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ドリームランドから戻ってきてからの日々は、非常に息苦しい物だった。
ノーデンスが貸し出してくれた夜鬼は、純の家の周りを見張って、正道の護衛をしてくれている。当然、正道は何も知らないが、お陰で純は外を見回って町の様子を探ったり、クトゥグアとコンタクトを取る方法をいろいろ試すことができる。移住することも考えたが、下手に居場所を変えるよりは、銀の腕も知っている今の家にいる方が安全であると判断するに至った。
洋吉の一件で警察が調査に入り、学校は休みになった。様子を見に行った純が警察官に話を聞くと、警察の人間にも、いきなり病気で仕事に来なくなった人が大勢いるとのことだった。
当然、本当の原因は病気ではないのだろう。皆、体が変異しているのを隠しているに違いない。
ディープワンズだと分かっている茜に会いに行く勇気は、純にはなかった。もし、茜を殺さなくてはならなくなったらと考えると、神社へ行く気にはまずなれない。
町中の人がいなくなってしまったのかのような、町の景色。スーパーやコンビニですら店を閉め、遠出しなければ買い物もろくにできなくなってしまった。
そんな日々の中、外の様子を見て回っていた純は、神宮と出くわした。
純は一瞬、「もしや神宮も」と思ったが、神宮の外見に特に変化はないようで、安心した。
「最近、なんだか不気味ですよね……。みんな隠れるように生活してて、見張られてるような気がして、怖いです……。伊須升先輩の事件も、結局よく分からないままだし……。あっ、す、すみません!」
「いや……。気にすんな。洋吉のことは、一応気持ちの整理はついたから。最近、人通り少ないし、テレビも映り悪いし、何が起こってるか分からないから、あんまり出歩かない方がいいぞ」
「はい。ありがとうございます。先輩」
照れながらお礼を言う神宮は、以前の日常のままで。純は落ち着くと共に、少し胸が高鳴った。
『このおっぱいさんとイチャついてる暇はありませんよ! さっさとどっか行きましょう!』
『どっかってどこだよ……』
エインセルは相変わらず神宮に敵意マシマシなご様子だ。なんとなく懐かしい雰囲気に、純は気分よく神宮と話しながら町を歩いた。
「あ、そうだ! 先輩、駅前のクレープ屋さん行ってみません? あそこは今も普通にやってるらしいですよ?」
「へー。行ってみるか。なんか久しぶりに食べるなー。クレープ」
『なーにがクレープですか。食べ物なんてクソ食らえですよ』
エインセルがチャットで毒を吐くのをできるだけ見ないようにして、純は神宮と駅前に向かった。
駅前のクレープ屋が見えてくると、クレープを焼く店主のおじさんが見えた。純と神宮は笑顔で顔を見合わせ、気持ち小走りになった。
「よかった。ほんとにやってましたね、先輩」
「ああ。これでやってなかったら、テンション死んでたな」
純たちが店に近寄ると、クレープ屋の店主は嬉しそうに声を張り上げた。
「いらっしゃい! 全然人来なくて参ってたよ。兄ちゃんたち、なんか買ってって。ほらほら」
「ははっ。神宮、何味食べたい? おごるよ」
「えっ。悪いですよ……」
「いいって。久しぶりに気分いいから。ほれ、選べ選べ」
「じゃ、じゃあ……。えっと、えーと……」
クレープの食品サンプルを神宮が眺める。悩んだ末、彼女が選んだのは、イチゴとバナナが入ったブルーベリーレアチーズクレープという、美味そうでしかない代物だった。
「すみません、先輩……。高いの頼んじゃって……。美味しそうだったから、つい……」
「食べたいの選べばいいって。つーか、美味いなこれ。クリームもカスタードじゃん」
神宮と同じ物を頼んだ純は、期待以上の美味しさのクレープに、神宮と一緒に舌鼓を打つ。一応、食べる前にルイスにもらった機械で毒の有無を調べたが、なんの問題もなく、安心した。
二人は海辺まで歩き、砂浜に座って、穏やかな波の音を聞きながらクレープを食べた。
「先輩。私、最近思うんです……。もしかすると、このまま元の世界に戻らなくなっちゃうんじゃないかって」
突然そんなことを言いだした神宮の目は、寂しそうに海を見つめていた。
物憂げな神宮の横顔は、純の心を甘く締め付ける。純は勇気を出して、隣に座る神宮の手をそっと握った。
「大丈夫。こんなの、今だけだよ。きっとすぐに全部元に戻る。心配すんな」
握られた手の感触に、神宮が頬を染める。純を見つめる神宮の瞳は潤んで、純に必死に何かを訴えかけているかのようだった。
純は神宮の瞳に吸い寄せられる気がした。このまま、唇を彼女と重ねてしまいたい。そんな衝動に襲われた時、神宮の瞳から涙がこぼれた。
「あ……。ご、ごめんなさい。先輩。私、こんなことしてちゃいけないのに……。私、最低……。こんなの、ずるいのに……」
神宮は困惑する純から顔をそらしてしまう。
それから、神宮はずっと泣き続けていた。ただ「ごめんなさい」と。
訳も分からず狼狽える純に向かって。
何故か。何度も。何度も。謝っていた。




