3/第二の試練 -8 雨予報
「雨、残念だったね……」
「ほんとほんと。もーっと遊びたかったのに」
ほのかちゃんとさえちゃんが、憂鬱そうに帰り支度をする。
「……仕方ないよ。土砂降りの予報だもん」
みんなで朝ごはんを食べながらテレビを見ていたら、もうすぐ大雨が降ると天気予報が言い出したのだ。
空を見れば、たしかに、分厚い雨雲が青空を隠していた。
いつ泣き出すかわからない空模様だ。
「もう一泊したーい……」
「……それは、うん。私も思うけど」
「──…………」
僕だって、そうできればどんなに嬉しいか。
でも、二人はまだ子供なのだ。
親御さんに迷惑をかけてはいけないし、僕は僕で最後の試練が待ち受けている。
二人を引き止めるという選択肢はなかった。
「……また、遊ぼう。ね」
最後の試練の内容によっては。
そして、僕の決断によっては。
二人と遊ぶのは、これが最後になる。
だから、僕は、精一杯の笑顔を作った。
「また、……三人で、パジャ、マ……」
ああ、もう。
なんでこうなるかな。
なんで我慢できないのかな……。
「……う、ああ……! ま、また、……またやろうね……!」
さえちゃんとほのかちゃんが、顔を見合わせてくすりと笑う。
そして、二人で僕を抱き締めてくれた。
「またやろう。なんなら来週でもいいよ!」
「うん。みさおちゃんのおじさんが帰ってくるまで、毎週だっていいくらい」
「……、うんッ!」
ほんと、締まらない。
でも、なんだかこれが僕らしい気もしていた。
別れを惜しむ二人を見送り、鼻をすすりながら歌音に電話をする。
『──もしもし、おじさん?』
「うん……」
『あはは、また泣いてたんだ。泣き虫毛虫』
「うう。し、仕方ないだろ。二人と遊ぶの、最後かもしれないんだから……」
『……!』
歌音が息を呑む音がした。
『そう、だったね。ごめん。茶化すべきじゃなかった』
「あ、いや。僕が泣き虫なのはほんとだし……」
あわあわと歌音をフォローする。
電話の向こうで歌音が微笑む気配がした。
『天気、悪いね。キツネコさまのとこ、早めに行こうか。迎えに行くから待ってて』
「……うん。アパートの前で待ってるよ。傘、忘れずにな」
『わかってますって』
身支度を整え、傘を持って部屋を出る。
空を見上げると、さっきより雲が黒みがかっているように感じられた。
ほのかちゃんとさえちゃんが無事に帰るまで降らないでくれよ……。
風邪でも引いたら大変だ。
「おーい」
傘を携えた歌音が、こちらに向かって手を振った。
「おはよう、歌音」
「おはよ、おじさん。さっさと行って帰ってこよう?」
「土砂降りって話だからなあ……」
「自転車も考えたんだけどね。でも、雨が降ったら余計に危ない気がして。どうせ山道からは徒歩なんだし」
「うん、そうだな。正しい判断だと思うよ」
なんだかお姉さんな気もしているけど、歌音は僕の姪っ子だ。
危ないことはさせられない。
僕たちは、なるべく早足で歩き始めた。
キツネコさまの祠へ向けて。




