2/第一の試練 -12 クレープ屋さん
他愛のない会話を交わしながら、商店街へと向かう。
途中、小ぶりな図書館の位置を教えてもらったが、立ち寄ることはしなかった。
馴染みどころか週に二度は通っている商店街へと足を踏み入れると、さえちゃんがぐるりと周囲を指し示した。
「ここが商店街! なんら見るところのないふつーの商店街だけど、べんりだよ」
「さえちゃん、わりと失礼」
「ごめんごめん。あえて言うなら、年に一度おみこしを担ぐ……くらい?」
あー、あったあった。あれ邪魔なんだよな。買い物したくてもできないし。
さえちゃんよりよほど失礼なことを考えながら、二人の案内に耳を傾ける。
知ってる店をすべて教えてくれようとするのが、微笑ましいし、楽しい。
「──それでー、ここが金華堂! きんつばが美味しいらしいよ。うち食べたことないけど」
「そうなんだ」
商店街にはよく足を運んでいるけど、どうしたって入ったことのない店が大半になる。
自分では行かない店を紹介してもらうのは、なかなか新鮮な気分だった。
「あ」
商店街の中ほどに真新しい店舗が見えた。
「クレープ屋さんって、あそこかな」
半年ほど前に改装した新しいお店だ。
もともとは喫茶店だったはずだから、大胆に路線変更したらしい。
「ね、二人ともなに食べる?」
ほのかちゃんが、歌音からもらったチラシを広げる。
「私、アーモンドバナナチョコクリームとシナモンアップルクリームで迷ってるんだ」
「うち、チキンカレーチーズ!」
どれも素直に美味しそうだ。
「僕は──」
どうしようかな。
クレープなんて普段食べないし、どれもいまいちピンと来ない。
「……んー、と……」
困ったな。このままだと、二人を待たせることになってしまいそうだ。
「え、と。えっと、どうしよう……」
徐々に慌てていく自分を自覚する。
「決まらないならさ」
そんな僕を見かねてか、さえちゃんが助け船を出してくれた。
「穂乃香が迷ってるののどっちかにしてみるのもいいかも。そしたら、穂乃香と二人で半分ずっこできるよ!」
「あ、それ!」
一石二鳥のアイディアすぎる。さすがさえちゃんだ。
「みさおちゃん、いいの……?」
「うん、いいよ。あんまりメニューが多くて、どれ選べばいいかわからなくて」
「……ありがと。どっちも気になるけど、ふたつはとても食べられないもん。おこづかいも多くないし」
そうだよなあ。
中学一年生、だもんな。
僕が中学一年生のときは、月の小遣いが七百円だった。
小学校までは学年×百円。中学に入ってからは千円にランクアップすると思っていたけど、そんなことはなかった。
当時はすこしだけ恨んだけど、今思えば感謝しかない。
親代わりに僕を育ててくれた姉さんが必死に稼いだお金だと、ちゃんと理解しているからだ。
クレープ屋さんの玄関扉をさえちゃんが押し開く。
「こんにちはー!」
「はい、いらっしゃい」
元気な挨拶に、店主らしきおじさんの頬がほころぶ。
内装は、やはり、元喫茶店といった風情だ。
イートインスペースが広く取られており、落ち着いてクレープを楽しむことができる。
クレープをメインに据えただけで、紅茶やコーヒーはメニューに残っているみたいだった。
「おじさん! チキンカレーチーズいっちょ!」
「へいらっしゃい!」
ノリのいいおじさんだ。
「そっちの二人も決まったら言ってね」
「はい、ありがとうございます」
ほのかちゃんが、ぺこりと一礼する。
「みさおちゃん、どっちがいい?」
「んー……、と」
ふたつまで絞られたなら、あとは簡単だ。
「アーモンドバナナチョコクリームにしようかな」
まだ味の想像がつく。
シナモンアップルクリームは、はっきり言って未知だ。選ぶにはすこし勇気が必要だった。
「じゃあ、私がシナモンアップルクリームだね」
「うん。美味しいといいね」
「きっと美味しいよ」
「うちも、ひとくちずつもらっていい? チキンカレーあげるから」
「もちろんいいよ。ね、みさおちゃん」
「うん。おかず系のクレープ、ちょっと気になるし……」
「やったー!」
さえちゃんが、嬉しそうにぴょんと飛び跳ねる。
かわいい。




