3 神様のお付き
神様のお付きになった人間は『神様を守る』ためだけにその人生を注がなければならない。
有名な話だ。
基礎的な身体の鍛錬から、剣術、弓術。
ありとあらゆる武芸を一日中シバや上官たちより叩き込まれるため、その体は常に、掌にできた肉刺が弾けたり、足の裏の皮は剥けたり、腰にできた打ち身は見るのも嫌になるほど変色したりと至る所で悲鳴が上がるようになる。
そんな過酷な環境に身を委ねながらも、彼らには帰る場所がない。
それこそが、彼らが国民に裏で『神様の手駒』と揶揄される所以だった。
側近となった者たちは万が一にも神様に仇を成す存在に自身の弱みを見せないよう、これまでに紡いできた『縁』、全てを断ち切る必要があるのだ。
これだけ聞けば神様の側近になりたがる者など、どこにもいないように思われるが、もちろんそれ相応の対価はある。
人が一生贅沢しても生きていけるほどの金額が、本人及び家族の元へと支払われる。加えてその身は『神官庁』という東ノ国きっての巨大な組織での預かりとなるため、それなりの身分が保証されるようになる。
才能さえあれば、農民の子であれ、商人の子であれ皆等しくこの仕事に就くことができるため、その先に過酷な日々が待ち受けていようと門を叩く者も少なくない。
親を失った姉弟が生きていくための選択肢は、さほど多くはなかったのだ。
姉はカイが去った後も行方を追っていたそうだが、弟の身が神様の住まう絶海の孤島にあると聞いて、為すすべなく連絡を取ることを諦めたと噂で聞いた。
「美人な姉ちゃんだったから、何とかしてやりたかったんだがな」
船から積み荷を降ろしながら、よく日に焼けた男は話す。
港で姉に会ったという男は、食料を買うため露店市場にやって来た見覚えのない少年の姿にピンときたらしい。
「姉ちゃんには弟は元気そうにしてたって伝えておくからよ」
「悪いな」と男から謝罪に、少年は首を横に振った。
「助かります」
実のところ女を一人隠して船に忍ばせること、手紙を持ち込むくらいであればさほど難しいことではない。
けれども補給船に乗り『沖つ国』で商売をするということは、商人たちにとってそれだけで箔が付く、品物の売り上げを二倍、三倍にも変えるという行為になりえる。
それを僅かでも失う可能性がある限り、手を貸すことは難しかったのだろう。
男の話を聞いて正直なところ少年はほっとしていた。
姉にはあまりこちらの世界に立ち入って欲しくはないのだ。
世界には美しいものばかりではないことを、幼いながら少年は気づいていた。
嘘も裏切りも、私欲も。
この光のような景色の裏に数えきれないほど蔓延っている。
『シバ』も言っていた。
この世界で生き残るには何も知らない《《ふり》》をしろと。
「そうしなきゃすぐに死ぬぞ、お前みたいなやつは特にな」
本土よりも星明りがずっと眩しい。
瞼を貫いてくる強い光を浴びながら、カイは意識を深い祈りの中に沈めた。




