3/第二の試練 -4 みっつの解決法
「パジャマパーティーに必要なもの、か」
我が物顔で僕のベッドを占拠している歌音が思案する。
「布団は注文したんだよね」
「うん。金曜の昼に置き配で届くようにしたよ」
通販ってべんり。
「絶対に必要なのが、食事。でも、これはピザとか取ったほうが盛り上がるし、事前に準備しなくていいかな。あと、おやつと飲み物も必須だね。水道水とかテンション下がるし、明日にでも買い出しに行こうか」
「ふんふん」
歌音の言葉を真面目にメモしていく。
「あと、意外と重要なのが、映画」
「映画……」
「おじさん。二人と話してて話題に困ったこと、あるでしょ?」
「うッ」
図星だった。
「……い、いやでも、僕と二人はもう親友なんだし、話題なんて無限だよ無限。はは」
「はい、見栄張らない。そもそも話題なんて、絶対に尽きるもんなの」
「そうなの……?」
「どんなに仲がよくても──いや、仲がいいからこそ、たいていのことは話し終わってる。一緒にいる時間が長いと、どうしてもね。そこで、みっつの解決法が考えられます。おじさんにわかるかな?」
「みっつも」
「解決というか、自然とこのどれかに収束するって感じだけどね」
「うーん……?」
真剣に、真剣に考える。でも、ちっともわからない。
「はい時間切れー」
「あと一分!」
「だーめ。まずひとつめは、話題をループさせること。同じ話題を何度もこすり続けるんだ」
素朴な疑問が浮かぶ。
「……それ、楽しいの?」
「場合によるよ。ママだって、おじさんの子供のころの失敗談、何度も何度もするじゃない」
「あー……」
「つまり、そういうことだよ」
なるほど、勉強になる。
「ふたつめ。話さなくても気まずくない関係を構築する。互いに何も話さなくても、一緒にいるだけでなんとなく心地いい。そんな、素敵な関係を目指すわけ」
「熟年夫婦のようだ」
「そんなイメージだね。でも、今回はパーティーだから当てはまらないかな。だから、おじさんが目指すのは、最後の方法になるよ」
「それは?」
「それはね」
思わず背筋が伸びる。
「──同じ経験をして、共通の話題を作ること。同じ映画を観たら、面白くても、つまらなくても、その映画について語れるでしょ」
「!」
思わず、キツツキのように何度も頷いてしまった。
「映画館がデートスポットになるのって、それが理由だって聞いたことあるよ。映画を観るのが目的なんじゃなくて、共通の話題を作るのが目的なんだってさ」
「はー……」
目からうろこが滝のように落ちていく。
「だったら、なんの映画を観るか決めておかないとな。サブスク入ってるからたいていのは観れるはずだけど」
入るだけ入って一年近く何も見てない無駄なサブスクだけど、入っておいてよかった。
「……あたしが決めてあげよっか?」
「歌音が?」
「だって、自分で情報仕入れたらネタバレになるでしょ。かと言って、適当に選んだのが、笑いにすら変えられないような半端なクソ映画だったとしたら、パーティーがお通夜みたいになっちゃうだろうし……」
「……それは、うん。避けたい」
「よろしい。普通のサメ映画と笑えるサメ映画、どっちがいい?」
「サメ映画しかないの……?」
二人とも、なんだかんだ言って楽しみそうだけどさ。
「冗談冗談。マイナーだけど名作のアニメ映画と、ちょっぴり対象年齢は高いけど有名な女性向けサクセスストーリーと、ハラハラドキドキのクライムサスペンス。さあ、どーれだ!」
「ぜ、絶妙……!」
どれ見ても絶対楽しいやつだ!
「……え、と。タイトル、全部教えてもらっていいかな。三人で悩もうかなって」
「いいとも」
歌音おすすめの映画のタイトルを必死にメモっていく。
幸い、どれも見たことのない作品だった。
「最後に、パジャマパーティーに必要不可欠なものがひとつあります」
「……?」
なんだろう。
「おじさん。明日の放課後、空けておいてほしいんだ。一緒に買いに行くから」
「えっ、それくらい自分で」
「い、い、か、ら」
正面から肩を掴まれる。怖い。目が怖い。
「は、はい……。わ、わかり、ました……」
僕、もう一生歌音に逆らえないんだろうな。
そう嫌でもないのが終わってる。
「いちおう、多めに現金持ってきてね。今はカード使えないだろうし」
「わかった」
けっこう高いものなのかな。
パジャマパーティーに絶対に必須な高価なものって、ひとつも想像がつかない。
いちおう、タンス預金から五万ほど予備の財布に入れていこう。
──そして、パジャマパーティー当日がやってきた。




