2/第一の試練 -10 頼りになる姪っ子
ぐったりしたままホームルームを終える。
担任教師が僕に初日の感想を尋ねてくれていたが、なんと答えたかあまり覚えていなかった。
「──みさおー! 穂乃香ー! さえちゃんが来たぞー!」
「あ、さえちゃん! みさおちゃん、なんだか具合悪そうで……」
「みさお……?」
二人の声に気付き、顔を上げる。
「……あ、うん。なんでもない。なんでもないんだ。ただ、刑務所ではどんな臭いメシを出されるのかなと思って」
「刑務所……?」
さえちゃんとほのかちゃんが顔を見合わせる。
「よーわかんないけどさ。みさお、部活動入るか決めた?」
「部活動?」
そう言えば、さっき担任教師もそんなことを言っていた気がする。
「うん。さえちゃんは陸上部で、私は帰宅部。入ってもいいし、入らなくてもいいんだよ」
「うち的には一緒に陸上やろーって言いたいけど、みさお運動苦手そうだもんなー」
「苦手です……」
ほのかちゃんが、誇らしげに胸を張る。
「私たち、どんくさい仲間なんだよ」
「え、ずるい! うちも仲間に入りたいー」
「さえちゃんは運動神経抜群だから、だめだよ。ふふ」
「くそー」
二人のやり取りに頬を弛ませながら、考える。
「部活動、か……」
陸上部にはついていけそうにないし、ほのかちゃんは帰宅部だし、正直入る気はしないかな。
そもそも、あと九日で元の姿に戻る予定なのだ。
すぐにいなくなる僕が入部しても、部の人たちも困るだけだろう。
「……うん。帰宅部でいいかな」
「いいの? 手芸部もあるよ?」
「新しい友達もいいけど、まずは二人と大親友になりたいし」
「へへ」
さえちゃんが、はにかむように笑う。
「……嬉しいな。みさおが、うちらと仲良くなりたいって思ってくれてるの」
「そんなの……」
なりたいに決まってる。
二人の仲の良さが、僕にはとても眩しくて。
こうなれたらって、思ってしまったから。
「……僕、がんばるから」
「うん。私も、さえちゃんも、頑張るよ。みさおちゃんと大親友になりたいから」
「だね!」
「……へ、……ふへ……」
頬が弛む。
にやにやが止まらない。
勝手に上がる口角を抑えようとほっぺたをこねていると、教室の外から馴染み深い声がした。
「おじ──みさおー……?」
ひょい。
僕たちの教室を覗き込んだのは、歌音だった。
「あ、歌音せんぱい!」
「さえちゃんだ。もしかして、みさおと同じクラスだった?」
「あ、それは違うんですけど。でも、大親友予定になりました!」
「へえー!」
歌音が、うんうんと何度も頷く。
「よかったね、みさお。さっそく友達できたじゃん。あたしの言った通りだったでしょ?」
「……うん。朝はけっこう危なかったけど」
「危なかったんだ……」
主に僕自身の不甲斐なさのせいで。
「さえちゃん。この人が、さえちゃんがよく言ってる田町先輩?」
「そうそう! すっごいきれいなフォームで、すっごく速いんだよ。うちの憧れ!」
「いやいやいや、そんなそんな」
歌音がわかりやすく照れる。
「さえちゃんの大親友の、栗生穂乃香です。みさおちゃんの大親友予定でもあります」
「へえー、栗生さんもなんだ。うちのみさお、よろしくね」
「はい!」
「ところで──」
歌音が僕にそっとウインクをする。そうだった。
「……と、その。あのね。帰り、どこか寄らない……、かな? かも?」
「もっとハッキリ誘いなさい」
「はい……」
すうはあと深呼吸し、口を開く。
「……その。二人と、もっと、仲良くなりたくて。どこか寄り道して帰りたいな、って……」
ほのかちゃんが優しく微笑む。
「もちろん。私からも誘おうって思ってたところ」
「ほ、ほんと!?」
「ほんとだよ。さえちゃん、部活は?」
「昨日出たから、今日は休養日! ね、ね、どこ行く?」
「それなら、お姉さんにいい案があるぞ」
そう言いながら、歌音が一枚のチラシを取り出す。
「これ、商店街のクレープ屋さんのチラシ。見せたら百円割引になるんだって」
「かのんん……!」
頼れる女!
「わ、クレープだ!」
ほのかちゃんが目を輝かせる。
「クレープ……」
対して、さえちゃんは乗り気ではなさそうだった。
「さ、さえちゃん。クレープ、好きじゃない、の……?」
「ごめん。甘いの、ちょっと苦手なんだよー……」
「いやいやさえちゃん。クレープって甘いのだけじゃないんだぜ」
歌音がチラシの裏側を見せる。
チキンマヨネーズ、ツナチリペッパー、ハムチーズ──いわゆるおかずクレープのたぐいがずらりと並んでいた。
「わ、美味しそう!」
「どうじゃ。しょっぱい系もよかろうて」
「みさお! 穂乃香! ここ行こう!」
「う、うん!」
よほどさえちゃんの食欲を刺激したらしく、ほんのりよだれが垂れかけていたりした。
もちろん、見なかったことにする。
「あ、歌音せんぱいも一緒に行きませんか?」
「うん。最初は行こうかなって思ってたんだけど……」
歌音が、僕たち三人に視線を巡らせる。
「でも、大親友予定の三人の邪魔は、今はしないでおこうかな。ほんとの大親友になったら、今度は混ぜてね?」
「はい!」
「じゃ、あたしはこれで。みさお、あとでねー」
「あ、うん!」
ひらひらと手を振り、歌音が教室を出て行く。
ありがとう、歌音。
お礼に、今度好みの服を仕立ててあげようと思った。




