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街の中でも栄えた場所。その一角は夜から開く商店が多く、目的の店はそこにあった。
まだ昼を過ぎた時間でほとんどの店開いておらず静かだ。
コトネが足を運んだ先のその店はすでに灯りがともっていた。
黒い看板にピンクの文字。『エルフの魅惑』と描かれた看板を見上げ、コトネは扉を開けるのを躊躇する。
(あきらかに怪しい店だよね………お金は持ってきたけど、騙されたり変な商品はきちんと断らなきゃ!!)
コトネが扉に触れようとした時、背後から声がかかる。
「コトネさん、どうしてこんな所にいるの?」
低く穏やかに響く声はルークのものだった。
「ひゃっ!?ルークさんこそどうしてこんな所にいるのですか?」
ルークを見ると今日は制服ではなく普段着だろうか、白いシャツにベージュのズボン。
腰からは工具を吊るすベルトがまかれていた。
「俺?俺はしばらく仕事に出勤できなくて…………街の壊れた物を直す手伝いをしていて、コトネさんが近くにいた気がしたから会いに来たんだ。」
ルークはバツが悪そうに頭をかいて言う。
「えっ、近くにいたらわかるんですか?」
「もちろん、コトネさんが街のどこにいるかはだいたいわかるよ。」
「ええっ。」
さすが獣人というべきだろうか、彼らの能力をあまり知らないコトネは純粋にすごいと感心する。
「コトネさん、この店が何の店だかわかってるの?」
もちろんわかっている。大切な主人の悩みを解決する糸口があるかもしれないのだ。
ただ、知り合いに入店前に会いたくはなかった。
(ルークくんに正直に理由を言ってハイネ様とハルバトール様のことを知られるのはまずいよね…………いっそ私用ということにしようかな…………)
「はい、前から来たいなと思っていまして。」
「えっ、えっ。」
戸惑うルークをよそにコトネは扉を開けた。
「ところで、なんでついてくるんですが?」
入店した後もコトネのそばにぴったりとルークがいた。
「いや、この前のこともあるし護衛だよ。」
「はぁ…………。」
(今は昼間だけど護衛って必要なのかな…………?正直いないほうがじっくりと店内を見れるんだけど………)
店内は棚ごとに説明書きと綺麗に並べられ整然としていた。
看板と同じように店内も夜のお店らしい配色かと思えばそうでもないらしい。
カウンターにはベルが置かれ、商品が決まったら鳴らしてくださいと書いてある。
コトネは棚ごとにゆっくりと見て回る。
〖妖精の本音〗この液を一滴飲むと、心の中の言葉が溢れ出る。
〖ドラゴンの麻痺〗これを相手に一吹きすると、一定時間身体の自由を奪うことができる。*悪用厳禁
〖セイレーンの声音〗これを一飲みすると相手の心を惑わすことができる。
商品を眺めてから、倫理的に怪しいものが多数ある。
堂々とお店に置いてあるあたり合法なのだろうか。
「なにか気になる商品はあった?」
隣にいるルークは落ち着かない様子でコトネに尋ねた。
「そうですね、この〖妖精の本音〗は気になります。どのぐらいの時間効果があるのでしょう。」
「あ、あぅ、あのコトネさんはこれを誰かに使うの?」
「そうですよ。」
購入するなら使用するのに決まっているのに何を言っているのだとルークを見上げれば、ルークは顔を赤くして目を逸らす。
「う…………、誰に使用するか教えてもらえないよね?」
「もちろんです。あ、隣にも部屋がありますね。カーテンに何か書いてありますね。『道具とそのほか*暴れることもあるの注意せよ』…………へぇ、なんでしょう?」
コトネがカーテンに手をかけ開けようとすればルークがカーテンの前に立ちはだかる。
「ここはっ!危ないものもあるから行かないほうがいい。」
「そうなんですか?気になるけど…………とりあえず目当ての物は買えそうだからいいかな。」
カウンターのベルを鳴らすと、リィーンと高い音が響いて奥から恐ろしく綺麗なエルフが出てきた。
白く絹の様な長い髪、瞳は緑色と特徴的な尖った耳。
一見すると男性だか女性だかわからない。
「この商品を一つお願いします。」
コトネが〖妖精の本音〗を渡せば店主のエルフは丁寧な手付きで包装をする。
「この商品使用の際には…………。」
エルフの声は高くも低くもなくそれでいて、耳に静かに届いた。
「商品を使用する前に使用する相手に正直に申告してから使用してください。その方が上手くいきますから…………。」
(つまり、ハイネ様が使用する事をハルバトール様を伝えてから使ってね、ってことだよね)
「飲んでもらう前にばれたらまずくないですか?」
「はい、通常は。でも今回に限り申告したほうが上手くいくでしょう。」
エルフの予言めいた言葉にのコトネが頷けば、店主は目を細めた。
店内を出てコトネが無事に商品を手に入れることができて安心している横で、剣吞な空気を纏う男が一人。
「コトネさんは…………これを使う奴のことが好きなの?」
ゆらりと立つルークはコトネの知らない顔をしていた。
「使用する相手ですか?私は特に…………お世話にはなっているとは思いますが。」
「君は好きでもない相手に使うってこと…………?」
ルークはコトネの手首を強く掴む。
(なんだか、ルークくん怒ってる?たぶん…………私が適当な相手に使用するって勘違いしてるよね)
「ルークくん、少しこちらに。」
コトネは慌ててルークを細道の人のいない物陰へと引っ張った。
「あの、ですね。」
ルークの耳の手をあて内緒話をするように小声で囁いた。
「ここだけの話ですが…………私の主人のハイネ様が夫婦生活に悩まれていたので………何か糸口になればと探しに来たのです…………。」
コトネの話を聞いたルークは2、3度瞬きをした。
「あぁ!そうゆうこと?なるほど、なるほど。よかった。」
コトネが見上げるとルークはさっきまでの穏やかじゃない空気を消してへらりと笑ってみせた。
「あいつは、無口だし堅物だからね。番の前でも不器用なだけだと思う。」
「あいつ…………?ハルバトール様をご存じなのですか?」
「学生時代の同級だよ。」
仲は良くないけど、とルークは付け足す。
(ハルバトール様と同級生って、いったいルークくんは何歳なんだろう?もしかして年上の可能性もあるの…………?)
コトネはルークと至近距離でいた事に気付く。意識してしまえば心臓が早鐘を打つ。
「ルークくん、そろそろ手を放してもらってもいいですか?」
「あぁ、ごめんね。」
ルークはにこりと笑い両手を空に上げた。
コトネはルークなら何でも答えくれるような気がして疑問を口にする。
「…………私が人だからわからないのですが、大切な番と結婚してそれからなにもしないのって獣人の方ならば普通なのでしょうか?」
ルークは、んーと腕を組む。
「普通はありえないよ。番をみつけたら獣人は一直線だから結婚よりもずっと前に囲い込んでもおかしくはないし。でも、相手が人なら、番のわからない人なら慎重になると思う。」
「…………。」
「それだけ、慎重になるのは相手に嫌われたくないある意味、臆病者とも言えるね。」
「それが…………想ってくれた結果なら臆病者だなんて思いません。ハルバトール様がハイネ様をとても大切に想ってくれているならとても嬉しいです。」
「…………ありがとう。」
「なぜ、ルークくんがお礼を言うのですか?」
コトネの問いかけに、いいよ、いいよこちらの話とルークは手をひらひらさせていた。
「コトネさんはそろそろ帰る?途中まで送っていくよ。」
夜の屋敷にはランプの明かりが灯る。
コトネはハイネの部屋にいた。
ハイネの手のひらにそっと〖妖精の本音〗を置く。
「こちらはとある店で購入した〖妖精の本音〗と言う商品です。効能は一滴飲むことで心の本音を話すそうです。」
「…………そんなものがあるの?」
ハイネの目元は少しまだ腫れていたが、摩訶不思議な商品に目は驚きに満ちていた。
「はい、こちらをハルバトール様に使うことも可能でしょう。ただ、店主の方からはこの商品を使用する前に使用する事を正直に申告せよとお話がありました。それはつまり、ハイネ様がハルバトール様の心の内を知りたい理由を正直に話してしまってもいいのかもしれません。」
「…………そうね、そうよね。私こんなにいつから臆病になってしまったのかしら。」
ハイネの目に少し光が戻った気がした。
「コトネ、ありがとう。もし、ハルバトール様に振られて国に戻ることになったら着いてきてくれる?」
「もちろんです。」
次の日に屋敷の使用人たちは仲睦まじい夫婦を目撃することとなる。
コトネたち侍女三人もほっと胸を撫で下すのであった。




