4/田町みさお –6 最高の人生
──……ひ、……っく、ごめ、……なさい……
「いや、そもそも僕が飲み過ぎたせいだし。君は気にしなくていいよ」
──でも……!
「いいんだ」
僕は、彼女を安心させるように微笑んだ。
「そんなのは、罪じゃないよ。僕が許す。誰あろう僕が許すんだ。これ以上はないだろ」
──……う
しゃくり上げるような声がしばらく響き、頷く気配がした。
──……は、い……
ぐじゅぐじゅと鼻をすする音がして、彼女が再び口を開いた。
──それで、キツネコさまが言ったんです
──このままじゃ転生ポイントが足りない、って……
「転生ポイント」
随分と俗な概念が出てきたな。
──転生ポイントは、その人がどのくらい人生に満足したかってことらしくて
──これが足りてれば、私は、次の人生でまた両親の子供に産まれてこられるそうなんです
「なるほど……」
だんだんわかってきた。
「それで僕が、みさおちゃんの代わりに、君の人生を満足させることになった。そういうこと、かな」
──……はい
──でも、誰かに頼まれてやるのなら、それは違うから
──だから、キツネコさまは、試練って形で
「自主的にやらせたんだ」
──はい……
「……じゃあ」
口にするのが怖かった。
でも、確認しなければ。
「ウエディングドレスを着ても、僕は……」
──……私を、その体に戻すことはできません
──誰の体であっても、死んだら終わりなんです
──その体は、もう
──美佐夫さんのもの、です
「──…………」
暗い天井を見上げる。
天井なんてものがあるのかはわからないけど、そうした。
不思議な気分だった。
ほっとしてる。
でも、喪失感もあった。
なんのためにここまで頑張ったんだろうって、肩すかしを受けた気持ちも当然ある。
でも、
「……みさおちゃん。僕がウエディングドレスを着れば、君は満足できるかい」
これだけは知りたかった。
「ご両親の元へ、行けるかい」
──はい
──美佐夫さんの、おかげで……!
「……そっか。なら、よかったよ。頑張って、よかった」
僕の作ったドレスが、彼女を救うんだ。
こんなに嬉しいことはない。
──あ……
──もう、限界みたい
「そっか」
──本当に、ありがとう
「いいんだ。こちらこそ、だよ」
──……?
「最高の人生にする。
最高の友達と一緒に。
だから、安心して、ご両親のところへ行くんだよ」
──はい!
一瞬だけ、闇が晴れた。
その先にいたのは、今の僕と同じ外見の少女だ。
笑ってる。
心の底からの笑顔だとわかる。
それを見ただけで、僕はもう、嬉しくなってしまって……。
すこしだけ、また、泣いた。




