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鉄火場の熱に焼かれてはいけない

それからクロノとマガハラはボックスカーが走り去った方角とは逆方向へと駆け出していく。クロノ曰く、彼らは『鬼鋸組』で最近勢いのある構成員達であるらしく、いくつかの拠点を持っているそうだ。そして車の乗り入れ可能な拠点は限られており、大抵の場合は追手を巻く為に大きく迂回して湾岸沿いの拠点へ移動するという読みで先回りするのだが――。



「いねぇじゃねぇか」


「………………あっれー!!?おっかしーなぁ!!?」



道中すれ違ったパトカーから顔を隠しつつ、先回りした拠点となる二階建ての建物に到着した2人であったが、ガレージと見られるシャッターは降りており、建物に明かりはついておらず人の気配もない。



「女でも二言はねぇな?」


「わー!待って待って!まだもうちょい待って!たぶん!いや必ず来るから!!」



クロノのスーツの首根っこを掴みながら、マガハラはさざ波が立つ海へと近づいていく――その直後であった。



「……ん?」



ギャリギャリと激しくアスファルトを擦る音を立てながら、()()ワンボックスカーがこちらへと近づいてくるのをマガハラが察知する。



「キタキタキタキター!!ねねね?ほら!?言ったでしょ!?」


「お前の目は節穴か。つーかサングラス取れ。俺達が逃したのは()()ワンボックスカーだ。あれは白じゃねぇか」


「え゛!?ウソ!!?ほんとだ!?なんでぇ!?」



整備が行き届いていないのか、それとも無茶な運転を繰り返したせいか、けたたましい音と共に白いワンボックスカーは後輪から火花を撒き散らしながら猛スピードで2人の元へと突っ込んでくる。ヒビ割れたフロントガラスから伺える車内には、フルフェイスのヘルメットを被った人間が前傾姿勢でハンドルを握り締めている。



「おー!闘牛士の視点ってこんな感じかー!」


「呑気な事言ってる場合か!()()!!」



止まる気配のない白い鉄の闘牛は2人を撥ね飛ばさんと最短最速で迫り来る。背後は海、このまま踏みとどまり撥ねられるよりは自ら海に回避するべきと判断したマガハラは海へと飛び込む。


しかしクロノはその場で立ち止まったまま逃げる素振りも見せず、スーツの内側から拳銃を取り出して構え、迷わず引き金を引いた。銃口から放たれた弾丸がヒビ割れたフロントガラスを粉々に粉砕する。しかしその程度で車は止まらない。


クロノは空になった拳銃を仕舞い、続け様にスーツの内側から手榴弾を取り出してみせる。慣れた手つきで安全ピンを引き抜き、レバーを握り締めた状態でそのまま両手を頭上より高く上げて大きく振りかぶる。



「ピッチャー振りかぶって――――――投・げ・ま・し・たぁぁぁぁ!!」



張り詰めた弓から放たれた矢のように投げられた手榴弾は一直線の軌跡を描いて白いワンボックスカーの車内へと転がり込む。車内の人物は慌ててハンドルを切るも時既に遅し。真っ暗な車内に入り込んだ手榴弾の居場所を短時間で特定して放り出す時間などなく、ほどなくして炸裂。


爆発音と同時に弾け飛ぶ扉。燃え上がる車体。間一髪で車外に飛び出すも、爆風の煽りを受けてフルフェイスの搭乗者は地面に打ち付けられながら転がった。フルフェイスの下は上下黒のジャージ姿であり、小柄な体躯であった。



「車はお金になるけど、あーんなギャリギャリうるさいのはいらないんだよねぇー。それに海に飛んだらせっかくの一張羅が台無しになっちゃう!おーい!だいじょーぶー?」


「…………」



海に飛び込んだマガハラに向けて声をかけるクロノ。しかし海に飛び込んだはずのマガハラからの返事はなく、不満そうな顰めっ面が海面から顔をのぞかせているだけであった。


「私が突き落としたわけじゃないけど結果的に落ちたのでヨシ!私の勝ち!!さてさて、それじゃあ襲撃者さん――――わぁ!!?あっぶないなぁもう!?」



素っ頓狂な声をあげるクロノ。少し目を離した瞬間、フルフェイスの襲撃者はなんとか地面から立ち上がり、所持していた銃をクロノに向けて発砲したのだが、狙いが定まらないのか放たれた弾丸はクロノの髪を掠めて後方へと飛んでいく。



「とりあえずどこの誰かさんかな?私だけ素顔晒して、そっちは正体明かさないのはフェアじゃなくない?」



丸腰のまま、フルフェイスの人物へと近づいていくクロノ。残り1発しかなかった拳銃は使用不可、虎の子だった手榴弾は使用済み。背中に隠した脇差は刃がかけていて無理すれば折れかねない。実は割と危機的状況であるのだが、それでも彼女は余裕の笑みを浮かべたままゆっくりと歩を進める。



「――ッ!」



フルフェイスの人物は車外へ無理に飛び出した為か、あらぬ方向に曲がったせいで片手が使えないようだ。大型口径の拳銃を無事な右手で放つも照準はブレまくり、弾はクロノを素通りしていく。



「んー、骨が折れても叫んでいないならプレイヤーかな? NPCだったら大半は絶叫するかのたうち回ってるはずだし」



五感や物理法則を完全再現している『ゴロポン』ではあるが、痛覚に関しては一定ダメージを越えた場合はリアルに悪影響を及ぼしかねない為、運営の既定値を越えた場合はシステム側で強制的に無痛状態になるようになっている。


ただし、転倒での顔面強打や角に足の小指をぶつけた際の比較的小さな痛みなどは疑似再現している。顔面強打を小さな痛みに分類する運営の匙加減はどうかと思う所ではあるが、これもリアルで恐怖心を麻痺させない為の仕様である為、欠かせない痛みとなっている。



「まぁとりあえず――よいしょっと」



両者互いに手の届く範囲にまで近づいたクロノは、まるで落ちた物を手に取るくらいの気軽さで音もなくフルフェイスの人物が差し向けた銃を掠め取ってみせる。



「――!?ッ!!?」


「おー?いい銃持ってるねぇー。初期装備だけど手入れもしっかりしてるしお金になりそう!……いや?使ってないだけかな?ま、いいや他に何か金目になりそうなのある?あるなら見逃してあげてもいいけど?このゲーム、リスポーンないから全部パーになるのはイヤでしょ?」



大勢は決した。奪い取った銃口をフルフェイスのシールド部分に押し当てながら、喜色満面の笑顔を貼り付けてクロノは問い掛ける。『ゴロポン』にリスポーン機能はなく、HPが0になった時点でプレイヤーデータは消去され、積み重ねてきた経験はすべて水の泡となる。


新しくアカウントを作り直す事自体は可能ではあるが、今までプレイして入手したアイテムの所有権は全て放棄され、ランカーであれば称号も剥奪されて獲得したスコアもゼロとなる。



「死んでの長者より生きての貧乏って言うし、ほらほら命乞いするなら早い方がいいよ?この爆発炎上っぷりじゃあお巡りさんも駆けつけちゃうだろうしさ」



グリグリと、銃口をシールドに押し当てながらクロノは続ける。しかしフルフェイスの人物は怯まない。



「――……ン……が……!」


「……うん?なーに?聞こえないよ?」


「…………アンタが昨日賭場で負けたせいでこっちは素寒貧なの!!それが最後よ!!」


「うひゃぁ!?うるさぁ!?え?なになに?賭場!?負け!?私のせい!?」



フルフェイスの人物は突きつけられた銃口を右手で掴むと強引にクロノから奪い返し、癇癪を起こした子供のようにそのまま地面へと叩きつけた。想定外の反論と反抗にクロノも理解が追いつかずにパニックになる。



「賭場よ賭場!!破竹の連勝続きでオッズ1.5倍になってたから乗ったのに負けるなんて!!もうホントに信じらんない!全財産ぶち込んだのにアンタが負けたせいで全部パーよ!!なんであそこで負けれるワケ!?」



金切り声を上げてクロノを糾弾するフルフェイスの人物は、勢い任せにヘルメットを脱いだ。フルフェイスの中から現れたのはツリ目でベビーフェイスの黒髪の女であった。女の名はセン。本名は千堂(せんどう)光莉(ひかり)。センは脱いだヘルメットを思い切りクロノの胸元を目掛けて叩きつける。



「へぼぁ!?」



本調子のクロノであれば容易く回避出来ていたであろう一撃は、混乱が重ね掛けされたクロノの不覚を取るには十分だったようで容赦のない一撃が直撃する。クロノが纏うスーツは耐久性に優れており、肉体的ダメージとしては極微量。だが精神的ダメージは甚大であった。

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― 新着の感想 ―
プレイヤー死亡時にプレイヤーデータ消えるのはともかくアカウント消えるのはさすがにすごく萎えないか、作り直すのもリアルの金銭が絡むと結構面倒だし
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