1/田町美佐夫 -7 違和感
死んだ目でスマホを操作し、メッセージを作成する。
『実は、昨夜落とし物をしてしまったらしくて。
探しに行きたいので、具体的にどこで降りたか教えていただけませんか?』
送信すると同時に、うさぎがクエスチョンマークを出しているスタンプを添えてみる。
ほとんど待たずに返信があった。
『それは本当ですか?
私の責任もありますし、手伝わせていただきたいですが、今どうしても手が離せなくて……。
場所は、繁華街から住宅街へ向かう際によく使われる裏道です。
山道のほうですね。
わからなければ連絡ください』
口笛の音と共に、猫が頭を下げているスタンプも表示される。
ちょっと嬉しい。
歌音が再び画面を覗き込み、言った。
「……鬼瓦さん、いい人レベルカンストしてない?」
「わりと……」
「ほんと、迷惑かけたらだめだよ」
「うう」
出ないぐうの音の代わりに返信する。
『ありがとうございます!
落としたのは大したものではないので、気になさらなくて大丈夫です。
裏道って、一車線の県道のことですよね』
しばしメッセージの応酬を繰り返し、僕がタクシーから降りた場所はおおむね特定できた。
「ここから歩いて三キロくらいかな。山道のほうみたい」
歌音が立ち上がり、ぐ、と伸びをする。
「じゃあ、散歩がてら行ってみよう!」
「こほん、こほん。迷惑かけるねえ」
「言いっこなしだよ、おじさん」
ノリもいい。
我が姪ながらかわいいほうだと思うし、さぞクラスメイトの男子たちを翻弄しているんだろうな。
「ほらほら、行くよ!」
歌音が僕の手を引き、立ち上がらせてくれる。
僕が元の姿であれば絶対にしないであろうスキンシップだ。
うーん、美少女パワー。
玄関へ向かう最中、致命的なことに気付く。
「──そうだ、靴!」
「あ」
靴がなければ外に出られない。
「どうしよっか……」
「うーん。ちょっとというか、かなり大きいけど、適当な靴でも突っ掛けてくしか」
呟きながら下足場に視線を落とすと、見覚えのないサンダルが乱雑に脱ぎ捨ててあった。
「……? これ、知らないぞ」
「おじさんのじゃないの?」
「僕、こんなに足小さくないって。ほら、今の僕にぴったり合う」
「ほんとだ……」
歌音が首をかしげる。僕も同じ気分だった。
「パジャマも下着も着けてたくらいだし、そういうこともある、のか……?」
「それで済ませていいのかな」
わからない。
わからないけど、今は感謝すべきだ。
爪先で拾うようにしてサンダルを履くと、サイズはぴったりだった。
「……ブラックなオーガニゼーション説、濃厚かもしれない」
「単なる病気なら、服もサンダルも発生しないもんね。適当に言ったけど、あながち間違いじゃなかったりして」
なんかの実験体にされたとか。
それはそれで、自分の部屋で目覚めたことに違和感があるけど……。
扉を開き、外に出る。
九月の日差しがいやに眩しかった。




