1/田町美佐夫 -5 田町美佐夫、三十二歳
歌音の手で採寸をしてもらい、その結果を元に、CADで型紙のデータを作成する。
デザインは、直近で作った女性服のものを流用すればいいだろう。
プロッターで型紙を印刷してしまえば、あとは以前の記憶通りに縫製するだけだ。
職業用ミシンを手足のように使いこなし、ほんの一時間で一着仕上げる。
簡単なものだ。
「できた」
糸くずを払いのけ、完成したワンピースに袖を通す。
「どう、かな」
「……うん。かわいいと思う」
採寸してから一言も発さなかった歌音が、小さく頷いた。
そして、呟くように言う。
「もしかして──」
目を伏せ、再び僕を見つめる。
「……おじさん、なの?」
通じた。
僕に限っては、言葉より行動のほうが雄弁だ。
「そうだよ。僕は、田町美佐夫。三十二歳。職業は服飾デザイナー。仕事の話をすると若干ニチャる、歌音のおじさんだよ……」
「わあ、ごめん! ニチャってない、ニチャってない」
「いや、こっちこそごめん。でも、口で言っても絶対信じてもらえないと思ったから」
「……まあ、うん。信じなかったと思う」
「だよね……」
慌てて言わなくてよかった。
「でも、どうしていきなり女の子になってるの?」
「それがわかれば苦労はないんだよなあ……」
心の底から溜め息をつく。
「起きたらこうだったんだよ。正直言って、僕もさっぱり」
「起きたら──って、何か原因はあるはずだよね。昨夜何してたか、覚えてない?」
「ええと」
思い出す。
「……うん。歌音が知ってるかわからないけど、仕事仲間の鬼瓦さんと飲んでたよ」
「知らない人だ」
「だよね」
接点がないもの。
「そのあとは?」
「……ほとんど記憶ないな。だいぶお酒が入ってたのは覚えてるんだけど」
「じゃあ、そこから辿ろうよ。あたしも手伝うからさ。ね?」
「歌音、優しい……」
「おじさんがいきなり女の子になってたら、さすがに放っておけないって」
「ありがとう……」
なんだか涙が出てきた。
「ああ、泣かない泣かない! その姿で泣かれると、すっごく悪いことしてる気分になるんだから」
「ごめん。最近、涙腺がゆるんできて……」
「あはは。そういうとこ、おじさんだなあ。仕方ないから、さっき抱き締めた件も不問にしてあげる。あたしからしたことだしね」
「優しい……」
「もー。だから、泣かないでってば。また抱き締めたくなるでしょ!」
「見た目はこうでも中身は三十二歳のおじさんであることをお忘れなく……」
「わかってますって」
歌音が苦笑する。
「まずは、その、鬼瓦さん?に連絡を取るのが先決かな」
「歌音は頼りになるなあ」
「これくらい、ほんとはすぐに思いつくよ。おじさんが動転してただけ」
「──…………」
真っ先に自分の裸を確認しに行ったのも、きっと、気が動転していたからに違いない。
決してすけべ心からではないのだ。
そうか?
いや、思い込め。
「思い込めー、思い込めー……」
「?」
歌音が小首をかしげる。
「あ、いや、こっちの話」
「おじさんって、たまに自分の世界に入るよね」
「──…………」
ちょっと恥ずかしい。
「えーと、スマホスマホ……」
誤魔化すように寝室へ向かい、スマホを探す。
だけど見つからない。
「ごめん、また電話掛けてくれない? この部屋にあるのはたしかだし」
「はーい」
歌音が自分のスマホを操作すると、ベッドと壁の隙間から着信音が鳴り始めた。
落としてしまっていたらしい。
ベッドに寝そべり、腕を隙間に突っ込むと、スマホはあっさりと手の中に戻ってきた。
腕が細いというのは、思いのほか便利かもしれない。
「あったあった」
「──…………」
「歌音、ほら──」
振り返ると、歌音が複雑な表情を浮かべていた。
「おじさん」
「?」
「スカート、気を付けてね。まる見えだったから……」
「えっ」
思わずスカートを押さえる。
「……見えてましたか」
「はい」
「え、と。その。気を付けます……」
「よろしい」
「──…………」
なんだ、このいたたまれなさは!
恥ずかしいとはすこし違うんだけど、据わりが悪いと言うか、気まずいと言うか。




