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ルルイエでのディープワンズと銀の腕の戦いは、未だ続いていた。
倒壊した家々の瓦礫の下から這い出てくる人影が一つ。
ジョルド・カーターだ。
テレキネシスの波に押し潰され、気絶したまま倒れていたジョルドは、あばら骨の折れた痛みに耐えながらも立ち上がる。
「まだだ……! まだ、僕はやれる!!」
立ち上がり、目にしたのは、ディープワンズのテレキネシスによって次々に殺されていく戦闘部隊。
ジョルドは今もクトゥルフと戦い続けているノーデンスや、やられていった仲間のためにも、諦める訳にはいかなかった。
ディープワンズたちは、震える体で立ち上がったジョルドを笑う。
「まだ分からないのか? クトゥルフ様から力を授かった俺たちには、勝てないんだよ。大人しく死んでくれよ。俺たちだって、今まで同じ人間として生きてきたんだ。あんまり心苦しくさせるなって」
「黙れ……! お前たちは敵だ!! 人間を殺して生きる化け物だ!!」
闘う意思を捨てず、雷を放ってテレキネシスを押し返すジョルド。ジョルド一人に狙いを定め、ディープワンズたちは数の暴力に訴え、容赦なくテレキネシスを放った。
多勢に無勢。ジョルドは地面に転がり、迫りくるテレキネシスの波を悔しそうに睨み続けることしかできなかった。
「なんか、前も見た光景だな」
ジョルドの眼前にまで迫っていたテレキネシスの波が、巨大な炎にかき消されていく。
荒々しく逆巻く炎をたなびかせ、男が一人、舞い降りる。
「まさか……!?」
「なにやられてんだ。妹が泣くぞ」
ファイアスターターを構え、炎を踊らせる、復活した荒井純がそこにいた。
「フォマルハウト! 来てくれたのか!」
「ああ。助けてくれてありがとな。さて……」
純はディープワンズたちに向け、威嚇するように炎を巻き起こした。
「おいてめえら! さっさとどっかに行って大人しくしてれば見逃してやる! まだ戦うつもりなら、手加減なしに殺すぞ!」
「はぁああ? 何言ってんだ? お前」
「俺はもう、必要なしにお前らと戦うつもりはない。俺が殺したいのはクトゥルフだけだ。大人しく警告を聞いとけ。これ以上、誰も傷つけるな」
「馬鹿じゃねえのか? んなこと知ったこっちゃねえんだよ!!」
ディープワンズたちがテレキネシスの波を、一斉に純に向かわせた。
純はジョルドを抱え、ブリンクでテレキネシスの波を越え、ディープワンズたちの背後に回る。気づかれる前に、ディープワンズ全員に炎を巻き付かせ、一瞬にして動きを封じた。
「もう、こっちはお前らと同じ戦い方するやつと、一回戦ってんだ。全部見え見えなんだよ」
「こいつ……!」
「フォマルハウト。もう大丈夫だ。自分で立てる」
純がジョルドを下ろし、二人は炎で捕らえたディープワンズたちの処遇を話し合おうとした。
「それで、こいつらはどうする――――」
ジョルドが言い終える前に、“それ”は始まった。
空の向こう。宇宙から降り注ぐ、激しい光。
ノーデンスのクトゥルフに対する“奥の手”が、発動しようとしていた。