6 拝啓、あなたへ
うつらうつらと夢の世界を旅してきたらしい女は、右手に触れる柔らかな温もりに目を覚ました。
「レオ」
濡れた鼻先、揺れる尻尾。零れる鳴き声。
すっかり夜は明けたようだ。
擦り付けてくる小さな頭を撫でながら女は白日の空を仰いだ。
太陽の光を受け、彼女の耳元で揺れる紅のイヤリングが反射する。
『お前、恋をしたことはある?』
女の中では今、霧の中でアンジェリカに投げかけられた言葉が反芻していた。
『月夜見さま』
『月夜見…さま』
『ミツキでいいよ。敬語もいらない』
その人のことを思い出すたびに、胸が苦しくなる。
「ミツキ様」
「だから『様』はいらないよ?」
「それは…どうかご容赦を」
その人のことを思い出すたびに、会いたいと願ってしまう。
「こっちだ、早く!」
「出てくるなよ。ここにいろ」
「待って!カイ」
その後ろ姿を思い出すたびに、たまらない気持ちになる。
『お前、恋をしたことはある?』
「ないよ」
ミツキは呟いた。
――少なくともあれは恋じゃない
彼女はそう思っている。
あれは、それほど美しいものではなくて。
もっと、もっと薄汚れていて。
魂を、縛り付けるためだけだったあれは。
『ミ……ツキ』
――呼ばないで。もうわたしは…君の声すら上手く思い出すことができないのだから
『…げろ』
『逃げろ!』
『あなたはここに居てはいけないんです』
命は廻る。
彼らをおいて。
『彼女』をおいて。
世界は廻る。
「カイ」
今、君はどこにいますか。
この世界のどこかで、生きていますか。
願うならどうか。
どうか。
――君は全部、忘れていて




