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隊舎の奥まった場所にある陰のベンチにコトネは優しく降ろされた。
時おり演習場から歓声が聞こえてくる以外はとても静かだ。
木々の隙間から柔らかな陽が頬に当たる。
「コトネさん、大丈夫?」
手に水の入った水筒を持ちルークが気遣う様子でコトネを見下ろしていた。
水筒を受け取り一口、二口と飲むと喉が潤い、ようやく声が出ことができた。
「…………ありがとうございます。」
「喉苦しくない?」
隣に腰掛け心配げにルークは問う。
「はい、…………大丈夫です。」
コトネはルークがここに居たことや自分よりも身体の大きな男性であるバイサーからかばってくれたこと。どれから聞けばいいかわからなかった。
「ははっ。コトネさん、俺に色々と聞きたそうな顔してるね。」
隣にいルークは楽しそうな声で笑った。
改めて彼を観察するとどうだろう。短い茶色い髪に日に焼けた肌。目は少したれ目で人懐っこい顔といっていいだろう。
ルークの服装はズボンは黒くベルトの脇に帯剣している。上着は着ていないが白いシャツとネクタイを着用していた。
それはコトネの知る限り騎士団の隊服に見えた。つまり彼も騎士団所属なのだろうか。
それに、以前はコトネよりも背丈が低かったはずだが今交わる視線は座っていたとしても同じくらいに感じた。
「ルークさん、もしかして身長が伸びられましたか?」
「まず、聞くことがそれなの?」
ルークの楽しそうな声にコトネは確かに、と思い恥ずかしくなった。
「…………すいません。」
「いいよ。順番に追って話していこう。」
まず、とルークは前置きをして話を始めた。
「俺はここの騎士団のに所属している。だから、さっき君に乱暴をしたバイサーも同僚ってこと。コトネさんはバイサーに用があってここに来たってこと?」
コトネはサララと同じ職場でありお世話になっていたこと。
サララが番に選ばれてそれから連絡が取れず、主人のハイネとともに模擬戦に来たこと。
そしてバイサーを通じてサララに手紙を託したことを伝えた。
「…………なるほど。理解はしたよ。まず、バイサーがコトネさんにしたことは許さなくていいし、なんなら俺が代わりに殴ってきてもいい。どうする?」
ルークの仕返ししてやるという言葉に、コトネは左右に首を大きく振るう。
(いくらルークくんが頼もかったとしても、大きなバイサーさんに立ち向かって怪我でもしたらすごく嫌だ。それに、仕返しなんて私、望んでない………)
「いえ!!殴ったりしなくていいです。目的である手紙渡せたので大丈夫です。」
「そう。わかった。ならそれを聞いた上で伝えるけど…………。サララさんとバイサーについての話だ。この話は人であるコトネさんには理不尽だから伝わらないかもしれない………。」
「はい。サララさんのことが知れるならかまいません。お願いします。」
「コトネさんは獣人についてどこまで知っているのだろうか、獣人には必ず『番』という言葉がついて回る。獣人の血の求める本能のまま番を求めてしまう獣人もいる……。たとえば、バイサーもその一人だ。人からすればある日いきなり番と言われて連れ去らわれ、理不尽以外の何物でもないと思う。そして君の知り合うであるサララさんもその一人だった。」
コトネは静かに頷いた。
「ただ、いまだにバイサーにはサララさんの匂いがついていない。それは乱暴に彼女に関係を強いるのではなく。彼女の心が動くのを待っていると思う。バイサーには番の匂いがついていないが故に女性からしつこく声をかけられることが多い。つまりコトネさんをそんな声をかけてくる女性の一人だと思ってしまったのかもしれない。…………理解はできないかもしれないけれど、以前のバイサーはもっと軽い口を叩ける余裕のある男だった。でも今は番を目の前に手も足も出せない哀れな男なのだろう…………。サララさんの身の安全は俺がきちんと確認する。どうか、信じて待ってもらえるかな?」
ルークの強い眼差しに射抜かれてコトネは心臓がドキリとした。
(ルークくんの言うことが正しくいのならサララさんは酷い目にはあってない。そう思っていいのかな。だけど、どうして番のことを話すルークくんは自分のことのように話すのだろう…………)
コトネは疑問を口にすることはできないまま、ルークはコトネの元に必ず手紙の返事を届けると約束してくれた。
「コトネさん、立ち上がれる?」
ルークに手を引かれるように立ち上がるとコトネの目線と同じ位置にルークの瞳はあった。
(以前より10センチ以上伸びてる?男の子の成長期ってこんなにハイペースだったけ?)
「あともう一つ、獣の血が濃く残りかつ、魔力を持つ獣人は獣性と魔力が影響し年齢に相反して成長が緩やかになることがあるんだ。…………つまりようやく俺にも成長期が訪れたってわけ。」
「獣性と魔力?正直にはよくわからないですが…………。あの、急に背が伸びると身体が痛くならないですか?」
コトネの問いににルークは機嫌よく答える。
「ええ、とても痛いよ。夜中に悲鳴が上がるぐらい。」
コトネは深夜にバキバキと成長する身体を想像して恐ろしくなった。
「でも、これでようやく君の背丈に追いついた。手も見てよ、ほらっ。」
ルークは掴んだままだったコトネの手を目の前に移動させ大きさを比べるように重ねた。
以前、コトネが手にクリームを塗りたくった手はコトネの手に収まるくらいの大きさだった。
なのに今は明らかに、日に焼けてごつごつとした手のほうが大きい。
「前に…………勝手にクリームをべたべたに塗ってしまって。ごめんなさい。」
つい、口から出た謝罪にルークは何にも気にしていない風で。
「あー、何なら今もすごく荒れてるかもしれない。」
と言うとからかうように言う。
「!!いえっ!!クリームの缶を渡すので自分で塗ってくださいよっ!!」
コトネは顔を赤くして手を隠すように後ろに引いた。
動揺したコトネにルークはくくくっと笑い出す。
コトネは熱い頬が早く冷めることを願いながら手であおいだ。
その後、コトネはハイネの待つ場所に送り届けられ帰路につく。
ハイネに顔が赤いことを指摘されるが日に焼けたせいだ、と動揺を隠して言い張ったのであった。




