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チャカチャカチャッカ!!  作者: 山中一郎
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 世界平和を願い、本気で目指し、夢見ていた少年。荒井純。

 けれどこの世界には、既に彼の想像を遥かに超えた怪物たちが、世界を蝕みつくしていたのだ。

 世界滅亡。

 人間の世界は終わってしまった。世界中の国々の主要都市が消え、ムー大陸に集められた人間を残し、人類は死滅した。

 純の夢は、泡沫の夢と消えたのである。

「なにやってんだ……。てめええええええええええ!!」

 怒りの右拳が、クトゥルフの顔面にぶち込まれた。だが、クトゥルフには何のダメージもない。炎が消えても、火傷一つ負わず、殴られた痛みも全く感じていない様子だ。

 それでも、左腕を掴まれたまま、純はクトゥルフを殴り続けた。

 世界は滅びた。その事実を受け止めきれない少年は、悲しみと虚しさに己が飲み込まれそうになっているのを自覚し、必死に怒りでそれらの感情をぼやけさせなくては、心が壊れてしまいそうだったから。

 何度も、何度も、何度も。純はラバンの姿をしたクトゥルフの顔面を、全力で殴りつける。

 純の体力が切れ、拳を握ることすらできなくなると、クトゥルフはなんの傷もついていない顔で純を嘲笑った。

「お前、一体なにをしている?」

 さしもの純も、今度ばかりは恐怖に背筋を震わせた。クトゥルフの力は、純の想像を遥かに超えていたのだ。その実力差は、絶望的と言う他にない。

「人類の世界は終わり、このクトゥルフによるディープワンズの世界が始まった。最上級超越者の私の頭脳をもって、私がディープワンズを完全に統治する、平和な世界だ。あの外なる神の宝物の存在を知った時は肝が冷えたが、その心配も滞りなく取り除くことができた。さあ、荒井純。終わった世界の守護者よ。残念だったな。お前の役目は終わったのだ。私の手で死ぬがいい。ラバンと同じように」

「ラバン? あの爺さんは自殺したはず……」

「ははっ。実に滑稽だったぞ。ラバンのやつの死にざまは。あっさり自殺などさせるものか。発狂して廃人になるまで、永遠に続く悪夢の中に閉じ込めてやったのよ。ああ、愉快だった。お前にも見せてやりたかったよ」

 頭の中を、ぐるぐるとかき混ぜられるような気持ち悪さを感じた。

 誰もクトゥルフからは逃れられない。ラバンは殺され、純はこれまで友人たちに見張られてきた。そして、エインセルが脅威となり得ることが分かると、クトゥルフは容易く純からエインセルを奪ってみせたのだ。

「感じるか? 深い絶望と恐怖を。それだ。それこそが、ディープワンズや人間が私を崇拝する原動力なのだ。だが、お前を生かしてはおかん」

 クトゥルフが純の左腕を掴む力を強めた。純はクトゥルフから感じる殺気に、恐怖の表情を浮かべる。

「死ね。潰えた夢の欠片を抱いて」

 クトゥルフの手から、冷気が出たのを感じた瞬間、純の全身が完全に凍り付いていた。ブリンクで逃げようと思う時間すらなく。恐怖した表情のまま、純は手も足も出せずにただの氷像にされてしまった。

 クトゥルフが「ふん」と嘲笑し、掴む力を思いきり強め、掴んでいた純の左腕を粉々に砕いてしまう。純の凍った左腕は、ファイアスターターを着けたまま、ごとりと音を立てて地面に転がった。

「――――させるか!!」

 クトゥルフが純を完全に砕こうとする直前、ジョルドがブリンクで純の救難にやって来た。ジョルドはクトゥルフに怒りの目を向けながら、氷像と化した純に手を当て、すぐに純と共にブリンクでルルイエ郊外へ避難した。

「無駄なことを……」

 クトゥルフは背後に気配を感じ、振り返った。そして、豪速で迫りくる巨大な拳を、己の人間サイズの手で受け止めた。

 背後からクトゥルフに殴りかかったのは、ノーデンスだ。

「ノォオオオオデンス。あとはお前を殺せば、障害はなくなるという訳だ」

「クトゥルフ。お前に究極の星辰を渡しはしない。あれを手に入れるのは、この私だ」

「人間を使って、この日までお前も準備を進めていたという訳だ。戦争で傷ついた、その程度の力で私を超えられると思うな」

 人間の姿のクトゥルフが、巨大なノーデンスと相対する姿は、一見、風車に挑む愚者のようにしか見えない。しかし、実際に実力で勝るのは、間違いなくクトゥルフだ。

 ノーデンスは意を決し、目の前に現出させた三叉の槍を手に取って、クトゥルフに挑んだ。



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