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2/第一の試練 -11 帰り道

 まばらになった人の波に合わせるように外へ出る。

 そして、三階建ての校舎を見上げた。

 十数年ぶりの中学校。まさか、もう一度通うことになるとは思わなかったけれど……。

 僕は、今日という一日を過ごさせてくれた校舎に心の中で礼を言い、そっと背を向けた。


「あ、そうだ。みさお、このへんわかる? 商店街行くついでに案内しよっか」


「あっ。う、うん……」


 知ってる。なんなら、二人が産まれる前から庭のようなものだ。

 でも、善意の提案を断ることができなかった。


「みさおちゃん、どこ行きたい?」


 そう尋ねたのち、ほのかちゃんが自嘲混じりの苦笑を浮かべた。


「……って、そもそも何があるかわからないもんね。ごめん」


「あ! そ、そのー……」


 ひとまず、中学校から商店街までにあるものを提案しよう。


「と、図書館! あるなら、場所だけでも知っておきたくて」


「おー、ちょうどいいや。図書館なら、すぐ案内できるね!」


「そ、そうなんだ。よかったー」


 心なしかわざとらしい返答になった自覚はあるが、この程度で怪しまれるはずもないだろう。


「ほ、ほのかちゃんは、図書館行ったりする?」


「ううん、入ったことないかな……」


「そうなんだ」


 意外だった。文学少女というイメージだったから。


「うちはよく行くよ?」


「えっ!」


「みさお、驚くの失礼……」


「ご、ごめん。読書する時間とか、なさそうで」


「合間を縫って読んでるよ」


「どんなの読むの?」


「なんでも。絵本でも、小説でも、ジャンル問わずかなー。みさおも興味あるなら、おすすめ教えてあげましょう」


「あ、知りたいかも」


 僕も、本は読むほうだ。

 それに、さえちゃんの好きな本を読むことは、彼女を理解する手段のひとつにも思えた。


「やた! 穂乃香、勧めても読んでくれないんだよー」


「ごめんね。難しい本読むと、眠くなってきて……」


 やはり意外だ。


「む、向き不向きがあるから。ほのかちゃんは、普段なにしてるの?」


「ゲームとか、ネットとかかな。テレビも見るよ」


「どんなゲーム? やっぱり、動物が出てくるやつとか?」


「なんでもするけど、いちばんはFPSかな」


「FPS……」


 中学一年生の女の子の口から好きなゲームとして語られてはいけないゲームジャンル堂々の第二位ではあるまいか。

 ちなみに第一位はエロゲーだ。


「……今度、ボイチャ繋げてネット対戦する? ゲームによるけど、メジャーどころは一通り触ってるから」


「えっ! ほんと……?」


 ほのかちゃんが、これまでの落ち着いた立ち居振る舞いからは想像もできないほどに幼い顔で目を輝かせる。


「うん、ほんと。でも、腕には期待しないでね。下手の横好きだから」


「大丈夫、私もぜんぜん上手じゃないもん。ただ、友達と一緒にゲームできるのが嬉しくて」


「えへへ。どんくさい仲間、だもんね……」


「もー、うちのこと忘れないでよー」


 さえちゃんが拗ねたように口を尖らせる。


「ごめんね、さえちゃん。忘れてたわけじゃないの。でも、私と同年代でFPSやってる女の子って、あんまりいないから……」


「うちがぱそこん持ってたら、一緒にできるんだけどな。スマホでできるの、ない?」


「あるよ。かくれんぼゲーとか」


「あ、非対称型対戦の?」


 一人のハンターが最大四人のサバイバーを捕まえるゲームだ。


「うん。私もやったことないけど、実況とかでよく見るんだ。楽しそうだなって思ってて」


「いいね、やろう! うちも仲間に入れてけれー」


「ふふ、もちろん」


 うんうん、いいことだ。


「それはそれとして、今度図書館にも一緒に行きたい、かも。さえちゃんのおすすめも読みたいし、みんなで選び合うのも楽しそう」


「選び合うの、いいかも! 穂乃香にも小説を読ませるのじゃ」


「うぐ」


「だ、大丈夫だよ。難しいのは勧めないから……。短くてすぐ読めるの、見繕っておくね」


「うん、ありがとう……」


 こんなに対照的な二人が大親友というのも面白い。

 やはり、自分にないものを相手に求めているのだろうか。

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