前は心の底からイザーク殿下が好きなのかい?」
「はい。」
セレナーデ侯爵の言葉にアネットは即答する。彼女はセレナーデ侯爵をまっすぐ見ていた。
「先程ノゾミさんが言った通り、幾つもの壁がお前に立ち塞がるだろう。それでも彼と一緒になりたいか。」
「はい。私1人では無理かもしれません。ですけど、ザク。いえ、イザーク殿下と一緒に乗り越えていきたいです。」
「そうか・・・。」
セレナーデ侯爵はため息をついて、ソファの背に寄りかかり、目を閉じた。そしてぽつりとつぶやいた。
「わかった。好きにしなさい。お前が幸せになるために私達も協力しよう。」
「ありがとうございます!!お父様!!」
アネットが喜びの声をあげる。嬉しすぎてなのか、彼女は涙を流していた。セレナーデ夫人も嬉しそうに何度も頷いている。
「ただし!!ノゾミさんの言う事をよく聞くんだぞ!!お前はまだ危なっかしいんだからな!!」
「ええ!!もちろん!!」
アネットがはしゃいでいる横で、セレナーデ夫人がそっと、セレナーデ侯爵の手を握った。
「あなた。そうと決まればイザーク殿下にお返事をお書きしないと。」
「・・・そうだな。なあ・・・。今日は久々に晩酌に付き合ってくれ。」
「ええ・・・。私達の娘の未来を願って飲みましょう。」
(親というのも大変ね・・・。)
私はそんなことを思いつつ、喜んでいるアネットを中から見た。何はともあれ、アネットの両親から交際の許可は下りたのだった。
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