6 姉からの手紙
「おい、カイ」
秋冷の候。
がやがやとした喧騒の中で突然自分を呼び止めた声は、宮の門番をしている男のものだった。
会うたびにポケットから飴玉を寄越し、島の中で唯一カイを年相応の子供扱いしてくる男。
声を潜めて、周囲の様子を伺いながらちょいちょいと手招きして呼ばれるものだから何事かと思えば、男はカイの手にそれを押し付けてきた。
「さっき頼まれたんだ、少しだけでも顔を見ることはできないかと」
渡されたのは丁寧にたたまれた四つ折りの紙。
訝しげな顔をするカイだったが開いた瞬間、男のよそよそしい態度の謎は解けた。
姉の字だ。
手紙には西の桟橋の前にて待っている、そういう旨の内容が書かれていた。
「お前姉ちゃんがいたんだな、おじさん知らなかったぜ。泣かせる話じゃないか」
『鎮魂祭』
普段は一般人の渡航が一切禁じられているこの島に唯一、出入りが許される日。
最後に開かれたのが確か十年ほど前で。この日のために臨時の観光船が何隻も出航し、船に乗るためのチケットはとてつもない倍率に膨れ上がっていると聞く。
――どうする
カイは懐かしい姉の字に目を伏せながら俯いた。
会いたくないわけではないが、それは許されたことではない。
神様の側近になった者の宿命だ。
だが、姉はそれをずっと気にしているのだろう。
幼い弟の身と引き換えに、自身が大量の富を得たこと。
もちろんそれはカイ自身が選んだことで、姉が心を痛める必要などこれっぽっちもないのだが。
「俺はよ、ちょっと会うくらいなら構わないと思うぜ。…美しい人だった」
人の悩みなど知らないで、好き勝手喋っている男のことは無視しながらカイは考え込む。
姉に会うべきか否か。
――行くか
悩んだ末に、少年は一つの決断を下した。
いくら月日が流れようともその『罪悪感』が姉の心を巣食い続ける限り、今日行かなかったとしても姉はきっとまた会いに来る。
もしその姿を他の誰かに見られたとしたら。
今回話しかけたのがたまたま、このわざとらしく手拭いを目元に当てて涙を流す、無害な男だったから良かったものの次は分からない。
その時、頼ったものが害ある者だったなら。
――抜け出せば良い
幸い神様の近衛の中でも、誰よりもその御身の傍に居ることを許された身。
ペアで行動する業務を割り当てられることもなければ、他の者よりずっと自由が利く立場にある。
――会ってすぐに帰ろう
少年は踵を返すと、足早に寄宿舎へと帰っていった。




