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日本に着いて、山で消毒薬の材料を探して、午後四時。摘んだ野草や、超越者の力を得た身体能力を利用して狩ったカラスやムカデを抱えて、純は家にこっそりと帰って来た。
台所に入り、純はエインセルの指示に従って、包丁でカラスを捌いて心臓を取り出す。それから、心臓とムカデと野草をすり鉢ですってペーストにし、それを鍋に入れて水と醤油とオリーブオイルを注ぎ、かき混ぜながら沸騰させた。
「仕上げに、超越者の力を吸収している純の血を混ぜます。スプーン一杯くらいですね」
「そんなにー? んもー」
純は嫌々包丁で左手の中指に切り傷をつけ、スプーン一杯分の血を薬に入れてかき混ぜた。
できあがった赤緑の気色悪い煮物を前に、純は冷や汗を流した。
「……。見た目最悪なんだけど、これ傷口に塗るの?」
「はい。これで超越者が保有する菌から、あらゆる感染症をばっちり防げるらしいです。傷もあっという間に治っちゃうそうですよ」
「ほんとにぃ~?」
試しに包丁で切った中指の傷に塗ってみると、傷はみるみるとふさがっていった。
「ほんとだぁ~!」
「ね、ね! 治ったでしょ!? 作って良かったですね!」
「これは……、ありがたい……。お前はいつも、いろいろ調べてくれるから助かるな」
「えへへ~。そうでしょ? そうでしょ?」
視界の中のエインセルが自分の頭をつんつんとつつく。純は「はいはい」と言って、スマホの画面に映る、エインセルの頭の辺りを指で撫でてあげた。
純は服を脱ぎ、全裸になって薬を全身の傷口に塗りたくった。見ていて清々しいほどに傷口がふさがるため、純は何故か自分が神々しい存在になった気がして、両手を広げて神々しいポーズを取った。
「風邪ひきますよ?」
「この薬があれば、風邪なんていくらでもねじ伏せられるぜ」
「そういう効果はないです」
そこへ台所にやって来たのは、部屋にこもっているはずの父だった。
「あ……」
「……。お前……、何やってんだ……?」
「……。体操……」
父は思いっきり不信な目を向けていた。純はどう誤魔化していいのか分からない。
「服着てやれ。風邪ひくぞ」
「あ、ああ。分かった……」
可哀そうな物を見る目に変わった父の言葉に、純は悲しい想いになりながらも、ほっと胸をなで下ろした。
「純。お前、最近話題になってるフォマルハウトってやつ、知ってるか?」
父が台所から出ていく前に、ぼそりと尋ねたその質問。
純とエインセルはぎくりと顔をこわばらせた。
「んんー……、ニュースで見たくらい……、かなぁ」
「そうか……」
父はしばらく黙り、うつむいていた。何か思い詰めているように、純には見えた。
やっと開いた父の口から出た言葉は、純の心にずしりと重しを乗せる。
「ああいうのを見て、お前も真似しようとするなよ。ああいう目立つことをすると、ろくでもないやつに目をつけられる。だから……、絶対にするな」
父が部屋へと戻っていく背中を見ていると、純は背筋が凍る気分になった。
「バレて……、ないよな……?」
エインセルはやれやれと首を振る。
「どうでしょうね。実際、あり得ないことですし、普通に考えたら純だとは思えないはずですが……」
何かと思い悩むことが多くなってきたが、純はとりあえず服を着ることにした。




