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黒薔薇のクロノと銀狼


「なんだなんだ!『嶽之湖組』も大したことねぇなぁ!!オラ!!」



黒混じりの金髪オールバックでマスクをつけたこの場における『鬼鋸組』の指揮を取る大柄な男がナイフで『嶽之湖組』の舎弟(NPC)であるハヤシに斬りかかろうと大きく振りかぶる。



「往生せいやァ!!!」


「くっ!?まず――」



振りかざした凶刃がハヤシの身体を貫かんとしたその刹那、それは天から降り注いだ。




「――――――ひっさーつ!!五点接地ぃぃぃぃ!!」




「んがぁぁ!!?!?」


「タケシさん!!?」


「アニキ!!?」


「わぁぁぁ!!?」



突如空から降り注いだのは殺伐とした場には似つかわしくない、溌剌とした女の声であった。大柄な男の背中を目掛け、隕石のように文字通り墜落した(クロノ)は身体を捻りながら足裏から着地すると、その勢いを五箇所に分散させながら地面を転がる。



そしてその声の主に、ハヤシは心当たりがあった。



「……ク、クロノの姐御!?ど、どこから!!?てか、え!?そ、空から降ってきたんスか!!?」



人間のようなリアクションを見せるが中身は高性能な人工知能であるNPCのハヤシが、窮地を救ったクロノの元へを駆け寄る。



「兄貴!!兄貴しっかりしてくだせぇ!!」


「ダメだ!!完全に気を失っちまってる!!おい誰か急いで車回せ!!」


「う、ウッス!!」



一方で『鬼鋸組』の面々はクロノに蹴り飛ばされた大柄な男の元へと詰め寄って抱き起こすも、完全に伸びてしまっていた。



「うへ~イテテ、若干ミスっちった。……おー?ハヤシん無事ー?生きてるー?」


「か、間一髪って所だったッスけど、それよりなんでここにクロノの姐御が!?てか若頭補佐がわざわざ出張ってこなくても!?」


「いやー、たまたま上から見てたんだけど、先に手を出したのは()()()()()だし、私らのかわいい家族がやられたのを黙って見てるなんて、……ねぇ?()()()はちゃんと即日返済でなきゃ!」



カエシ、というのは敵対組織から攻撃を受けた際に行う報復の事であり、この『ゴロポン』においてカエシはスコアにボーナスがつく仕様となっている為、ランカー上位を狙う者にとっては欠かせない稼ぎイベントなのである。


このカエシになる争い事はランダム発生の為、クロノとマガハラが屋上に居たのは、その狩り場を逃さない為であった。



「えーっと、やられたのは3人ね?よしよし、あとはクロノお姉さんにまっかせなさーい!ハヤシんはみんな連れて事務所に帰ってて!騒ぎ聞きつけたサツにパクられる前にね!」


「あっ、えっ……はっ、ハイ!!オイしっかりしろ!立てるか!?」


「…………ううっ、……は、ハヤシさん……っ」



倒れた仲間を抱きかかえて、ハヤシ達は蜘蛛の子を散らすように去っていく。それに反比例するかのように遠方から鳴り響くサイレンの音は次第にこちらへと近づいてくる。神寿区花吹町の治安を守る警察は、プレイヤーやNPC達が揉め事を起こした現場へ一定時間後に出現するようになっていた。


問題を起こした者は直接現場を抑えられた時点で御用となる。『ゴロポン』は防犯カメラが普及していない時代設定の世界観の為、防犯カメラの映像から逮捕されるという事はない。それ故に、現場から逃げ切れるのであればどんな罪を犯しても逮捕されないのだ。



「よしよし、()()()()()()()()3()()。置いてってもらおっか!」



部下達がこの場から離脱したのを確認したクロノはスーツの内側に手を忍ばせながら、『鬼鋸組』の集団へと近づいていく。カエシでボーナスがつくのはやられた人数と同数まで。この場合、3人までがボーナスの対象となるが、それ以上は逆にマイナスに働く。


極道は筋を通す。やられたらやり返すのが流儀。しかしやり過ぎてはいけない。それが暗黙の規則(ルール)



「た、『嶽之湖組』でグラサンかけた金髪の女……!オイオイクソったれ!【黒薔薇のクロノ】か!?なんでンな大物が出しゃばってきやがんだ!?」



ナイフを構えた『鬼鋸組』の男がクロノに向かって吼える。【黒薔薇のクロノ】というのはクロノに付いた異名、二つ名である。ゴロポンの上位ランカーは自身のプレイスタイルに応じて何かしらの異名がつく仕様となっている。



「わー出た()()()()()()()()。私あんまりその呼び方されるの好きじゃないんだよねぇ。長いでしょ【黒薔薇のクロノ】って。どうせ呼ぶなら黒薔薇だけでよくない?」



愚痴をこぼしながら懐に手を入れたまま、ジリジリと距離を詰めていくクロノ。銃か、ナイフ、手榴弾か。彼女が取り出す道具次第で相対する男達の被害は大きく変化する。男の額には緊張による冷汗が浮かぶ。



「(……クソ、なんだ!?何を取り出すつもりだ!?クロノは拳銃(チャカ)をよく使うらしいが、若頭補佐になってからは日本刀(ポン刀)手榴弾(パイナップル)も躊躇いなく使うって話だ!拳銃なら俺が体張ってタケシさんを守れるが、手榴弾だとそうはいかねぇ!まわりも巻き込まれちまう!)」



荒れくれ達が集う街で異名がつくほどの武闘派であるクロノと相対する男の心は、恐怖と畏怖で塗り潰され、構える腕は小刻みに震えていた。



「狼狽えんなシゲ!!こっちは7人であっちは若頭補佐だろうがたった1人だ!フクロにしちまえ――」



「――――1人じゃねぇよ」


「バぁッ!??」


「た、タカオ!?」



クロノの背後から飛んできた観葉植物の入った植木鉢がフードをかぶった男の顔面に直撃し、そのまま後ろへと倒れ込む。低く通る声の主はマガハラであった。



「わーぉなーいす不意打ち!遅かったね!?」


「俺はお前みたいな命知らずの死に急ぎじゃないんでね。階段使ったんだわ。つーかまだ片付けてねぇのかよ。そろそろサツ来ちまうだろ」



クロノと並ぶように現れたマガハラの姿を見るや、『鬼鋸組』の男達はどよめきたつ。



「ほ、頬に傷のある銀髪……て、テメェは【銀狼】!?」


「【銀狼】!?最近『嶽之湖組』の若頭補佐に昇進したっつー【銀狼】か!?」


「単身でウチの若衆15人を病院送りにしたあの【銀狼】!!?じょ、冗談じゃねぇぞ!?なんだって若頭補佐が揃ってつるんでやがんだ!?」



「……ねーなんで君の異名は【銀狼】だけなの?」


「知るか。お前の場合は事ある毎にベラベラ自分の名前を名乗ってたとかじゃねぇのか?」


「えー?そんなこと………………あるねぇ!?」


「心当たりあんなら自重するこったな、()()()()()()()()さん」


「んが~!」



繰り返すが、『ゴロポン』の上位ランカーは自身のプレイスタイルに応じて何かしらの異名がつく仕様となっている。自ら名乗りを上げたり、周囲のNPCから慕われる場合も異名に影響を及ぼすのである。


部下の窮地を何度も救い、銃で襲ってきた敵を何度も血祭りにあげた事からクロノの異名は決定した。一方でマガハラの異名である銀は銀髪、狼は群れる事なく単独でプレイする事からきている。


にも関わらず基本ソロで活動するマガハラとクロノが現在行動を共にしているのには()()()()()があるのだが、それは今回は割愛とする。



「さて、カエシは……って、なんだよ、もう1人やってたのか」


「ふっふっふー!必殺の五点接地で倒してやりましたよ!」


「緊急時の着地方法を必殺技にしてんじゃねぇよ。……まあいい、そんじゃあと1人か。どいつをやる?」



拳の具合を確かめるように、指の関節をパキパキと鳴らしながらクロノへと問い掛けるマガハラ。問われたクロノはサングラスを少しずらして品定めをするように『鬼鋸組』の面々を見る。



「んー、換金性高そうな子!」


「ならあの首から金のアクセぶらさげてるヤツだな。このゲームでパチモンの金のアクセは存在しねぇ。売ったらそこそこの金になんだろ」


「ひ、ヒィィ!?」



首からチェーン状の黄金のアクセサリーをぶら下げた鼻ピアスの男が情けない声をあげる。無理もない、町中で人語を話す獰猛な熊2頭に目をつけられたようなモノなのだから。



「よーし!ではカエシのボーナスはマーちゃんに譲ってしんぜよう!代わりに金のアクセサリーは私がもらうね?」


「誰がマーちゃんだ、しばく――ん?」



クロノの軽口に若干の苛立ちをみせたマガハラが、『鬼鋸組』の面々の背後にブレーキ音を響かせながら車が急停止したのを確認する。



「アニキ!!車!!持って(パクって)きました!!」


「ッ!!よくやったケン!!ここはズラかるぞテメーら!!」



倒れた大柄の男を抱えながら、『鬼鋸組』の面々は駆けつけた黒いワンボックスカーに乗り込んでいく。

最後の1人が乗り込むと、勢いよく扉を閉めた男達は車内で中指を立てながら走り去った。



「――チッ!」


「あー!お金が逃げるー!!」


「言ってる場合か!クロノ!タイヤを狙え!!お前ならこの距離でも余裕で狙えるだろ!」


「え!?なんで!?勿体なくない!?」


「ハァ!?何が勿体ないってんだ!?」


()()()()()()()()()()!?パンクして走れなくなったヤツより自走出来る状態の方がぜったい高いよね!?」


「そりゃそうでも逃がしたら元も子もねぇだろうが!」


「それはだいじょーブイ!私はこの辺りの構成員と地形に詳しいからね!!あれがどこに逃げ込むのかは大体予想つく!!湾岸沿いの拠点!そこで間違いないよ!」


「……ならその予想がハズレたら海に突き落とすからな?」


「おーけー!じゃあ予想が当たったら私が突き落とすから覚悟の準備をしといてね?」

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― 新着の感想 ―
クロノの人をカネ袋としてしか見てない感じがすごい好き。 「無理もない、町中で人語を話す獰猛な熊2頭に目をつけられたようなモノなのだから」←この地の文最高www
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