1/田町美佐夫 -6 友達とは
「ほら、鬼瓦って人に連絡するんでしょ?」
「そうだった」
暗証番号を入力し、メッセンジャーアプリを開く。
この声じゃ通話は無理だから、チャットでいいだろう。
自分の小さな手に戸惑いながら用件を入力していく。
『お疲れさまです、田町です。
昨夜はお付き合いありがとうございました。
実を言うと、別れ際の記憶がほとんどなくて……。
何か変わったことはありませんでしたか?』
隣に腰掛けた歌音が、スマホの画面を覗き込む。
「これでいいかな」
「うん、いいんじゃないかな」
年長者の威厳はどこへやら、だ。
メッセージを送信すると、ほんの数分で返信があった。
「こちらこそ、昨夜は楽しかったです。田町さんが酔い潰れてしまったので、一緒にタクシーに乗って帰りました。途中、歩いて酔いを冷ましたいとおっしゃったので、そこでお別れしました。心配でしたが、無事に帰り着かれたようでよかったです──だって」
歌音が呆れたように言う。
「おじさんたち、もっとフレンドリーなやり取りできないの? 絵文字入れるとか、スタンプ使うとか」
「いや、仕事仲間だから。友達じゃないからね」
「じゃあさ。友達とは、もっと軽い感じなの?」
友達とは。
友達とは。
友達とは──
歌音の言葉が脳内でリフレインする。
「……友達とは、なんでしょう。身長は? 年収は? 調べてみました。調べてみましたが、よくわかりませんでした。いかがでしたか……」
「あ、壊れた」
「そもそも!」
拳を握り締め、熱弁する。
「人が生きるために不可欠なものはお金であり、それを稼ぎ出すための技術である! そこに友情は必要あるだろうか! いやない!」
「反語まで使って……」
「歌音もいずれわかるときが来るさ。信じれば裏切られ、裏切られては傷ついて、傷ついても諦めずに信じ、また裏切られ……」
「聞きたくない聞きたくない! おじさんの歪んだ人生観なんて聞きたくない! あたしはもっと、きらきらした人生を歩むの!」
「ふふ。きらきらしてるじゃないか、僕の作るものは。他人の人生を彩るために、僕の人生のすべてを費やしているじゃないか……」
「こら!」
ぺち。
「うぶ」
歌音が、僕のほっぺを両手で挟む。
「あ──」
おかげで我に返った。
「……ごめん。こんなの、歌音に言うべきことじゃなかったよな」
「ほんとだよ……」
「鬼瓦さんにぐちぐち言うべきことだった。と言うか、昨夜も死ぬほど言ったはず」
「……鬼瓦さん、名前に反していい人だね」
「あんないい人いないよ」
「愚痴り過ぎて、飲みに付き合ってくれなくなったりして」
「それは困る!」
定期的に発散させてもらっているのに。
歌音がくすりと笑い、言った。
「それって、もう、友達なんじゃない?」
「友達、なのかなあ……」
僕は、他人との距離感が、いまいちわからない。
「仕事と関係ない飲み会って、要は遊びと同じでしょ。一緒に遊んでくれる人のことを友達って思わなかったら、失礼だよ」
「……そっか」
歌音の言葉ですこし気が楽になった。
「僕にもいたんだ、大親友が……」
「それは踏み込みすぎ」
「調子に乗ってすみませんでした」
「とりあえず、歩いて帰ってきたことまではわかったね」
つるりと滑らかなあごを撫でて、考える。
「そのあと、何かあったっけかなあ」
やはり思い出せない。
「あったかもしれないし、違うかも。仮に病気だとしたら、潜伏期間とかあると思うんだ。そしたら、事が起きたのは昨日より前ってことになるでしょ」
「たしかに」
「ブラックなオーガニゼーションにメディシンをドリンキングさせられた感じなら、いったん誘拐とかされてたり……」
「……あー」
わりとあり得そうだ。
「昨日の足跡、もうすこし詳しく知りたいね。降ろしてもらった場所ってわかる?」
「あ、うん。聞いてみるよ」
歌音は、本当に頼りがいがある。中学三年生とは思えないくらいだ。
「……はー」
同時に、自分の不甲斐なさにも呆れてしまう。
本物の美少女だったらそれも愛嬌なのだろうけど、本当の僕はアラサーの成人男性だ。
ただただどんくさいだけである。




