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2/第一の試練 -5 給食の時間

 四時間目の授業が終わり、給食となる。

 クラスメイトたちが机を動かし、ランチョンマットを敷き始めた。


「あ、え……」


 僕、それ知らないんだけど!

 あわあわと戸惑っていると、隣席の女子がそっと話し掛けてきた。


「……その。田町、さん?」


「はひ!」


 変な声が漏れた。


「机、くっつけて……大丈夫、かな」


「あ、うん。お願いします……」


 会話が成立した瞬間、教室内の空気が弛緩したように感じられた。

 なんとなく理解する。

 僕、みんなに気を遣われてたんだ……。


「あれ、ランチョンマットないの?」


「ご、ごめん。知らなくて……」


 このシステム、二十年前はなかったぞ!


「ねー! 誰か、予備のマットないー?」


「あ、オレ持ってるぜ!」


「あたしもあるー!」


「いや、オレが貸すから引っ込んでろよ!」


「なにさー!」


 男子と女子が言い合いを始める。


「あ、やめ……!」


 僕のために争わないで!

 僕がおろおろしているのを見かねたのか、言い合いはすぐに解決し、結局女子のランチョンマットを借りる運びとなった。


「あの、その。ありがと、……ね」


「いいよいいよ。買うまで貸しててあげるね」


「……うん!」


 思わず、折り畳まれたランチョンマットを抱き締める。


「くッ……」


 クラスの女子が胸を押さえた。


「?」


「あ、なんでもない。なんでもないよー」


 貸してもらったランチョンマットを丁寧に敷いていると、給食係の生徒がワゴンを押して教室へ入ってきた。

 懐かしい香りが鼻腔に満ちる。

 なんだろう。すごく覚えがあるんだけど、ちゃんとは思い出せない。

 隣席の子が僕に笑いかける。


「今日ね、けんちん汁だって。ださいよねー」


「けんちん汁!」


 何度も何度も食べているし、誰しも名前は知っているのに、その正体がわからないことでおなじみのけんちん汁じゃないか。


「懐かしい……!」


「田町さんの前の学校、けんちん汁あんまり出なかったの?」


「あ、ははははい! あんまり……」


 危ない危ない。

 いや、冷静に考えてみれば、大して危なくもないか。

 ワゴンの前にできた列に並び、給食を受け取っていく。


「……おおお……」


 表面張力ギリギリまでけんちん汁を盛られてしまった。

 一瞬いじめという単語が脳裏をよぎったが、けんちん汁の係は男子生徒だ。

 ……ふふーん?

 ちょっと気をよくしつつ、自分の席へと戻る。

 今日の献立は、けんちん汁、鯖の味噌煮、ほうれん草のおひたし、ごはん、牛乳だ。

 これぞ給食!といったラインナップで、たいへん好ましい。

 担任教師の号令と共に全員でいただきますをし、賑やかな雰囲気の中で食事が始まる。

 溢れんばかりのけんちん汁を頑張って啜っていると、同じ班の子たちが、おそるおそるといった様子で話し掛けてきた。


「あの。田町さんって、どこの中学校から来たの?」


「あ、えー……、その」


 どこだ?

 強いて言うなら、母校はここだ。

 でも、正直に言っても混乱を招くだけである。


「と、遠く……」


「へえー、遠くなんだ。どのくらい?」


「すごく……」


 ああ、思い出してきた。

 僕、昔は、こんな感じのやり取りしかできなかったよな。

 そりゃ話も弾まないって。

 でも、美少女というのは実に得なもので、彼ら彼女らのほうから興味を持ってどんどん話し掛けてきてくれる。

 気付けば僕の周囲に人だかりができていた。

 そうだよ。

 本当は、朝からこうなるのが自然だったんだ。

 思い返せば返すほど、朝の僕は挙動不審である。

 僕がガチガチに緊張しているのを見て取ったからこそ、話し掛けていいか迷っていたんだろうな。

 ちょっと呪いかけていたけど、さえちゃんの言う通りだった。普通にいいクラスだよ。


「ほら、さっさと給食食べろー! 質問攻めならあとでもできるだろ!」


「「「はーい!」」」


 担任教師の言葉に、クラスメイトが三々五々に散っていく。

 内弁慶で口下手な僕にとって、相手が次々話題を振ってくれるのはありがたかった。

 頷いているだけで、なんとなく会話が成立する。

 そんな経験は初めてだ。

 世の聞き上手って、案外、今の僕みたいな人のことを言うのかな。

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