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「コトネさん、もしよければ今度ディナーを食べに来ませんか?」
サララからの突然の誘いにコトネは二つ返事で了承する。
サララの手料理は以前彼女がまだ屋敷に住んでいた時に食べたことがあり、どれも絶品だった。
コトネはどんな料理が出るんだろうと想像しながら、その日を心待ちにしていた。
そうして後日、水色のワンピースに同系色のネイビーのカーディガン。足元は編み上げのブーツを着てサララの自宅を訪れていた。
「いらっしゃいませ、コトネさん。今日のお客様がもう一人増えたのだけど大丈夫かしら?」
「はい、もちろん。」
コトネは手に持っていた紙袋をサララに渡す。中には街で人気のパティスリーの砂糖菓子が入っていた。花の形をしていて飾るのも食べるのもどちらもお勧めの品だった。
「わぁ。嬉しい。ありがとう。」
サララの笑顔にコトネも嬉しい気持ちになる。
どうぞと、招き入れられて館内に入る。
とても大きな館だ。内装はサララの影響か雰囲気は落ち着いて柔らかい。
ダイニングテーブルには沢山の料理が並べられていて、すでに男性が二人着席していた。バイサーとルークだ。
本日はお招きありがとうございます、とコトネが言えばバイサーは堅苦しい挨拶は要らないと言う。
「そもそもこいつは呼んだ覚えもないのに着席しているしな。」
とバイサーはルークを見やる。
「一度も呼ばれてなかったんだ、別にいいだろ。」
軽口で話す二人は普段から同じ騎士団に所属しているのだ仲もいいのだろう。
「サララさん、すいません。急にお邪魔して。」
ルークの謝罪にサララは、大丈夫です沢山ありますからと笑顔で答える。
食事はどれも美味だった。甘い果実の香りがする食前酒にヤムイモのグラタン。それはたっぷりのチーズがこんがりと焼けており、さらにサーモンに似た魚のカルパッチョ。お肉は柔らかく煮てからローストされて、口に入れると香ばしくも柔らかい。サラダは色彩豊かでデザートのプディングにアイスが添えられていた。
コトネはプディングを食べている時おいしさに震え少し目を潤ませていると、それに気づいたサララがおかわりをお持ちします、と声をかけてくれた。
「ああ、でももうアイスがないです。どうしましょう。」
サララの言葉にルークが立ち上がる。
「もし、材料があるなら魔術で凍らせれますよ。」
コトネは魔術を使ってまで食べたいわけじゃないと二人を止めたが、まあまあと着席を促された。
まだ残っているプディングをちびちびと味わいながら食べていると、テーブルの向かいから声をかけられる。
「以前…………手荒な事をして本当にすまない。」
ハウザーは立ち上がり深々と頭を下げていた。
「あ、いえ。大丈夫です。気になさらないでください。」
「君が渡してくれた手紙のおかげでサララが心を通わせてくれた。ありがとう。」
「そうでしたか。私も良い方向にむかえたならよかったです。」
あの時、コトネが届けた手紙でふたりが仲良くなり、サララが屋敷にも戻って来てくれたなら嬉しいことだ。
コトネは食前酒の影響だろうかいつもよりふわふわとした気分で、少し怖いと思っていたバイサーの前でもへらりと微笑んだ。
「…………俺は何も思いはしないが、番以外の男の前で無防備な笑顔をさらすべきではないな。」
コトネは突然の言葉の意味が理解できずそのまま固まる。
「人は番について何もわからないことはよく知っているが、あれだけわかりやすい求愛行動によく無関心でいられる。」
「…………えっ、どういう意味ですか?」
「君はルークの番だろう。」
サララの家からの帰り道、静かにルークと歩く。
あの後、サララが出してくれたおかわりのプディングの味はもうわからなかった。
お前はルークの番だ、と言われた。
だからあんなに構ってくれていたんだとコトネは納得していた。
ただ、コトネがルークのことを好きかと言えば話は別だ。
仲良くしてくれる人という認識はある、恋人もしくは番になれるかと言われれば正直にわからない。
異世界から転移して必死に生きていく術をようやく得たコトネにとって恋愛感情は二の次、三の次で、誰かに恋している余裕がなかった。
隣を歩くルークの歩幅は緩やかで、以前と比べて身長が高くなってもコトネの歩くスピードに合わせてくれている。
ルークから好きだとか、番だとか告げられたことはない。
バイサーの言っていることが本当だとするなら、どうして彼はは何も言わないのだろう。
でも、告白されたとしてその答えをコトネは用意していなかった。
頭をぐるぐるとパンクするぐらい思考するコトネを見てルークは様子が変だと感じたようだ。
「コトネさん、食べ過ぎたの?大丈夫?」
と心配そうに覗き込む。
「だ、だいじょうぶ、です…………。」
「コトネさん………泣きそうだ…………。」
ルークはコトネの目元に触れようと手を伸ばす。触れようとした瞬間、その手は弱い力で払いのけられた。
視界の端でルークが驚いてい息を吞む音が聞こえた。
「すいません。本当に食べ過ぎたみたいで…………ここからはひとりで帰りますね。」
ルークを見ないままコトネはそう告げる。
今のコトネは頭の中が整理できなくてぐちゃぐちゃで、このまま一緒にいたらもっとルークを傷付けてしまいそうだった。
だって、すでに目の前のルークは捨てられたわんこみたいな表情でコトネを見ている。
(なんで、私よりもあなたのほうが悲しそうな顔をするんですか…………)
「ごめんなさい、今はひとりに、なりたいので…………」
そうコトネは平坦な声で言うと屋敷まで振り返らずに走り抜けた。




