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第十話(4)

 翌日から、俺は普通の登校リズムを取り戻した。

 学校では、竹内が盛大に俺をイジってくれた。修学旅行をフイにした男として、大いに笑ってくれた。事情を知らないクラスメイトにはお世話になった親戚の急病ということにしてあるが、そのシナリオを広めるのにも竹内のイジリは役に立った。嘘を吐くのは気が引けるけど、あの画像のことを話題にしたくはない。

 生徒会室では、いつもと変わらず真白が接してくれた。

 昼休みは二人で弁当を食べ、他愛のない会話をした。

 そうして秋が過ぎていく。

 昨今の冬は、なかなかやってこない。ようやく秋めいたと思ったら、唐突に寒くなったのが、十二月も半ば。

 そういえば、真白の誕生日がクリスマスイブだということを二週間前に知った。そんな大事なことをって、莉緒にすごく怒られた。いつもは穏やかな莉緒は、怒るとコワイ。

 イブは真白とお出掛けして、夜は我が家に招いた。母さんがまたおもてなしを張り切った。りこも、不機嫌にはならずに楽しんだのは真白の人徳。

 そう言えば、それより時を巻き戻して十一月下旬。真白は対抗馬なしの信任投票で生徒会長に再選。一ノ瀬蒼司たち三年生の役員が引退し、なんと俺(と他数名)が生徒会長の人事権で生徒会入りした、というのが年末にかけてのトピック。

 修学旅行の一件以来、俺たちの周りを騒がせる事件はなく、季節が過ぎた。




 ◆◇◆◇◆




「えっ、生徒会長たちって、『まだ』なんですか?」

 年明けて新年の一月。三学期が始まって最初の日曜日、私は葉月家を訪れた。

「よう理々香。早かったな。あがれよ」

 葉月先輩は、すっかり私のことを友達感覚で呼ぶようになった。後輩女子というより、竹内先輩に近い感じ。まあいいけど。

「おじゃまします」

 先輩は玄関で私を出迎えてくれたものの、早々に二階に上がってしまう。ちょっと雰囲気が暗いのは気のせい?

 少しくらいは集まりに顔を出せばいいのにと思ったが、なんといっても今日は“女子会”なのだから仕方ないか。

 葉月家の居間に出されたコタツにはまって、会話の熱も温まってきた頃、柚羽から繰り出されたのが冒頭のセリフだ。

「当然じゃないですか。手をつなぐくらいの、清らかな交際です。私たち、未成年ですよ?」

「いやいや、もうすぐ十八歳! 十八はオトナ認定されたわけですし!」

「でもまだ高校生です」

 柚羽のセリフに、冗談なのか分かりづらい発言を返す真白会長。

 彼女は全員を見渡し、いわくありげにリオくんをみた。

 会長の視線の先は、私の隣でおこたに嵌まるリオくんが居て 「まだなんだ……」 なんて顔をしている。心なしか、ホッとしているように見えた。

 今日は、“葉月家”生徒会グループの“女子会”。

 参加者は、まず一ノ瀬真白会長。新生徒会で書記になった小倉美帆先輩は、今日は用事があるとかで欠席。多分竹内先輩とデートだ。ついに二人きりのデートにこぎつけたらしい。あとは私こと桐原理々香と杉山柚羽が参加。なぜか私たちも雑用係で生徒会に入ってしまったということが特記事項。

 そして女子会最後のメンバーに、葉月莉緒くん。

 並んだ顔だけを他人が見れば、女子会という言葉に疑問はないだろう。

 が、もちろん皆も知るとおり、リオくんは男の子だ。

 リオくんを今回に誘うのは苦労したけど、男子目線の話も聞きたい、葉月先輩は極端過ぎる、と駄々をこねた。

 そんな顔ぶれで、リアルに葉月家で集合した。広くて、気兼ねなくお喋り出来て、お茶を出してもらえる。

 ついでに、ファミレスとかだとちょっかいを出してくる悪い虫がいるかもしれないが、それも気にしなくていい。

「でも、キスって、いまどき高校生だって普通ですよね」

 柚羽はスナック菓子を口に放り込んで、真白の返答を待った。

「そうかしら」

 意外と早い切り返しに柚羽がラリーを挑む。

「なんなら、その先だって……」

「その先……」

 リオくんが呟いたのを私は聞き逃さなかった。やっぱり男の子だし、興味があるのだろうか。いや、ほんとうにこの少女のような容姿で、このクラスメイトは女子を恋愛対象にしているのだろうか。

「柚羽さんは、キスやその先の経験が?」

 柚羽と真白先輩が、そんな言葉のラリーを繰り返している間、私はリオくんに素直に聞くことにした。

「リオくんは……こんなこと聞いて不愉快だったら言ってね? 女の子が恋愛対象ってことで合ってる?」

 九月の学園祭の一件を読み解くと、そうなる。

「う……ん。学園祭のとき兄さんにも言ったんだけど、本当はよくわからない……。丸尾くんには嘘つくみたいになったけど……でも、あれからいろいろ考えて、たぶん、好きになるなら、女の子だと思う。だって……だ、男子相手に、キ、キスとか想像できない」

 リオくんの告白に、私は体の奥底がきゅっとした。柚羽がこの会話に混ざっていたら、何か言ってくるに違いない。あの子はそういうことに勘が鋭いのだ。

 自分の告白に涙目になったリオくんは、目じりを拭う。

「ごめんね、自分でもはっきりしなくって……でも……」

 と、リオくんが続けそうなので、私は彼に向き直る。すると、リオくんは、はっと我に返ったように口を閉ざした。

「でも……?」

「ううん、なんでもない……」

 何でもないはずがない。リオくんの頬は、メイクでもしたみたいに薄紅色に染まって、素敵な表情だった。ひとめで、恋してるってわかる。

 何を言いかけたのだろう。柚羽なら、『学園祭のときお兄さんに言った』という事は、葉月センパイに誤解されたくない、ということだ、とか言いそうだけど。

 あれ? 柚羽が言いそうなことを想像したら、私はなにか核心を探り当ててしまったのではないか? 恐るべし、柚羽メソッド。

 でも、私には、そのことを踏み込める勇気がなかった。


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