第八話(4)
「超ウケる、なにそれー」
耳障りな、甲高い嘲笑としか聞こえない声。
何を勘違いしているのか。大きな声は自己アピール。かわいい自分を見て、と喧伝しているのだ。
昼時というには少し早い時間のことだ。
校門から入ってきたその一団は、昇降口の脇を抜けて、学園祭の為に設えられた通路を抜けて会場へと向かうところだった。
ところどころに、屋外展示や露店が出ている。
「でもさー、青陵の学園祭ってすごいって聞いてたけど、意外とフツーじゃない?」
そんなことを大きな声でしゃべっていれば、私を含め、在校生はいい気はしない。どこまでも勘違いした上から目線。
高校デビューをこじらせたような、派手めなコーディネートの一団だった。
制服でもなければ、校内の何かの催しの衣装でもない。外部から来た中高生、おそらくはやはり高校生だ。
男女が混じったその一団が、私の方に向かってくる。まあ、動線は限られるし。
「あ♡ すみませーん。どこか飲み物のお店ありますかあ? おしゃれなお店がいいなあ」
軽い嫌悪のまなざしで見ていたつもりだけど、鈍いのか、その他校の女子高生は、私に声を掛けてきた。
いや、疑問の余地が残る。
私は改めて周囲を確認した。人あたりのよさそうな猫をかぶった柚羽も居なければ、宗教の勧誘につかまりそうなお人好しの葉月先輩もいない。うん、この女子はやはり鈍感なのだ。それとも、私の嫌悪感が顔に出ていなかっただけなのか。最近、まともな人付き合いスキルを獲得したから。
まあいい。どうせなら自分のクラスを宣伝しておこう。
「四階ですけど、一年三組でフルーツジュースショップやってますよ」
クラスメイトには悪いけど、この女から小遣いむしり取ってやって。そのくらいのつもりで私は言った。
「えー、四階かあ。せめて案内してくださいよう。そしたら絶対なにか買いますからぁ」
仕方ない。私は最大限、嫌そうな顔をしたのだけれど、通じなかったみたいだ。
「どうぞ」
私は、愛校精神を発揮して丁寧な案内役の仮面を被った。その間、つまらない自慢話と、無意味に女子を褒め囃す男子のセリフにうんざりとしながら歩く。
往来の多い階段を横いっぱいに広がって、前から人が来ても避けもしない集団。ああ、うちのクラスを勧めるなんて、とんだ失態だ。
「みんな、お客様、五名様よ」
教室に到着して、私は中に声を掛けた。
「あ、理々香、お帰りなさい」
カウンターに立つのは、バーテンダー衣装で決めたリオくんだった。いらっしゃいませ、と店内からメイド服のクラスメイトが声を掛ける。
「きゃー! 葉月くんじゃん!」
一番うるさいリーダーの女子が叫ぶ。もう金切り声だ。
「なになに? バーテンさんも店員さんもかわいいじゃーん!」
グループの男子たちも色めき立った。リーダーの女子が騒ぐから反応する、という滑稽な条件反射だ。
そのとき、私は自分の本当の意味での失態を悟った。だって見るからに明らかだ。リオくんの表情が急激に曇った。
「ちょっと、葉月莉緒くんはれっきとした男子なの! ワケアリだけど!」
「なんだよ、ワケアリって」
「ひみつだよねー」
リーダーの女子が無邪気を装って、リオくんに言う。
こいつ、リオくんと同中だ。私は悟った。リオくんの秘密を勝手に騒ぎ立てる輩。
私の肌がゾワリと粟立って、敵だと即断した。
「なんだよソレ、教えろってえ」
「えー、あとで、内緒で教えてあげるね」
(コイツ……!)
私は怒りに顔をゆがめた。リオくんの重大な秘密を、軽々しく……!
“あたしが守ってあげてる秘密は、あたしの判断で広めてもいいの”っていう輩だ。
リオくんが、青い顔をしながら、騒がしいこの一団の注文を取っている。どうしよう、私のせいだ。こいつらを案内したばっかりに。
「リ、リオくん、私カウンター代わるから……!」
私はカウンターに入ってリオくんの手を引く。だが、その女子の一言がリオくんをその場に釘付けにした。
「ねえ、葉月くん、私あの画像、まだ持ってるよ? あの写真、すごい綺麗だよね。ほんと、葉月くん、すっごくかわいくなったしさあ、また仲良くやろうよ」
「う……嘘だよ、あんな写真がきれいだなんて、僕思わない」
(先輩、葉月先輩!)
それは私の心の中の悲鳴だった。もう、何か外的要因がないと解決できない。こういう時、どうすればいい? 先輩なら、乗り越えてきた経験があるはずだ。
「リオくん、いこう!」
改めて、私はリオくんの手を引いた。でもリオくんは、今度は自らの意思で動かなかった。
「それに、あの画像は処分したほうがいいよ。大変なことになるから……」
リオくんは自分の意思で戦おうとしているのだ。
「えー? だって、あれってただの脅しだよね。子供が悪いことしないように、大人が子供をビビらせるやつでしょ?」
全然怖くないし、とリーダーの女子は言った。あれだけ喧しかったくせに、悪事には声を潜めるのか。こいつは。
「そうそう、いまもあの画像、あるわよ?」
そいつは、そういってスマホを操作し始めた。
「あんなのさ、消せって言われて、ハイ消しましたーって言っときゃいいわけじゃん?」
リオくんの呼吸が、速くなっていくのがわかる。すごい汗だ。リオくんは、口元を押さえて嘔吐を堪える様子を見せた。もう限界なのだ。




