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チャカチャカチャッカ!!  作者: 山中一郎
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 純が神殿を去った後、ノーデンスは神妙な面持ちで、先ほどの会話で吐いた己の“嘘”について想いを巡らせていた。

(ハスターの力は絶大だ。クトゥルフに対して強い効果を発揮するだけではない。恐らく、ハスターの力をあの少年が身にまとえば、それだけで周囲のディープワンズは体が崩壊してしまうだろう。あの少年がそれを知れば、ハスターの力を使うことは決してしなくなってしまう。彼の友人や知人にも、間違いなくディープワンズは大量に存在するのだから)

 そして、そんなノーデンスの“嘘”に、あのハスターも“乗った”のだ。

 ハスターは純に、ディープワンズへの深刻な影響があることを伝えなかった。

 理解しているのだ。ハスターは。そうしなければ、荒井純がハスターの力を使おうとしないことを。クトゥルフを倒すことができなくなってしまうことを。

(許せ。荒井純。犠牲を払わずに勝てるほど、クトゥルフは甘くない。最小限の犠牲で済ませるには、もはや、これしか手段はないのだ。ただし――――)

 ノーデンスは片手で頭を抱えた。彼には分かっていた。クトゥルフという最上級超越者が、どれほど恐ろしい存在かを。

「もしもの時は、私も最後の手段を使わざるを得ないだろうがな……」


 帰りの道案内をしてくれたのは、側近のルイスであった。

 銀の腕本部は迷宮のように入り組んでおり、元の世界に戻るための部屋への道が皆目見当つかず、純が不安になっていた所へルイスが名乗り出てくれたのだ。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はルイス・ダンドルム・リム・ロスティック・ノーマンズ。皆からはルイスと呼ばれています」

「ノーデンスの神さんについてなくていいの?」

「はい。ジョルドが別の仕事を頼まれていましたので、代わりの道案内が必要かと思いまして」

 銀の腕の本部では、来た時と変わらず大勢の人が忙しそうに荷物を運んだり、武具の調整等に勤しんでいる。

「あ! ルイスさん! 頼まれていたセラエノ断章の写し、机の上に置いておきました!」

「ルイスさーん! ディープワンズの潜伏地域、新しいの追加しておきましたー!」

 ルイスは歩きながら、次々と報告にくる構成員たちに「ありがとうございます」と短く答える。

「忙しそうだな」

「時期が時期ですので……。ところで、フォマルハウトさん」

 ルイスが不意に振り返った。後ろ向きに歩いたままで。

「普通に話さない?」

「失礼。今は少しでも時間が惜しいので」

 ルイスは後ろ向きに歩きながら、スーツの中からペンと色紙を取り出した。

「私は子供の頃、ボクシングを習っていました。当時、日本人ボクサーで世界に名を轟かせた選手に憧れていたからです」

 純には、長身だが細身のルイスがボクシングをしている姿が、いまいち想像できなかった。

「まあ、私は勉強の方が向いていると分かって、やめてしまったんですが……。しかし、その選手の試合は全てかかさず観ました。テレビでも、観客席でも」

「はぁ」

「ちなみにこの腕時計、その選手が初めてチャンピオンベルトを獲得した時、審判が着けていた物をオークションで見つけ、落札した物です。どうです? ほら、ここ! ここをよく見て! この汗でできたサビが、当時の審判の緊張感をよく表していると思いませんか!?」

「へぇ」

「私の原点であり、憧れ。英雄。その選手は、フォマルハウト荒井といいます」

「ほぁ!?」

 クソどうでもいいおっさんの昔話が、突然自分の父の話に変わり、純はルイスを二度見した。

「フォマルハウトさん。あなたはフォマルハウト荒井の魂を継ぎし者。私には分かります。銀の腕の調査であなたの素性を調べる前に、私にはあなたがフォマルハウト荒井の血縁者であると確信していました! あなたの勇姿は、お父様のそれにそっくりなのです! 私はこれぞ運命と全身で感じました! あなたはきっと世界を救うお人になる! 間違いありません!!」

『うぇー。この人、なんか気持ち悪い……』

 エインセルの意見に全面的に同意な純だが、ルイスの熱意を止める術が見つからない。

「そういう訳で、この色紙にサインを頂けないでしょうか。よろしければ、お父様にも書いて頂けると幸いです」

「別にいいけど……。親父のもってなると、流石に今日中に渡すのは無理だよ? いつ渡せばいい訳?」

「明日の朝七時にご自宅に伺います。お時間は取らせませんので、ご心配なく。あ、それとこれをどうぞ」

 ルイスは純に小さな機械を渡した。センサーらしき棒と、モニターを備えた機械だ。

「これは?」

「有害物質探知機です。これからは、食事などに毒物などが仕込まれていないか、これで確認するようにしてください。それでは、また明日!」

 そして、次の日。ルイスは本当に純の家にやって来て、純と父のサインが書かれた色紙を受け取り、正道に「ファファファ、大ファンです!!」と声高に告げて握手をし、興奮して訳の分からぬ声を発しながら、どこかへ速足で去っていった。



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