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第八話(5)

「リオくん、いいから、いこう? ちょっとだれか! カウンター代わって!」

 そのとき、私は全く意表を突かれた。

「へえ、なんの画像? 教えてくれよ」

 カウンターに肘をついて、その女子を冷たい目で見ている青陵学園の男子。

「こないだ、中学のバレーの地区予選で会ったよな」

 顔、覚えてるよ。と、その男子、葉月先輩は言った。聞いたことのない、冷たい声だった。

「名前も卒アルで確かめたよ、確か……」

「な、なによ! また私らを悪者扱いするんでしょ!」

「いいから、画像、みせろよ。脅しじゃないってことも、ちゃんと教えてやるから。持ってる画像みせてくれよ」

 リーダーの女は、カウンターを跳びすさるように離れた。

「想像力ないんだな。結構、厳しめのSNS教育とか、法的措置をとる話とか、中学のときしたはずなんだけど……あんた、女子だし、莉緒の事件、直接関係ないはずだろ?」

 踏み込んだ話を葉月先輩がするので驚いた。だが、店の客はいつの間にか柚羽が追い出していて、教室にはスタッフをしていたクラスメイトも数人しかいない。

「こ、こいつのせいで、私の知り合いは将来有望って言われてたサッカーを辞めなきゃいけなくなったんだから!」

「どっちが加害者か、忘れてないか」

 腹の底から震えるような、葉月先輩の冷たい怒りを私は感じた。

「え、なに? サッカーがダメになったって? でもそいつが悪いことしたんだろ?」

 いきなり空気を変える軽い声で言ったのは、竹内先輩だ。

「はい、こちら学園祭実行委員ですけど~。ご来場、ありがたいんですけど、残念ですがお引き取りいただこうかなあ」

 竹内先輩は、数人の学園祭実行委員とともに、そのグループを誘導した。これでいいか? という目線を葉月先輩に送っている。葉月先輩も頷いて返していた。

 事情を知ってる竹内先輩は、話が早い。ちょっと、二人がかっこよく見えた。

 それから、私たちはバックヤードでリオくんを休ませた。

「りお、だいじょうぶか? 帰ろっか? よく頑張ったな」

 椅子に座るリオくんに掛ける、葉月先輩の優しい声。きっとこの声は、家族の、リオくんと二人だけの時に出す声なのだ。私たちと話すときは違う、うんと優しい声だった。

「……かえらない。みんなといる、よ」

 リオくんは苦しそうな声で応じた。でも頑張ろうとしている。嘔吐を堪えて、涙をにじませていた。

「そうだよな。えらいな」

 葉月先輩は、リオくんの頭を優しく撫でた。

「理々香、柚羽、りおをたのむよ」

「はい」 「おまかせください!」

 それから、葉月先輩はその場にいたクラスメイト達に、中学時代にリオくんが偏見のせいで心無い扱いを受けたことがあったので、仲良くしてほしいと、頭を下げて騒ぎを謝罪した。

 場の空気に圧倒された一年三組の面々だけど、みんなリオくんとそこそこ仲良くやってた顔ぶれ。よくわからないけど、悪いやつらからクラスメイトを守った、良い方向に状況をクリアできたのだ、と納得したようだ。

「全然大丈夫です、お兄さん! 俺らしっかり弟さん守りますから!」

「そうですよ、莉緒くんいい子だもん!」

 クラスのみんなから、葉月先輩に向けて自然と声が上がる。なんだかうれしかった。

「さ! リオくん、お店はみんなに任せて、学園祭見て回ろうよ!」

 柚羽が元気よく声を掛けた。そうよね。気分を替えなきゃ。




 ◆◇◆◇◆




 莉緒の様子を見に行ってよかった。

 校内を散策しながら思った。

 実行委員をやっている竹内から、いかにも問題を起こしそうな外部来場者が四階に向かっている、と連絡を受けたのだ。

 りこの地区予選で見た顔を確認したとき、嫌悪感は増大した。莉緒は辛そうだった。もっと事前に排除できていれば、楽しい学園祭の思い出を守ってやれたのに。

 スマホで、メッセージを送る。

 “竹内、助かった”

 “今度なんかおごれ”

 小気味のいい返事に笑う。

 さて、あてもなく歩く俺は、自分の教室のある三階は素通り。許せ。何か役割を振られても、精神的余力を使い切ったよ。

 まあ自分のシフトはこなしているし、いいだろ……。

 だが思えば、理々香や柚羽のような友達甲斐ってやつが、俺には足らないんじゃないのか?

 階段を降りようとした俺は、まるで誰かに引き留められたように足を止めて、二年一組の教室を覗く。

「お、葉月じゃねえか。なんか大変だったんだって?」

 何で知ってるんだ? って思ったら、竹内が血気盛んに教室(ここ)から出てったよ、だってさ。

「葉月くん、いま昼担当のメンバーで食べるたこ焼き屋いてるけど、食べてく?」

 なんだか、普通にねぎらいの言葉をもらってしまった。

「あ、ありがとう。大丈夫だ。なんか手伝い、いる?」

「へーきへーき、粉物の店って、やっぱライバル多いから基本ヒマみたいでさー。シフトだけちゃんとこなせばオッケーみたいだぜ」

「さんきゅうね!」

 この時間、店番をやってるのはクラスメイト男女二人。客も少ない。かえって邪魔しちゃってるみたいで、俺は退散した。なんか、雰囲気が、ね。ぽやっとしているというか。夫婦でやってるたこ焼き屋さんみたい。

 でも、声を掛けてよかったな。

 改めて、階段を下りる。

 校舎を出て、屋台の並びで、ちゃんとドリップしたコーヒーを買うと、校舎の中に戻る。

 校外からの来場者は入れないエリアで、床にだらしなく座って、紙コップに口をつけた。

 うん、孤独を愛するタイプの俺のような人間には、学園祭は休憩できる場所が少ないようだ。

 紙コップ一杯分のコーヒーを、ゆっくり飲み干すくらいの時間は、じっくりと休憩しようと思ってたんだけど、どうやら今日の俺はツイてない。

 いや、目撃してしまったんだよ。

 井出がそろっと職員室に入っていくのと、それをこっそりと窺う女子生徒を。


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