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ただのモブ(大嘘)がTSした原作主人公の代わりに逆転世界で頑張る話 ―女性特効ラスボスは俺が倒す―  作者: つくもいつき
1年目春 過去からの刃編

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第62話 聖女候補




 小教会〈聖滴の庵〉の正門をくぐると、靴底から石の冷えがじわりと上がってきた。

 雨筋が教会の白壁を細く濡らし、軒下には乾いた麻布と聖香の匂いがこもっている。

 前庭を歩く途中。

 俺は昨晩投げかけられた母の言葉を思い起こした。



『──なら好きになさい。その小娘に(くみ)することで、商会にそれだけの見返りが見込めるならね。教国と揉めても結構』



『ありがとう、母さ……』



『──で、手打ちに人が必要になったら、誰を出すつもり? ベルノ? ネリス? プラム? ……自分とかバカなこと言い出すなら、いまここで半殺しにしてやるわ』



 傘を握る手が強まる。自然と息が詰まった。

 顔に出さずとも、マリーには気取られたようで、隣の傘から彼女は俺の顔を覗き込んでいる。



「モブ様?」



「ん? どうした?」



「いえ、お顔が優れぬような……」



「問題ないよ」



 前世の道徳は商会の論理に鍛えられるうちにすり減っていった。

 それでもまだ、心のうちで種火のようにくすぶり、俺に人を数字で見るなと訴えかける。



『あなたはもう、商会の幹よ。マーケッタとの繋ぎであり、魔導板帳事業の根幹。幹を差し出す計画を、商会の計画とは呼ばないわ。──いい加減学びなさい、モブ』



(……きっと勝つ。勝って、全部いい方向に持っていってやる──)



 俺は何でもないようにマリーに微笑んで見せる。

 内心を気取らぬよう、傘を傾け、そのまま俺は小教会の前庭を進んだ。





 聖堂区と南門詰所の時鐘が、重なったように届く。九回、鐘の音は響いた。

 俺たちは臨時受付の木箱を抱えていた男修道士に会釈をする。

 彼はこちらに気づいて、扉側へ身を引いた。



 俺たちはそのまま扉を開け、受付へ入る。

 外の雨音が厚い木扉に遮られ、代わりに低い祈り声と、床板を踏む小さな足音が耳に届いた。

 入口正面には小さな受付台。その奥に礼拝堂がまっすぐ伸び、左右に並んだ長椅子の先、段を上がった祭壇で女神像が白く灯りを受けている。



「ごめんください」



 マリーが入口から受付台に座るシスターに声をかける。

 茶色い髪を後ろでまとめたシスターが軽く頭を下げた。



「マリーさん、今日も雨の中ありがとうございます」



 ディアナ・フェル。マリーより4つ上の若手シスターと聞いている。

 マリーが小さく息を整え、青の僧衣の裾を押さえながら丁寧に頭を下げる。マリーの腕には、傘と、乾燥薬草の束と、封をした貨幣袋が抱えられていた。



「女神の恵みに感謝を。ディアナさん、今日は少し早めに参りました。こちら、寄進品と施療布の追加です。それから、記録局へ回していただくいつもの封書も」



 そう言いながら、マリーが後ろに控えるカーラに視線を向ける。カーラが抱えている小箱には、白く畳まれた施療布が詰められていた。



「ええ、いつもありがとうございます。封書の分は奥の部屋で確認しますね。巡礼準備で少し散らかっていますけれど」



 ディアナはそう言って、受付台の横に置かれた細い木札へ手を伸ばした。

 ディアナがちらりと目を向けた先、入口の右手には装備預かりの棚があった。細い木札が何枚も掛けられている。雨具用の布、封をした小箱、巡礼者の携帯袋らしき革袋が、番号札ごとに整えられていた。



 ディアナが俺とカーラに向かって尋ねる。



「手荷物はございますか? 教会内での許可なき武装は禁じられているため、武器や携帯袋、薬品類はこちらでお預かりしています」



「大きな荷はありません。寄進品と施療布だけです」



 カーラが小箱を少し持ち上げる。

 俺も腰の金具だけを見せた。いつも括り付けている〈魔法の携帯袋〉は、前庭に入る前にルールルーへ預けてある。

 カーラは灰色の布ケープの前を少し開き、下に水鉄鉱革の胴当てだけを見せた。武器はない。

 ディアナは俺たちの手元と腰回りを目視で確認し、預かる荷がないと分かると、木札をそのまま受付台へ置いた。



 ほんの一瞬、ディアナの視線が俺の顔で止まる。完全な初対面の反応、というわけではなさそうだった。

 小教会のシスターたちが俺の噂をしていたという、昨日のカイウスの言葉が頭をよぎる。

 俺は当たり障りのない笑みを作り、カーラと共に軽く頭を下げる。



「問題ないですね。ご助力、ありがとうございます。それでは奥に案内します」



 ディアナは微笑んで、受付台から出てきた。

 疑われてはいない。念のため後でディアナを〈第四の目〉で見ることを心に留める。



 俺たちはディアナと共に礼拝堂を通る。

 朝の祈りはもう一段落しているらしい。長椅子には、濡れた外套を膝に畳んだ巡礼者が数人残り、祭壇へ向かって静かに指を組んでいた。

 燭台の火は半分ほど落とされている。それでも溶けた蝋と聖香の匂いが、石床の冷えに薄く重なっていた。



 柱際では、若い修道士が祈祷書を閉じ、子供たちに短い聖句を小声で復唱させている。揃いきらない幼い声が、礼拝堂の高い天井に触れて、やわらかく戻ってきた。



 俺たちは礼拝堂左手奥の寄進仕分室へ通される。

 マリーが仕送り手続きを進める間、俺は壁を背に荷物持ちの顔をしながら、礼拝堂内へ目を配った。

 〈第四の目〉を駆使して、俺はカイウスの協力者がいないかを探ることにした。





(特にそれらしい人物はいないな……)



 マリーが仕送り手続きを進めている間、俺はトイレを借りる口実でひとり仕分室を出た。

 見取りは、昨夜ルールルーと確認した通り。

 礼拝堂を横切り、右手側の廊下へ入ったところで、生成りの施療衣に短い外套を羽織ったシスターと目が合った。

 白髪のまじった水色の長髪が火晶ランタンの灯りを透かし、わずかな影を作る。藍めいた瞳が、じっと俺を見上げた。



「すみません。手洗いはどちらでしょうか」



「アイカータさん。お手洗いでしたら、こちらです」



「助かります」



 小教会責任者、フィリア・フィン。

 マリーから名前だけは聞いている。俺の顔を知っていたあたり、向こうも機会をうかがっていたのだろう。



 フィリアに案内されるまま廊下を進む。

 長い通路には相談室、施療室、薬草庫が並ぶ。奥へ行くほど聖香より薬草と水の匂いが強くなった。



 礼拝堂からここまでで、すれ違った修道士とシスターの数は合わせて八人ほど。巡礼者の数は十二人。柱際にいた子どもたちも、変わらずに聖句を繰り返しているだけだ。

 武装している者はいない。

 こちらを過剰に監視している者も見当たらなかった。



「今日はよく、当庵へお越しくださいました」



「マリーさんの付き添いですから」



「それでも、ご足労いただいたことに変わりはありません。こちらです」



 用を済ませてトイレを出ると、フィリアはまだ廊下の脇で待っていた。

 案内でできた短い間合いを逃さず、彼女は口元を押さえ、えくぼを作りながら俺に語りかける。



「シスター・マリーから、あなたのお話はかねがね。ええ、ええ。あの子は、とてもよくあなたのことを話してくださいます」



「……悪い話でないことを祈ります」



「悪い話だなんて。いつか正式にごあいさつをと、思っておりました。聖滴の庵は施療と相談、児童保護を預かる小さな庵です。町の方々とのご縁に支えられておりますので」



 なるほど。寄付の話だ。いきなり生々しい。

 とはいえ責める気にはならない。礼拝堂の柱際にいた子どもたちも、仕分け棚へ積まれていく施療布も、金と手間なしでは維持できない。



「必要な物資の一覧があるなら、マリーさんに渡していただけますか。即答はできませんが、検討します」



「まあ。ありがとうございます。さすが、アイカータの方はお話が早い」



「断っておきますが、商会としての寄進ではありません。あくまで、私個人のものと受け取っていただければ」



「まあ、それはそれは。ありがとうございます。あなたは、立派なお考えをお持ちで。女神もあなたの善き行いを見ておられますよ」



 フィリアが柔らかく笑う。

 俺はフィリアの表情が緩んだのを機に、彼女にマリーやカイウスについて確認することにした。



「マリーさんは、よくこちらへ寄進に来られるのですか?」



「ええ、かなり。冬の終わりにこちらに来てから、当庵はあの子にはずいぶんと世話になっています。近ごろはダンジョン産の食材まで寄進いただいて……。子どもたちもたいそう喜んでおりますよ。先週はラッチクラブのソフトシェルを、みな夢中で頬張っていました」



「それはよかった」



 マリーがダンジョン攻略の取り分でよく食材を希望するのは、このためだったのだろう。俺は納得する。

 さらに踏み込んだ質問を、俺は投げかけた。



「フィリアさんは、彼女の教国への仕送りについて、事情を聞いていますか?」



「……ええ」



 返答までにためらいがあった。

 フィリアが足を止め、俺も足を止める。

 人のいない廊下に、緊張が少しばかり満ちる。



「あの子に仕送りを勧めたのは、私ですから。深いことは聞いてはいません。ただ、教国で迷惑をかけ、それで聖女候補を辞したとは本人からうかがっています。その償いをしたいと、彼女は私に相談してくれました」



「そう、だったんですね」



「……それであの子の罪が消えたなどと、私が軽々しく言えることではありません。けれど、あの子が己の過ちに真摯に向き合っているのは、帳簿と棚を見れば分かります。匿名で仕送りを続け、感謝も得ず影から支えようとするなど、生半可な気持ちではできません」



 言葉は穏やかだった。

 だが、小教会の責任者として、そこだけは譲らない響きがあった。



「先日、教国の聖騎士様も記録を確認されました。礼を失した方ではありませんでしたが……随分と細かく」



「カイウス・オルフェンですか」



「ええ。お名前を出してよいものか迷いましたが、すでにご存じなのですね」



 フィリアは小さく息をつく。



「昨夜、聖騎士様より確認の場として地下堂を使いたいと申し出がありました。詳しいことは聞かされておりません。ですが、立会人もお連れになる、と。私どもとしては、マリーを一方的に責める場にはしないよう、お願いしております」



 聞きたかった情報だ。やはり、場は用意されている。

 俺は廊下の奥へ視線を向けた。地下堂へ降りる階段の前をじっと見つめる。



「ありがとうございます。先に知れて助かりました。立会人については、ご存じありませんか?」



「いえ。どなたをお連れになるかまでは……」



「わかりました。ありがとうございます。……それで、フィリアさん。こちらを」



 俺は手を打っておくことにする。

 実務者としてのフィリアの側面を買ってのことだ。

 外套の内ポケットに忍ばせていた、備えの金貨を一枚取り出す。



 フィリアの目が、わずかに見開かれた。

 息を止める音まで聞こえた気がした。

 俺の指先に挟まれた金貨と俺の顔に、交互に視線が移っている。



「私からの、ささやかな寄付です」



「さ、ささやかだなんて……。どうも、ありがとうございます。間違いなく、記帳させていただきます。それで……」



「お話が早くて、助かります。ふたつ、私のお願いを聞いていただけるなら、今後の支援も前向きに考えようと思います」



 熟練の職人が十二週かけて得る額をちらつかせて、俺はフィリアにお願いをする。



「ひとつは、地下堂を使う前に、中をあらためさせてください。もちろんあなたの立会いのもとで。話し合いの場に余計なものがあれば、困りますからね。安全確認には、私の関係者をふたり呼びます。武器を振り回すためではありません。何もなければ、それで終わりです」



 フィリアの目が細くなる。

 驚きより先に、責任者としての警戒が表情へ浮かんだ。

 俺はその警戒ごと承知して、言葉を続ける。



「もうひとつは、地下堂の確認のあとで、お伝えします」







 地下堂の確認は、短く済ませた。

 階段を下りてすぐに見張り机、手荷物確認の長机、灯り置き場。

 通路右手には、台帳庫、金庫室、奉納品庫、祭具予備庫へ続く施錠扉が並ぶ。

 地下へ降りた目的は別にあるため、いま開けてもらう必要はない。



 地下礼拝堂に入る。先頭を行くフィリアが掲げた、聖素結晶の灯りが部屋を照らす。

 中にあるのは、壁寄せの長椅子と中央の祈祷陣、小祭壇の女神像、聖水瓶、緊急施療寝台くらいだった。昨夜の確認時と変わりはない。人影もなく、特に異常は見当たらない。



「ありがとうございます、中を見させていただいて。特に問題ありませんでした」



 俺がそうフィリアに告げる間、カナメが一度だけ、通路奥の排水溝や換気縦穴へ視線を止める。

 俺はカナメとルールルーに目配せする。ふたりがうなずいた。それで十分だった。



 階段を上る時、俺たちは隊列を変えた。

 先に俺とフィリアが上がる。

 続いて、青絹の小袖をまとったカナメが無言でぴたりとついてくる。

 最後尾にいるはずのルールルーの足音は、ない。



 踊り場の手前で、フィリアがひとつ分の足音がないことに気づいたのか、振り返った。



「あら、ルールルー・プルンさんは?」



 その視線が階段の奥へ向いた一瞬で、カナメがフィリアを追い越す。

 フィリアより先に上がったところで、カナメの輪郭が階段の影の中で揺らいだ。

 青絹の色が沈み、背丈が縮む。(またた)く間に変化していく。

 次に見た時にそこにいたのは、いつものルールルーだった。とんがり帽子を被り直し、ルールルーが小さく声を上げる。



「なにかあった?」



「え? え?」



 フィリアが階上のルールルーを見て目をぱちくりする。

 今度は階下を見た。なにやら、不在のもうひとりを探しているような動きだった。



「和国衣装の子なら、もう上に戻りました。先に行ってると」



「え、ええ。見間違いかしら……」



 苦しい言い訳ではあった。

 それでも、フィリアは階上のルールルーと階下の暗がりを見比べ、最後には小さく首を振った。

 一瞬で人の姿が入れ替わるなど、思いもよらなかっただろう。



 地下階段を上り切り、俺はルールルーと共にフィリアに頭を下げた。

 まだ納得しきれていない彼女に、俺はもうひとつの頼みごとを再度伝える。



「それでは、私たちの話し合いが終わるまで、子どもたちや巡礼者を地下堂の階段口に近づけないでください。若いシスターたちも、できれば礼拝堂側へ。聖騎士による確認が、ただの確認で済まなくなると危ないですからね」



「は、はい。……アイカータさんは、聖騎士様に何かご不安が?」



「そんな大したことではありませんよ。仲間として、マリーさんの身の安全と、当庵の方々が巻き込まれないことを確保したいだけです」



「わかりました。……どうか、穏やかな確認で済みますように」



 フィリアはそう言って、胸元で指を組んだ。

 金貨一枚の寄付と俺の態度、それに普段のマリーの行いのおかげで、フィリアの協力を得ることができたと俺は感じた。

 彼女もまた、日々の生活が壊れないことを望んでいて、俺は安堵する。



 隣のルールルーに俺は目配せする。

 ルールルーは無言でうなずいた。ルールルーの体内に隠していた、俺たちとカナメの分の〈魔法の携帯袋〉は、確認の途中でそれとなく地下礼拝堂に置いてきた。緊急施療寝台の脇に転がしてある。

 いまごろ本物のカナメは、通路奥に潜み、地下礼拝堂の気配を拾っているはずだ。

 必要になれば、ルールルーは通気口から地下へ戻り、カナメと合流できる。



 決戦の準備は、整った。



 俺とフィリアとルールルーが礼拝堂へ戻ると、ちょうど建物の外から鐘の音が十回鳴った。

 厚い木扉が開き、雨の匂いを含んだ冷たい空気が流れ込む。

 燭台の火が細く揺れ、柱際に集められていた子どもたちが一斉に入口を見た。



 唐突に、受付からざわめきが起こる。ディアナの抑えきれない驚きの声が堂内に響いていた。

 ディアナがフィリアの姿を見かけ、小走りで駆けてくる。



 同じく騒ぎを聞きつけ、寄進仕分室からマリーとカーラが顔を出す。

 受付から礼拝堂に現れた人物を見て、マリーの表情が固まっていた。



(あれは……)



 俺も現れた四人組に視線を移す。

 ひとりはカイウス・オルフェン。昨日と同じ聖騎士装備で身を固め、濡れた外套を腕に抱える。

 先頭に立ち、彼は礼拝堂全体に向けて一礼した。雨粒が肩当てから落ち、石床に小さな染みを作る。

 俺のうちで、炎がくすぶり、熱が高まっていく。



 カイウスの半歩後ろには、純白の聖職衣をまとった人物が控えていた。

 その両脇に、女性の聖騎士がふたり、背筋を伸ばして立っている。受付の小さな空間が、急に儀式の場へ塗り替えられたようだった。



 明らかに要人扱いされている女性が、カイウスの背から一歩前へ出た瞬間、俺の胸中は一気に凍り付いた。



 前に俺が彼女の顔を見たのは、地方新聞の記事の上だ。

 来週末から夏の第一週末にかけ、交易都市ミカで巡礼を行う予定である聖女候補のひとり。

 暁光(ぎょうこう)の巫女、セレスティーネ・ルミエールその人が、そこにいた。



「マリー!」



 セレスティーネが駆け出す。

 白い裾が石床をかすめ、青いリボンが弾む。

 マリーは飛び込んでくるセレスティーネを受け止めた。マリーが抱き締め返すより先に、セレスティーネが強く腕を回し、マリーの胸元に頬ずりしている。

 マリーの顔には、明らかに戸惑いの色が浮かんでいた。



 セレスティーネの淡金の長髪がふぁさりと乱れる。

 マリーを見上げる、垂れた薄桜色の瞳の奥には、灯を封じたような金の輪があった。



「マリー、ほんとうにマリーなのね! 久しぶり、会いたかったわ!」



「せ、セレス?」



 セレスティーネは、遠目からでもはっきりとわかるほど、満面の笑みを浮かべていた。

 礼拝堂の誰もが息を潜める中、その笑顔だけが、場違いなほど明るい。



 どうして彼女がここに、と思うよりも前に、カイウスがじっと俺に視線を向ける。

 あちらはあちらで、想定よりも早い俺たちの到着に、戸惑っているような印象を受けた。

 だが、すぐに表情を戻し、こちらの人数と配置を測る目つきになる。



 してやられた。俺はカイウスの狙いを知る。

 聖女候補を立会人化することによる、事態の政治化。

 来週に地方巡礼を控えた渦中の人物による立会い。これ以上ない、爆弾であった。

 俺の脳裏に、母に問われた言葉がこだまする。



『──で、手打ちに人が必要になったら、誰を出すつもり?』



 隣のルールルーが不安げに俺の外套を引いている。

 とんがり帽子のつばの下で、紫水の瞳がわずかに揺れていた。

 はやる心臓の速さに、俺は抗う。

 ルールルーの肩にぽんと手を置いて、俺は「大丈夫だ」と小さく応えた。

 小さな指が、外套からそっと離れていく。



 俺はカイウスから目を逸らさぬまま、外套の影で指先に小さく魔力光を灯す。商会の人間とアリスへ、短く連絡を飛ばした。

 礼拝堂の厳かさが、いやに両肩に圧し掛かった。




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