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第八話 学園祭 I (1)

 夏休みが終わると、校内が一気に学園祭に向けた空気に包まれた。

 廊下を歩けば、教室のあちこちから学園祭の話題が聞こえてくる。

 夏休み中の登校日に、それぞれのクラスの出し物とかも決められ、早いクラスはすでに準備に入っているようだ。

 クラスからは再び実行委員が選出されるが、それもすでに決まっていて、体育祭に引き続き小倉美帆と竹内丈生の二人。

 小倉さんは、まあ学級委員だし、面倒見がよくて優秀だしな。竹内は、正直小倉さん狙いなのがバレバレである。が、クラスのみんなも生暖かく見守ってやるくらいには、竹内も人望を持ち合わせていた。

「裏方やるだろ? そうすっと裏事情に通じられて面白いんだよ。そんでな、ちっとばかしケンゲンあるのがまたいいんだって、コレが!」

 ああ、権限ね。竹内、こいつには権力を持たせてはいけない気がする。

 ふたりは早速、意気揚々と生徒会室に向かっていった。

 本日午前、最後の授業は、学園祭準備に割り当てられている。実行委員の二人は生徒会室で会議だが、教室居残りの一般生徒は、各クラスの出し物の準備会議だ。

 学級委員の小倉さんが実行委員として出張っているので、もう一人の学級委員が会議をまとめるのだろう。

 チャイムが鳴る直前、スマホが鳴った。

 “春詩くん、新学期もよろしくお願いします。お昼は、お弁当一緒に食べましょう?”

 “OK” 送信っと。

 そうそう、スマホは夏休み最終日、真白と一緒に買いに行った。花火のお詫びに誘ったのだが、そういえば、初めてデートらしきことをした。長い時間、隣り合わせの窓口で相談しながらそれぞれ機種変更を行い、そのあとは街歩き。あっという間に時間が無くなって、別れ際に旅行土産をやっと渡せた。なんてことのない、キモかわいいというのか、変なキャラクターのキーホルダーなんだけど。

 お土産を選ぶとき莉緒に相談して見せたら、難しい顔をしてたが、真白はどうやら喜んでくれたみたいだ。

 莉緒に報告すると、良かったねと、にこり。にこりの裏でどんな感想を持っていたのか分からないのがちょっとコワイが、結果よければすべてよし、だ。




 チャイムが鳴って昼休み。俺は弁当を持って生徒会室に向かった。竹内と小倉さんが教室に戻ってこないので、会議が紛糾してるのかな?

 と、生徒会室の前で様子を窺うと、声が外まで響いてくる。ちょっと戸を開いて覗いてみた。

「ぜったいミスコンやりましょうよ! 五年前までやってたんでしょ?」

 竹内が意見をぶち上げていた。

「当時の生徒会長が……当時も女子の生徒会長だったみたいだけど、そういうのに潔癖な方だったみたいで、それ以来中止になっています」

 三橋女史が伝え聞く当時の事情を語った。ひょっとしたら、三橋女史は過去の議事録なんかも目を通したことがあるのかもしれない。

「竹内君、別に反対しているわけではないのよ。ただ、昨今ルッキズム問題や、性的搾取なんて言葉もあるわ」

 真白が見解を述べ、次に代案を出した。

「なので、ミスコンと、ミスター女装コンテストを毎年交互に実施しましょう」

「ぜひ今年はミスコンでお願いします」

 竹内が即答して、生徒会室は主に男子の全面支持という拍手で包まれたのだった。




 実行委員会が解散した生徒会室で、俺たちは弁当を広げる。

 真白、一ノ瀬兄、三橋女史、それに加えて竹内と小倉美帆が今日は加わっていた。

「そういえば葉月」

 一ノ瀬蒼司がきれいな箸使いで食事を口に運ぶ、その手を止めて珍しく口を開いた。

「最近、藤原とはなにか接触はあるか」

 この場にいない桐原理々香の話によると、井出と丸尾が衝突した際、居合わせた藤原先輩に、井出が持っていた“画像”の存在を知られてしまったようだ。不良グループのリーダー格である藤原に関する、俺の中での問題点はそれだが、一ノ瀬兄がこのことを知っているかは疑問だ。

「特に、ありませんね。体育祭とか球技大会とか、顔を合わせると目の仇にされますけど」

 藤原に顔と名前を認識されたのは、平和な学校生活を送る上では大いにマイナスだった。

 だが、そういえば、藤原との最初のいざこざのおかげで竹内と打ち解けることができたわけだ。しかしそれは言わないぞ、俺はな。

「まあ、その藤原のおかげで俺と春詩が仲良くなったんだよな!」

 代わりに竹内が宣言する。ああ、こいつは案外、純真無垢なのかもしれない。

 一ノ瀬蒼司は竹内の発言を、風格をもって聞き流して思慮する様子。

「弟のほうは、大丈夫か」

 一ノ瀬兄は、熟慮の末、その言葉を発した。その莉緒への気遣いは、やはり事情を知るもののそれなのだろうか。

「莉緒は、問題ありません。俺がちゃんと守ります」

 いままでだって、そうしてきた。他人に何がわかるというのだ。

 俺の軽い苛立ちを察したのか、真白が会話を継ぐ。

「莉緒くんは、やはり目立ちますし……藤原先輩の目が向くのも、良いことではないでしょう」

 真白の言葉を補強するように三橋先輩が続けた。

「葉月莉緒さんは、三年でも有名です。去年は真白会長の噂で持ち切りでしたけど、今年の注目は間違いなく莉緒さんですから、会長のおっしゃる通り目立ちますね」

 三年生の間での一般的な風聞は分かった。であるなら、警戒すべきだ。

 でも、なんなのだ。

 みんな、たぶん莉緒を気にかけてくれている。嘘みたいだ。きっと、いろいろ陰で手を回す大人たちがいるのだろう。ひょっとしたら、父さんの意思も含まれるのかも。みんなそれを隠すように、気遣っている。

 蚊帳の外にいる自分の無力さを感じるけれど、莉緒が守れるのなら、それでいい。それでいいはずだ。

「まあ、それはさておき、ミスコンやるんですか?」

 俺は話題の転換を提案した。

 生徒会の面々は、顔を見合わせて、目線で意見をすり合わせた、のかどうかは分からないけど、真白が言った。

「そうね。モチベーションの高い人に担当してもらおうかしら」

「任せてください!」

 竹内が元気よく挙手して起立した。


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