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お屋敷の三階奥、温かみのある色を基調とした家具を配置した部屋でコロコロと女性の笑い声が響いていた。
コトネともうひとりは明るい金色の髪を両サイドで結んだ少しつり目の少女である。
名をミーヤという。
歳は15に届いたばかりで長い手足と笑った時にこぼれる八重歯が彼女の快活な性格をあらわしていた。
二人とも揃いの青いメイド服を身にまとい、まだ仕事に慣れないミーヤにコトネが一連の流れを伝えている最中であった。
「コトネ、シーツ交換したよ。あとは何すればいい?」
「ありがとうございます。あとはカバーと寝間着をこちらに」
「はーい!了解っ!」
ミーヤは素直で不器用なところもあるが一生懸命な少女であった。
コトネと同じハイネの侍女として仕えていたサララが仕事に復帰出来ないためミーヤは臨時で雇われたのだ。
「ねぇ、できたよ。コトネ」
作業を終えたミーヤはは軽い足取りでぴょんとコトネの前まできて上目づかいで首をかしげた。
なぜだかわからないがミーヤはコトネのに事あるごとに頭をなでることを催促していた。
ミーヤは曰く、最初にひと撫でされたときから虜にされました、だそうだ。
「仕方ないですね……。少しだけですよ。」
コトネがミーヤの頭部に手を伸ばした瞬間、コホンと咳払いがした。
「ミーヤ、コトネさんの仕事を邪魔してはいけませんよ。」
扉の前にいたのは真っ黒なスーツを着たひょろりと背の高い男だ。
高身長のはずなのに猫背であるがゆえ圧迫感をあたえない立ち姿で声の抑揚は平坦であり、目に光が無いことを含めると陰気な空気をまとった男である。
その男から突然かけられた声にミーヤ小さくジャンプした。
そして、男の顔を確認し、不満げに言う。
「驚いかさないでよ!シギー!わたしはコトネの邪魔してないもん。お仕事教えてもらってるだけだよ。ねぇ?そうだよね、コトネ?」
「ええ、ミーヤさんはよく働いてくださってます」
コトネが答えると、ミーヤは自分よりうんと背の高いシギーにどうだ、と自慢げな顔をした。
シギーは小さくため息をつくと、
「いいでしょう。では、失礼」
と足音もなく部屋を出ていく。
「なにあれ!いつもいつも、わたしの前に現れてチクチクとお小言を言ってくんの!お仕事してるかチェックしなくても。わたしちゃんとやってるもん。」
頬を膨らましなが整えたタオルを握りしめるミーヤを眺めながら、コトネは。思う。
(たぶん、アレは嫌がらせではなくミーヤさんのことが気になって仕方ないだけだな気がする)
シギーはコトネにとって頼もしい上司であり、暗がりから突然あらわれて驚かされたことはあれど、嫌がらせをうけたことはないし、関りも必要最低限だ。
コトネからしたらシギーのミーヤと関わりたいだけの行動なのだが、ミーヤ本人に行動の意図はいまいち伝わっていない様子なのであった。
「そういえば、ミーヤさん教えてほしいことがあるのですが……。」
「いいよ、なあに。」
「こちらの国では13歳くらいの子供は仕事についていたりするのでしょうか?例えば重い薪を持つような。」
コトネの質問にミーヤは腕を組み首をかしげながら答えた。
「んーー、13歳ならまだ学校があるから普通は家の手伝いぐらいじゃないかなぁ。15歳ぐらいから見習いに行く子ともっと上の学校に進む子に分かれるけど。」
「そうなのですね…ありがとうございます。」
「コトネ、何かあったの?」
「いえ、今朝、パンを受け取りに行く途中に背丈の二倍はある薪を担いでいる男の子がいまして………。ご本人はいつも通りだと言っていましたが、もしかしたらなにかひどい目に合ってるじゃないかと、………。」
「なるほど?うーん、薪の少年ね……。その子のことは知らないけど、お母さんがね、最近街の外が物騒なだから気をつけたほうがいいって言ってた。物を運んでくれる商隊がいくつも襲われてるって。だから、街の外に勝手に出ちゃいけないって。だから、薪を集めに街の外に行くのもきっと危ないはずだよ。」
「街の外……、知らなかったです。何かあったのでしょうか?」
「わたしも詳しくは知らないの。この街の騎士団の人なら知ってるかも。」
ミーヤの瞳は不安そうに揺れていた。
コトネ自身も越してきてから未だ街に出たことがない。
出る際は護衛を付けてと伝えられているいたが、機会がなかったのだ。
「ねえ、コトネ?」
「はい、なんでしょう?」
「今いないけど、サララさんってどんなひとなの?」
ミーヤはエプロンの裾をもじもじとつまみながら聞く。
「あのね、ハイネ様もコトネも優しいから大好きなの。できたらサララさんが戻ってきたとき仲良くしたいなって。」
「なるほど、サララさんはですね………。」
コトネは凛とした女性を思い出す。
「まず、とても真面目で仕事もキッチリ、カッチリされてますね。薄い紫の髪を毎日隙なくまとめられていて。尊敬できる先輩といったところでしょうか。」
「うーん、すごく真面目なら仲良くできるかなぁ。」
不安げなミーヤを見てコトネは、大丈夫ですよと続けた。
「サララさんは真面目な方以上にとても面倒見がいいんです。この仕事を一切知らなかった私にも全部丁寧に教えてくれましたし。あと、本人は隠していますが小動物や可愛いものがとても好きだと思います。だから、きっとミーヤさんにも優しくしてくれると思います。」
だいぶ前にサララが迷い込んだ動物を愛でている姿を見たことがある。
そういえば室内にいた蜘蛛も小さくて可愛いといいと外に逃がしてあげていた記憶がよみがえる。
彼女は総じて小さな生き物が好きなのだ。
コトネから見ても愛らしいミーヤをきっとサララは可愛がるだろうと確信めいた思いがあった。
「本当かなぁ…………。」
「ミーヤさん、お花の水を新しいものにかえてください。」
「はーい。」
開けた窓から爽やかな空気のが入り込んでくる。
部屋は綺麗に整頓され花瓶には黄色い花が生けられていた。
「ねぇ、コトネ。」
「はい、どうしましたか。」
「しばらく先に収穫祭があるでしょ、その時に恋人がいない子は花冠をつけるの。恋人募集って。コトネは参加するの?」
「いえ…………、私は参加しないです。」
「そうなの?私、ようやく15歳になって参加出来るから楽しみなんだぁ。ほら、私たち獣人はうんと昔はそばにいるだけで番がわかって出会えたけど、今はわからないことのほうが多いから。だから自分で恋人を探すんの。」
「そのようなお祭りがあるのは知りませんでした。正直、私は獣人の方のいう番というもにも詳しくないです……どのようなものなのでしょうか?」
「そうだよね。コトネは知らないよね。えっとねぇ、獣の血が多い人は会った瞬間に匂いでこの人は番だーってわかるんだって。もうどうしようもなく好きになっちゃう感じ。でも今はほとんどの獣人は匂いがわからないから。お試しでお付き合いして相手を探すの。」
「では、例えばお祭りで誰かと出会うとして。ミーヤさんはどんな方とお付き合いしてみたいですか?」
コトネは開け放った扉の隙で黒い影が動くのを見ていた。
「うーん。そうだなぁー。歳は上がいいでしょ。背は私より大きければ嬉しいな。あとは、私がバタバタしちゃうから落ち着いてる人がいいなぁ、でも一番は一緒にいて楽しいひと!!」
ミーヤは夢見ごごちで理想を語る。
コトネはそこの黒い上司にミーヤの理想に近いようで遠いかもしれないと感じながら、こっそり聞き耳を立てる彼に頑張れ、と目線を送った。




