第八話(3)
学園祭は二日目の日曜を迎えた。初日はオープニング、今日は学校外からの来場が多くなり、いよいよ本番という雰囲気だ。
初日は、莉緒とはあれっきり会えず、真白の場合は声を聴けども姿は見えず。どうやらあちこちに引っ張りだこらしい。さすが会長様。
「葉月センパイ」
俺はこれまであまり二人だけで絡むことの無かった杉山柚羽と、一年三組で面と向かっていた。なんてことはない、柚羽がクラスの当番で、メイドの衣装で売り子をしていたのだ。
「真白先輩の放送、聞きましたよ~。センパイも聞きましたよね?」
共通の話題は少ないのをものともせず柚羽はぐぐい、っと踏み込んできた。
俺は初日にたこ焼きを買ってくれた礼に、一年三組のフルーツドリンクを奮発して購入すると、それをちびりと飲みながら頷いた。
「その後、会長とはお会いになりましたぁ?」
「い、いや。会ってないよ」
「ですよねえ、お忙しいですもんね。あんな言葉を放送に乗せられて、募る想いもおありでしょう~?」
なんなんだ。ストロベリークラッシュミルクジュースはうまいけど、とんでもない店番のときに来てしまった。
「そこでですね、一年六組がやってる、
『グラウンドで叫べ、お前の言いたいことを! ためてるものを吐き出せYO』
に、参加しませんかぁ?」
柚羽が窓の外を指さす。
全クラスの窓から完全に見下ろせる位置に、簡素なステージが組まれている。
ステージに据え置かれたスピーカーが各クラスの窓とグラウンドに向けられて、司会進行の声を届けていた。
「あ、ちょうどやっちゃうみたい」
なにをやるのだろう。柚羽がステージに注目するので、俺も倣った。
ステージには、緊張の面持ちで立つ女の子。モニターにまでアップで映し出されている。
「「いいいい、い、っち年六組の、嶌田加代、です!」」
『加代ちゃん頑張ってー!』
周囲から声援が入る。
「柚羽よ、あれって……」
「一年六組の出し物、まあよくある好き勝手な内容を叫ぶやつです。テレビの真似して、うちわで盛り上がって企画しちゃったらしいんですけど、まあ、ああいうのって画面にテロップが入ったり、芸能人がうまいから盛り上がるんで。昨日も参加者ほとんどいなくて、シラケてたんですよね。そこで、学園祭実行委員の嶌田加代ちゃんがのせられて」
ふーん。それはごくろうさま。
「「す、好きです!!」」
限界まで張り詰めた緊張で、嶌田さんは叫んだ。ほんとに言っちゃうのか? と待ち構えていたサクラと、野次馬からどよめく。
『だれが~?』 「「さ、里中センパイです!」」
えらい! よく言った! そんな先輩やら同級生やら、冷やかし込みの歓声が上がった。
と、そこへ都合よく里中センパイとやらがステージに現れて、嶌田さんはへなへなとへたり込んでいた。
だけど、里中センパイ……いや、二年か? 里中は後輩の嶌田さんの手を取って立たせてあげると、マイクを取って叫んだ。
「「俺も好きです!」」
うそか本当か知らないけれど、里中という男子は嶌田さんの名誉を守ったんだな、と俺は感じた。
指笛とキッスコールまで始まっていたが、さすがにキスはなかった。大した盛り上がりだ。
「葉月センパイって、里中先輩が嶌田ちゃんをホントに好きかどうか、疑うタイプですよね」
柚羽は、ひょっとして理々香より侮れないタイプか。
つまりこういうことだ。里中先輩が嶌田さんの名誉を守るためにあの場に飛び込んだ。もしくは、そもそもこの一連の流れ全体が仕込みだった。確かに、そういう可能性もあるなと、頭の中では思っている。
「ま、それはさておき、どうですかぁ? 真白会長へのアンサー的な叫びを、あれで届けるっていうのは。きっと、真白会長みたいな、うぶな女性はイチころですよ」
俺はストロベリークラッシュミルクを一気に飲み干し、氷をがりがりと噛んだ。
「ナマゆうんじゃありません」
真白は、はたから見れば大人な雰囲気だが、それをうぶだと見抜くあたりが、柚羽は別次元で“女の子”してる。
俺は場所を変えてふらついていた。先ほど窓から見下ろしたグラウンド周りも歩いてみる。
嶌田加代さんと里中二年生のおかげか、グラウンドの方は盛況感が出てきた。
告白だけじゃなくて、日頃のうっ憤とか、クラス内で言いづらいことを叫んだり、先生への苦情をわめいたり、内容はまあそんなところだ。
どこの催しも、賑わいを見せているが、そういえば、祭りって一人でふらついても楽しいものではない、というのが持論だ。
いや、そもそも、俺は出歩くのが好きではなかった。
「こいつは盲点だ……」
いつも俺は、りこや莉緒に引っ張られて出掛けてるんだっけ。
去年は、高校一年で誰とも大した付き合いのない頃は、校舎の陰や中庭で時間をつぶしてたな……。
思えば、俺は“あいつら”と大差ないのかもしれない。
廊下を、前から歩いてくる一団が、俺の目に入っていた。
藤原と、それから同じ三年が四人。先頭の藤原が肩に腕を回しているのは、井出だった。
井出は、昨日同様に悪い先輩に連れまわされて困っているのか、仲間としておべんちゃら使っているのか、すれ違いに俺を見てばつの悪そうな顔をした。
「よう、春詩くんじゃねえか」
当然、藤原も俺に気づかないわけがない。
「どうも」 と、つい間抜けな応答をしてしまう。
だが、今は俺に興味がないのか、それだけだった。
まるで、地球に衝突するといわれた隕石が、ぶつからずに素通りしたみたい。
息を抜く。




