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サララの生い立ちといえば聞く人が聞けばそれなりに苦労人と呼んでもいいのかもしれない。
彼女がまだ幼い頃、それなりの名家に産まれたが借金を抱えてあっさりと没落した。
両親は健在であったが、共に人が良すぎる程のお人好しで、それがゆえに商売はあまり上手ではなかったのだ。
サララよりも幼い弟、妹達もいて。何とか食べていくために早々にサララは侍女として働きだす。
働き先には幼い妖精のような女の子がいて名をハイネといった。
彼女の母は既に亡くなっていて甘えん坊で少しわがままでいて、それでいて繊細で優しい。
そんなハイネのことをサララは姉のように時には母のように見守っていた。
ハイネが年頃になると隣国の獣人から番だと結婚を望まれ嫁ぐことになる。
サララは借金返済のためだけに生きていたからか、とうの昔に自身の結婚を諦めていたし。お給料も上がるということで隣国のスイトバルトへついていくこと決めた。
「ねえ、ご飯でもおごるけど?」
「最近、オープンしたおスイーツ店に行かない?」
「今夜、どう?」
スイスバルトに着いて数日後、優男につきまとわれるようになる。
たまたま街で絡まれていた女性を助けて、事情を聞きにきた騎士が彼だった。
連日のように用もないだろうに、目の前に現れる男。名をバイサーというらしい。
彼は獣人ではなく通称八本足と呼ばれていた。
詳しくは知らないが蜘蛛の力を持つらしい。
その戦闘力は高く、騎士団でも第二の副隊長の役職に付いていた。
黒い髪に美しい顔。見目麗しいその姿から想像できないくらい毎日ナンパ師の様なセリフを吐き続ける。
サララはこの男が苦手だった。
「今仕事中です。」
「忙しいので。」
「あなたとは、行かないです。」
なぜかサララが外出するたびに現れてて誘いの言葉をかけてくる。
20回断った辺りで彼は最終手段をとることにしたらしい。
お使いの帰りに連れ去らわれバイサーの屋敷に連れてこられた。
誘拐なんて犯罪だ、監禁なんて極悪非道だと詰めようとしたところに、バイサーはあることを告げた。
「君の家の借金は返しておいたよ。それから君の弟や妹の進学への支援も進めている。その上で君との結婚の許可を貰ったよ。」
「それは…………脅しですか?借金のかたに結婚しろ、と。」
バイサーは静かに首を振るう。
「もちろん君と結婚したいのは事実だけど。でも、借金のことは君の憂いを取り除きたかったそれだけだよ………。」
サララはバイサーの行動の意味が理解できなかったし、そこまでして自身と結婚したい理由もわからなかった。
それから、サララはゆるい監禁生活が始まる。
サララの左の足首には細い繊維のような糸が巻き付けられてどこまでも伸びるが根元はベットの柱に結ばれていた。
部屋から出れないと思いきや扉は鍵も開いていたし。
窓も空気を入れ替え放題。試しに屋敷の玄関へ行けば扉を開けることはできた。
いつでも逃げ出せるこの環境でサララが逃げ出さずにいたのは借金返済の恩もあるし弟たちへの援助のこともある。
それに、もしサララが逃げ出すことによって誰かに危害を加えられるという可能性を捨てきれなかったからだ。
そのぐらいバイサーを信頼していなかった。
「私、仕事場に戻らないと無断欠勤になり無職になってしまいます。」
とサララが訴えると、
「ノイド家にはしばらく休職することを伝えているし。当面替わりの侍女も用意したよ。」
「なっ、なんて勝手なことを!!」
サララの怒りをよそにバイサーは飄々としていた。
在宅中はいつもサララの世話にをしたがるし、つねに薄ら笑みを浮かべてサララが怒ろうがそれは変わることがなかった。
だからかサララのイライラは膨らみづづけた。
バイサーは結婚して欲しいと乞うくせにサララに必要以上に触れようとしてこない。
いっそのこと乱暴にされてしまったほうが恨むこともできたのかもしれない。
サララにはバイサーの目的が見えてこなかった。
緩やかに締め付けられる日はずっとは続かない。サララはある日ついに爆発した。
「今日、模擬戦で人の出入りがあったんだけど。勘違いして君の知り合いを傷つけてしまったかもしれない。」
その日のバイサーは機嫌の悪さを隠していなかった。
「えっ?」
詳しい話を聞くと、傷つけられた相手は同僚のコトネだった。そして、彼女から手紙を預かってきたと。
サララは手紙を受け取り封を開ける。綺麗なこの文字は大切な主人であるハイネのものだった。
手紙の内容はハイネや屋敷のみんながサララを心配していること。番を得たという話だがサララ自身は幸せでいるのかと、細部までサララを思う気持ちが綴られていた。
つい、サララは手紙を読んで涙ぐんだ。自身が心配されていたこと、大切に思われていたこと。コトネを傷つけたことは許せないし。あと番って…………番ってなんだ?と。
そして、サララは爆発した左足の絡みついた糸を引きちぎり宣言した。
「私は帰ります!借金返済のことは感謝してます。だから、きちんとあなたに同じ金額を返していきます。それではお世話になりました。さようなら!!!」
そう言って鍵の閉まっていない扉を開けようとすれば、バイサーに手を抑え込まれた。
「はなしてくださいっ!」
バイサーの腕の力は当然ながら強くサララの力ではピクリともしない。
サララが抵抗をしようと考えを巡らせていると頭上から水滴が落ちてきた。
見上げると尋常じゃない量の涙を流す男の顔が目の前にあったのだ。大号泣だ。
綺麗だったはずの顔からから絶え間ない水量を流し、彼の顔はぐしゃぐしゃだった。
「えっ……。」
そのままバイサーの重さに引きずられるように尻餅をつき、バイサーはすがるように抱き着いていた。
「君のことが好きなのに。何度誘ってもも相手にしてもらえない。とうとう屋敷に連れてきて借金のこととか家族のことをかたずけても君は俺に気持ちを向けてくれない。どうしたら、君が俺のことを好きになってくれるかわからない。君は俺の番なのに…………。」
滝の様に涙を流しながらサララに愛を乞うバイサーに対してサララは少し引いていた。
どんなに顔が奇麗でもぐちゃぐちゃに泣いてしまえば関係ないのだな、とも。
「そもそも、あなた私のことが好きだったんですね。知りませんでした。」
サララが正直な感想を言えば、バイサーは驚いた様に目を開いた。
「え、なにを今更。」
「私、あなたに好きだなんて言われてませんよ。結婚したいといっていたのもなにか目的があるのかと。」
「そんな…………、そうか、君は人だから番がわからないし。なんてことだ…………言葉にすることを失念していた…………。」
この行き違いは種族の違いとその上でサララの鈍感さと、バイサーの言葉にしなかったことが原因といえよう。
サララはしばらく考えてから思ったことを口にした。
「私はバイサーさんのこと軽薄で何を考えているかわからない人だと思っていました。でもあなたのこと勘違いしていたかもしれません。だから…………」
サララの言葉にバイサーは怯えた表情を浮かべる。
「…………だから、もう少しあなたのことを知りたいです。」
そう伝えると、バイサーの目から止まったはずの滴がまたボタボタと落ちてきた。
「バイサーさんって、すごく泣き虫なんですね。」
とサララは手を伸ばしバイサーの頭を撫でた。
バイサーは驚いた後でこんなに泣いたのは大人になってから初めてのだと気まずそうに告げた。
サララはかわいいものが好きだ。
ハイネは妖精の様に可愛いし、コトネも異界からやってきた儚さと愛らしさがる。いまは遠くにいる大きくなった弟、妹達もずっと愛でてきた。
この瞬間、目の前にいるべしょべしょと泣くこの男が可愛らしいと思ってしまっても仕方ないことだろう。
それからふたりは緩やかに番となりサララの身体に糸を巻き付けたままにする事を条件に職場復帰を許された。




