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アメリカでジョルドと共闘した日の晩。純が見た夢は、実に不可思議な物だった。
それはあたかも現実かのような感覚で、純はぼんやりとした意識でいながらも、目の前の玉座に座る存在に対し、はっきりとした緊張感を持っていた。
老齢の巨人。銀色に輝く鋼鉄の左腕を持つ旧き神。ノーデンスである。
「フォマルハウト。お前の夢に入れるのは、恐らくこれが最初で最後だろう。お前がラバンより託されたあの機械には、最上級の超越者が使う精神干渉をも阻害する力があるらしい」
「誰だ……。お前は……」
「私はノーデンス。銀の腕を率いる者なり。お前の夢に顕現できる時間は限られている。早急に要点を伝えよう。クトゥルフに仕える、ディープワンズという超越者たちのことを知っているか?」
「なんだっけ……。本で読んだ気が……」
「カエルや魚類に似た頭部を持つ、人型の怪物だ。昨日捕らえたディープワンズの一人から、重大な情報を聞き出すことができた。フォマルハウト。これだけだ。お前に今ここで伝えられるのは、これだけ。はっきりしたことは分からない。だが、重要なことだ」
ノーデンスは随分と念を押して、純にとんでもない一言を言い放った。
「誰か、お前の身近にいる人物が、お前を監視している。お前の近くに、裏切り者がいる。用心せよ。フォマルハウト」
「裏切り……、者……?」
純がノーデンスにどういうことか聞き返そうとした時には、既に夢は終わっていた。
◆◆◆
ノーデンスとの夢から覚めた純は、視界いっぱいに映る、見知らぬ女子の顔に思考が固まった。
「おはよう。荒井……、純くん。で、いいのかな?」
まるで、その女子に押し倒されているかのような体勢だ。純が警戒し、ブリンクでベッドから離れた場所へ移動する。
「何者だ?」
純はその女子の服装が、奇妙にもアラビアンな踊り子衣装であるのを目にした。透き通るような白い肌。くびれたウエストと、シースルーの布を巻き、露出過多なきわどい範囲を布に包まれただけの、柔らかそうなバストとヒップのラインが、寝起きの純の情欲を煽る。
「純! 気をつけて! この人、いきなり部屋に現れて……。私でも全然、感知できませんでした!」
枕元に置かれたスマホから、エインセルが純に注意すると、踊り子は砂漠のような黄色の長髪を揺らして、エインセルのスマホを手に取った。
「なるほどなるほど。これか~。ラバンも凝ったことするねー。まあ、お陰で私は助かったんだけどさ」
「ラバンを知ってるのか!?」
「知ってるよ。あなたたちより、よーくね」
「そいつから手を離せ! 置くんだ!! すぐに!!」
踊り子が黄色のシースルーの腰布をはためかせ、純に歩み寄る。純はエインセルを取り戻そうと、踊り子の隙をうかがっていたが、意外にも、踊り子は自らエインセルのスマホを純に差し出した。
「はい。これを、大事に手放さないようにね」
「……、どうも」
敵意を微塵も感じさせない顔で、にこりと笑う踊り子の美しさに、思わず純は照れてしまう。受け取ったエインセルは、純をじろりと睨んでいた。
嫉妬するエインセルを面白がるかのように、踊り子は純にすり寄って来た。純の寝間着のボタンを外し、はだけた胸元を人差し指で艶めかしくなぞりだす。
「は!? え!?」
「ねえねえ。君はー、私のこの姿、どう思う?」
「どう思うって……」
踊り子が純の手を取り、腰に触れさせる。息がかかる距離まで顔を近づけ、純の顔を間近で見上げる。柔らかい感触と、踊り子から漂う甘い香りに、純はくらくらしてしまう。
「い、いいんじゃないでしょうか……。とても……」
「ふふ。ありがと。呪いで人間の姿にされたけど、案外、悪いもんじゃないかもね。お姉さんから、ご褒美。んー、じゃなくて、お礼。かな?」
「呪……、いっ!?」
踊り子は純の頬を両手で掴み、優しく純の唇を奪った。
「んん!?」
「ちょっ!?」
踊り子は挑発するようにエインセルの驚く顔を横目で見てから、純の口内に舌を入れ、彼の舌と歯茎を愛撫していった。
未知の快感と、熱っぽい踊り子の吐息は、純には刺激が強すぎて、情けなくも腰が抜けてしまう。
「な、な、な……っ。なんなんですかあなたはぁ!?」
腰が抜けた純をベッドに座らせ、踊り子は楽しそうに言った。
「それはまだ秘密。純くん。さっき見た夢のこと、忘れちゃダメだよ? それじゃね、純くん。可愛い妖精さん」
すると、踊り子の姿が突然消え去った。
「なんだ……? あの人……。敵ではなさそうだけど……」
「怪しいですね……。呪いがどうとか言ってましたし……。警戒はしておいた方がよさそうです」
ノーデンスの夢と警告を思い出し、純はぞくりと背筋を震わせた。そもそも、なぜ夢のことを踊り子は知っているのか。とにかく、不気味ではあったものの――――
「……、なんか、エロい人だったな」
「純!!」
純はいなくなった踊り子の残した、口の中の幸せな感触を思い出し、一人悶々とさせられるのであった。




