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死んだグールたちから放出された黒いもやを、純とジョルドはそれぞれ自分の旧き印に吸わせた。
ジョルドを怪しむエインセルが、純にチャットを打ってくる。
『純。この人は最近銀の腕のトップエージェントに任命されたみたいですよ。その割には、なんかあんまり頼りにならなさそうじゃないですか? さっきもグール相手にやられそうになってましたし……』
『あの数相手じゃしょうがない気もするけど……。俺だって危なかったし』
チャットで話し込む純とエインセル。ジョルドは自分のことを話されているとも知らず、純に話しかけた。
「君のことは前々から知っていた。僕の所属する組織、銀の腕から離反したベン・ロブリーを倒し、その装備を奪って様々な事件の解決に当たっている謎の男だと」
『ほら、やっぱり正体はバレてない』
「フォマルハウト。福井県伊須升市在住の高校二年生。本名は荒井純」
『ぷふーっ。尻の毛の数までバレてる勢いですね』
『どこで覚えたそんな言葉!』
純は苦々しい表情で、ジョルドを警戒し始める。純は銀の腕がどういう組織か、その実態をよく理解していなかった。
「フォマルハウト。僕ら銀の腕は、超越者から人類を守るために活動している団体だ。銀の腕は、かねてから君にお礼をしたかった。よかったら、後日ドリームランドにある、銀の腕の本部に招待させてくれないか?」
「は? お礼? なんの?」
ジョルドは少しの間きょとんとして、笑って答えた。
「全部だよ。ベン・ロブリーを止めてくれたことはもちろん、日本に現れたドールを倒してくれたのも、きっと君なんだろ? なにより、今回のグールの件では、僕自身が救われた。君には、僕個人も感謝している」
エインセルが普段から、銀の腕のデータベースに不正アクセスして情報を得ていることは、純は伏せておくことにした。
ともあれ、これは良い機会だ。純はジョルドの招待に応じることにした。銀の腕のデータベースを覗くだけでは、情報が足りないと思っていた所で。クトゥルフやラバンのことなど、詳しそうな人に直接聞きたいことがたくさんあった。
だが、気をつけておかなくてはならないこともある。
「お礼ねぇ……。んなこと言って、この手袋と目ん玉を取り上げたりしないだろうな?」
「それは……、どうだろう。返却しろという意見は出るだろうけど、僕は君の手元にあった方がいいと思ってる。ノーデンス様も、多分そう言うと思うよ」
「ノーデンス……?」
「ノーデンス様は、僕ら銀の腕を創設したお方だ。旧き神の一柱でもある。地球とドリームランドを守るために、人間に力を貸してくださる偉大なお方だ。君に会いたがってるんだ。とにかく、君に危険はないと約束するよ」
ジョルドがどう言おうと、何か罠があるかもしれないと、純は警戒する心を捨てることはなかった。
しかし、クトゥルフの復活が近づいている今、その対処の仕方を知っているのは恐らく、銀の腕をおいて他にないのだろう。
だから、純はこの招待を受けると決めた。
「分かった。その話に乗ろう。俺はどうしたらいい?」
「ありがとう。とりあえず、今度君の所に招待状を送るよ。少し遅くなるかもしれないけれど、そこは許して欲しい」
「はあ……」
「最後にもう一度お礼を言うよ。ありがとう、荒井純。それじゃ、また」
よく分からないといった顔の純に、ジョルドは別れの挨拶をして去っていった。
「あ! そうだ! 純、大変なことを忘れてました!」
「うぉっ。なんだなんだ?」
エインセルは酷く慌てた様子だ。純に申し訳なさそうに、エインセルが言う。
「純、グールに噛まれたでしょう? グールは不衛生ですから、急いで消毒しないと感染症にかかってしまうかも……」
「は!? マジで!? 消毒液、家に残ってたかな……」
「超越者の保有する菌は普通の生物の物とは違うので、市販の消毒液では効果がないんです。銀の腕のデータベースにいい消毒薬の作り方があったので、材料を集めて帰りましょう」
「うっそだろ……。ここアメリカなんだけど? まず日本まで帰らないといけないんだけど?」
「日本に着く頃には、時差も考えると午後三時あたりになりますね……。消毒薬は簡単な材料ばかりですし、純は超越者の力を吸収して耐性ができてますから、感染するまでには余裕で薬を完成させられると思いますよ」
「手と足が痛くてしょうがねえんだよなぁ……。あーあ、また海越えなきゃならんのかぁ……」
愚痴愚痴と文句を垂れる純は、ふと口と足を止めた。
「随分と……、厄介なやつを仕込んでいたものだ……。別の手を打つ必要が出てきたな」
声が聞こえ、暗闇の中に、車椅子に座る“誰か”の姿がうっすらと見えたのだ。エインセルもその人影に気づき、驚愕した。
「ラバン教授……? 教授なんですか!?」
エインセルの呼びかけにも答えず、車椅子の老人は姿を消してしまった。
「教授がまだ生きていたなんて……。けど、どうして何も言ってくれなかったのでしょう……」
「なんか、様子が変だったな。どういうことだ……?」
考えなくてはならないことが増えたが、傷がずきりと痛んで状況を思い出した純は仕方なく、ブリンクを連続で使って海を越え、急ぎ日本を目指した。




