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騎士団は街の外に存在している。
主に交易の要である街道を魔獣から守り街の中への魔獣の侵入を防ぐ役割があった。
その他にも領内の治安の維持や領主なのどの重要人物の警護などを担う。
大きな門を進んで行くと重厚な騎士団の建物を背景に模擬戦を観戦に来た人で溢れている。
模擬戦の日は多くの住人に解放されるため、軽食などの出店が多く立ち並び、祭りのような活気があった。
今日のコトネはメイド服ではなく落ち着いたネイビーのワンピースとブーツを履いている。
いつも綺麗に結わえている髪は下され、ゆるく編み込まれていた。
手には軽食のサンドイッチが入ったバスケットと水筒を抱えている。
コトネはこの国に来てこれだけの人が集まる姿を見たのは初めてだった。
侍女としての仕事中でもあるので冷静を装うが、活気に心は騒いでいた。
コトネの数歩前を歩くのはハイネとハルバトールだ。
二人は長い足のハルバトールが合わせるように同じ歩調で歩く。
ハイネの楽しそうな笑い声が後方まで聞こえてくる。
相変わらずハルバトールはハイネがコトネに笑いかける度に針の様な視線を刺してくるのだ。
仕える主人たちの仲が良いことはとても嬉しい。だが、ハルバトールの無言の嫉妬はコトネには不可抗力過ぎた。
演習場は大きく歓声が上がっていた。
剣技と魔術の演舞が行われた後にトーナメント方式で試合が始まる予定だそうだ。
ハルバトール、ハイネと共に観戦席に着席する。。
観戦場には、騎士の家族や街の子供たちも多く、演習場に並ぶ騎士に大きく手を振りジャンプをする子供たちの姿が見られた。
一方、若い女性も多くお目当ての騎士でもいるのだろうか、戦う騎士に黄色い声援が送られている。
騎士をあまり見たことがないコトネはヒーローやアイドルのようだな、という感想を持った。
コトネはしばらくは観戦していたが、頃合いを見てハイネからの手紙を手に観戦場から騎士の隊舎へと向かう。
探すのはサララの番であるバイサーという名の騎士だ。
コトネが会ったのは一度きり。
サララとお使いに出かけた際に出会った。
サララにナンパのような声かけをしていた記憶がある。
その時、サララは仕事中だとさらりと躱したような気がするが、とにもかくにもコトネには顔が奇麗なナンパ男という印象しかなかった。
演習場を出て隊舎へ向かう。奥に進むにつれて人影は少なくなっていく。
通路に数人の華やかな女性に囲まれた男がいた。
男の身長はすらりと高く、黒い制服を着こなす姿は他の騎士よりも細身に見えた。
髪色は黒く緩やかウェーブがかかっている。
顔は以前見た通り恐ろしく奇麗だが近寄りがたい印象さえある。
つまりその男が探していたバイサーだった。
彼らは何かを話していたが、とても和やかな雰囲気には見えなかった。
「お前らに構うつもりはない。去れ。」
バウサーは女性達に向かい言い放つ。
怯えたように去っていく女性たちがコトネの前を通り過ぎていく。
コトネはいまだ不機嫌な空気をまとう男に声をかけるかどうか躊躇していた。
(ぜんぜん、話しかけれる雰囲気じゃない……。でもサララさんのことを私もハイネ様も知りたい…………)
「あのっ、すいません。」
コトネが言葉を発した瞬間バイサーは冷え冷えする眼差しでコトネを見た。
「なんだ…………まだいたのか。俺はお前らの相手をするつもりは今後一切ないし。視界に入れたくもない………これが最終警告だ。」
コトネは何を言われているのかさっぱりわからず、その場で固まってしまった。
いや、物理的に固まってしまったのだ。
コトネの首筋に幾本の細い糸なようなものが一瞬にして巻き付き、糸の根元はバイサーの指先にあった。
「………俺は番以外に興味はない。これ以上喚くなら、わかってるよな…………。」
ほんの少しだけ首に巻き付く無数の糸がきつく締まった気がして、コトネは命の危機を感じて思わず叫んだ。
「違いますっ!!違うんです。先ほどの女性の方たちと私は関係ありませんっ!」
コトネの声にバイサーの眉はピクリと動いた。
「私はノイド家の侍女をしています。コトネと申します。本日、ハイネ様からサララさんへお手紙を預かってきました。どうか、取り次いでもらえないでしょうかっ!!」
殺されるかもしれない。刹那的にコトネはそう感じた。何が彼の怒りに触れてしまったもだろうか。
視線の先にあったバイサーの中指が小さく動く。
「ドンッ。」
その瞬間、誰かの手によって横から強く押され、地面に倒れこむ。
「きゃっ。」
コトネは悲鳴がこぼれて、衝撃にそなえたが痛みはこない。コトネの身体は誰かの手によって受け止められていた。
視界の外でふわふわ茶色い髪が揺れたように見えて、コトネは支える相手を見る。
彼が、ルークがコトネを守るように手は背中を支えていた。
ルークはどうしてここに居るのだろうか。
彼の腕の力は強く、コトネを支えてもその身体はぶれることがなかった。
「バイサ…………この人に何をしている………。」
ルークから酷く低い声を発する。その声は怒りに満ちていた。
バイサーの表情は変わることなく二人はだだ怒気を帯びたまま向かい合っていた。
「……………。」
「……………。」
バイサーは二、三度瞬きをすると、コトネの首に巻き付いた細い繊維の様な糸は生き物の様にスルスルとと手のひらに戻っていく。
バイサーは張り詰めた空気を吐き出すように深く息を吐く。
そうして、いまだ睨みを利かせたままのルークに視線を向けた。
「…………すまない。俺の勘違いだ。彼女をしつこくつきまとう相手だと思ってしまっていた。」
謝罪するバイサーの顔は険が取り除かれたものの無表情と言っていい。
「謝るならちゃんと彼女に向けて言えよ。」
ルークはバイサーから視線を逸らすことなく言う。
相変わらず剣吞とした空気の二人にコトネたまらず口を開こうとした。
「…………ゲホッ…………っうっう。」
に巻き付いていた糸のせいだろうか、一瞬の恐怖で喉がカラカラになったせいだろうか言葉が上手く出てこなかった。
ルークは咳き込み涙を浮かべるコトネの背中を心配そうにさする。
そうだ、手紙を渡さなくては。そのために来たのだ。
ポケットの中の手紙を渡そうとしたが、腰が抜けたのだろうか立ち上がることができない。
ルークはコトネが握りしめた手紙に目をやった。
「コトネさん、この手紙をバイサーに渡せばいいの?」
ルークの問いかけにコトネは頷く。
ルークは手紙を受け取るとバイサーの胸元に強く押し付けた。
「…………受け取れよ、バイサー。」
バイサーはそれを手に取るとルークとコトネに何度か視線よこしてから立ち去った。
「コトネさん、立ち上がれる?」
ルークはコトネの手を引き立ち上がらそうそしてくれたが、コトネの足は思うように力が入らない。
困り果たコトネにルークは、ごめんと言うと彼女の膝の下に手をくぐらせ持ち上げる。
「えっ、えっ。」
コトネの困惑の声など聞こえない表情でルークは歩き出した。




