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夕食のブイヨンスープは火にかけられコトコトと湯気を立てていた。
厨房の台の上には配達されたばかりの野菜が置かれ、大きな冷蔵庫の中には鮮魚や肉が詰め込まれている。
屋敷の料理人のハンズとロジーが夕飯の下拵えをする傍らコトネも野菜の皮むきを手伝っていた。
「そうだ、聞いたかい?またこの近くの森で商隊が襲われたらしいよ。」
ロジーは包丁を片手に興奮気味に話し始めた。
「まえは、木こりのハンスが森で襲われてけがをして、それから二つ向こうの街名産のワインを運んでいた商隊も被害にあったらしいいじゃないか。それで今回ときたもんだ、騎士団の討伐隊も組まれたらしいけど、このまま魔獣の被害が続くようなら、手に入る食材が減っちまうよ。」
憤るロジーにコトネは怖いですね、と同意したが、調理場の奥で野菜を炒めるハンズは寡黙に仕事を続けていた。
魔獣の被害が増えてから街全体がざわつき始めていた。
街の外へ向かう際は護衛は必須だが、より強固な守りが必要になっていた。
もちろん魔獣の動向を探る調査隊も組まれていたし、それぞれの個体に対して騎士団の屈強な戦士たちがこれまでも討伐していた。
しかしながらの圧倒的な数と魔獣の巣の場所が抑えられてず、手をこまねいていた。
このままの被害が続くようなら物流が滞り、手に入らなくなるものもあるかもしれない。
この世界の中で生きる生き物の中でコトネは魔力もなく力も弱い、異世界転移してから自分の非力さばかりを感じることが多くなった。
コトネはそんな時、不安で帰りたい気持ちと、一向に見つからない帰還方法にを諦める気持ち。半分半分を抱えたまま日常をおくっていくしかなかった。
屋敷の入口でなにやら騒がしい声が聞こえて、ハンズとロジーに断りをいれ向かう。
屋敷の人間が集まり中心にいたハイネは長身の女性に抱きついて歓声を上げていた。
「おかえりなさい!サララ………ずっと…ずっと………みんな心配していたのよ。」
ハイネは鼻をスンスンと鳴らしながらサララから離れ、手を握る。
そのハイネの手を握り返しながらサララも目を潤ませ答えた。
「長くご心配をおかけしてすいません。ハイネ様、ただいま戻りました。」
周りにいた人たちも、ワッと歓声を上げおかえりと次々に口にする。
少し離れた場所で見守るコトネもホッと胸をなでおろした。
サララは以前より柔らかな雰囲気をまとっていた。
薄紫色の綺麗に後ろでまとめた髪やすらりと高い背丈、顔立ちはきりりとしてサララの真面目な性格がうかがえるが、なぜだろう眼差しが柔らかい。
(私が会ったバイサーさんはすごく冷たくて恐い印象だったけど、サララさんは怖い目にあってないって思っていいのかな………)
サララは離れた位置で見守るコトネ気付きそばまで寄る。
そして、ごめんなさいと深く頭をさげた。
「バイサーから聞きました。手紙を届けに来てくれたコトネさんに乱暴をはたらいたと。本当にごめんなさい。」
「…………いえ、そんなっ。サララさん顔をあげてください。」
「彼には、またキッチリ謝罪させます。とりあえずこれを受け取ってくれますか。」
コトネの手の中には謝罪の手紙と、ずっしりと重い金貨の入った袋が押し付けられた。
「お、お手紙は受け取りますが、ごれは受け取れません!!!!」
コトネの必死さにサララはなんとか折れて金貨は返させてくれた。
そして、コトネの身体に傷は残っていないかと細部まで確認しだす。
「だ、大丈夫ですっ。本当に怪我してませんからっ」
顔を赤くして訴えるコトネをよそに、コトネの身体の細部まで身体を検分し、無傷が確認した後でサララは安心したように手を放してくれた。
「彼にもきちんと謝罪しなきゃいけませんよね。」
サララの言葉にコトネは疑問に思い聞き返す。
「彼、ですか?」
「ええ、コトネさんを傷つける行為は番である彼が黙っていないでしょう?」
「………???」
「もしかして、まだなにも知らされてないの?」
サララがしまったという顔をした後、ハイネを目をやるとハイネは大きく手をバツにしている。
コトネの脳内に疑問符が浮かんでいる間、サララやハイネたちはまだ、内緒なの。もちろん気付いていないのは彼女だけ。ゆっくりと攻め落とす計画だそうよ。とコソコソと話し込んでいた。
休日にサララと共に以前お世話になったテーラードへ向かう。
扉に手をかけながらコトネはサララを振り返り尋ねる。
「サララさん、付き添い本当に私でよかったのですか?」
「もちろんです。コトネさんのセンスを信じていますから。」
サララは至極当然のことのように答える。
今日はこのテーラードにサララのウエディングの際に使用するベールを注文しに来ていた。
サララの曰く花嫁衣装を一式をバイサーが注文しようとするのをなんとか止めて、ウエディングドレスはお母様のものがあるのでそのまま使用したいこと。
コトネはこの世界の花嫁を見るのはハイネが初めてだった。
この世界のウエディングドレスのカラーは白とは限らず、ハイネは淡い水色のドレスを着用していて本当に素敵だった。
サララのお母様のドレスはシックなワインレッドなのでベールもワインレッドに染めたものお願いする予定だ。
きっとサララに似合うことは間違いないだろう。
店内にはアステニアが待っていた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。」
深い緑のロングのワンピースを着たアステニアは今日も同性から見ても見惚れてしまうほど美しい。
「今日、伺ったのはウエディングベールをお願いしたくてーーーー。」
サララの説明にアステニアはメモを取りながら相づちをうつ。
「サイズは、サララさんは背が高いからベールの長さは長いほうがいいかしら。あとはメインテーマはどんなモチーフがいいかしら…………。見本をお持ちしますね。」
三人で見本を確認しながら、これも素敵。あれも似合いそうと意見を出しながら一時間ほどで決まり、完成まで時間を要すると説明を受けたのち店を出る。
心地よい陽気の街を歩きながらサララは満足気だった。
「やっぱり、サララさん雰囲気変わりましたよね。」
ついコトネが口にすれば、
「どんな風に?」 と問われる。
「えっと、なにか張りつめていたものが解けた様な……柔らかい雰囲気です。」
言ってから、失礼ですよね。すいません、と付け加えるとサララは優しく微笑んでくれた。
「ふふふ、たぶんコトネさん大正解かも。」
「大正解ですか?」
「ええ、少しだけ聞いてくれる?」
サララは、少し長い話になるけど、とサララのとバイサーについての話を始めた。




