表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/14

2/第一の試練 -4 初めての友達

 教室にいるのがいたたまれなくなって、授業の合間にトイレに篭もる。

 昨日の僕なら女子トイレ女子トイレと騒ぎそうなものだが、とてもじゃないけどそんな気分にはなれなかった。

 なんでだろう。

 僕、悪いことしたかな。

 自分で言うのもなんだけど、今の僕は絶世の美少女だ。

 人通りの多い道を歩いていれば、確実にスカウトから声が掛かるだろう。


「……もしや、かわいすぎたか?」


 むにむにとほっぺたをこねながら、比較的前向きな答えに辿り着く。


「そうか、なるほど。かわいすぎたのか。ははは」


 とはならない。

 虚しくなるだけだ。


「友達、か……」


 スタートダッシュで大怪我してしまった今、どうなるのだろう。

 僕は、元の姿に戻れるのだろうか。

 一人でいると不安ばかりが募る。

 ひとまず教室へ戻ろう。

 今度こそ誰かが話し掛けてくれるかもしれないし……。

 用は足してないけどいちおう水を流し、個室を出ると、女子生徒と目が合った。


「あ」


「う?」


「みさおだー!」


「さえ、ちゃん……?」


 そうか、同じ学校だものな。


「もしかして、三組の転入生って、みさお?」


「あ、……うん、へへ、そっす……」


 初めて生徒と喋ることができた。

 ただそれだけのことで、涙が込み上げるほど安堵する。


「え、え、どしたの……?」


「……ううん、なんでもない」


 たった今、僕は、さえちゃんの存在に救われた。

 ならば、言うべきことがあるだろう。


「昨日、ごめんね。歌音と話したかっただろうに、邪魔しちゃって……」

 さえちゃんが意外そうに目をまるくした。


「そんなこと気にしてたの? ぜんぜんいいのに! だって、手続きしに来てたんでしょ?」


「ア、ウン……」


 そういうことにしておこう。


「そっかー。みさお、うちと同じクラスだったらよかったのにね!」


「ほん──……ッ、とに!」


 溜めに溜めて、言う。


「そう思う……」


 さえちゃんがいれば、どれほど心強かったことか。

 正直に言えば、今も教室に戻るのが怖いくらいだ。


「あはは、嬉しいな! でも、三組もいいクラスだよ。穂乃香(ほのか)もいるし」


「ほのか?」


「うちの大親友!」


「そうなんだ……」


 どの子だろうと思い返して、誰の顔も見ていないことに気が付いた。

 考えてみれば一度も顔を上げていない。

 さえちゃんと話すことで、すこし冷静になってきた。

 ……もしかして、僕、話し掛けにくいのでは?

 気後れするような絶世の美少女が、誰とも目を合わせようとしない。

 そうか。

 そうだよ。

 そんなやつ、僕なら絶対に話し掛けられないもの。


「──あ、そうだ」


 いいアイディアが浮かんだ。


「あの、さえちゃん。頼みがあるんだけど……」


「いいよ!」


 いいんかい。

 いい子すぎて危なっかしいぞ。


「……え、と。お昼休み、ね。その。ほのかちゃん、紹介してくれないかな。僕、その。友達欲しくて……」


「おっけー。じゃあ、昼休みに遊びに行くね」


「……あ、りが……」


 ああ、涙腺が。

 油断した瞬間に決壊する。


「わあ!」


「ごべん……」


「みさおは泣き虫だなあ」


 呆れたように苦笑して、さえちゃんが制服のポケットからハンカチを取り出す。


「はい、これ。使ってないから汚くないよ」


「あびがどう……」


 人の優しさが心に染み渡る。

 女子トイレの利用者たちが不思議そうな目で僕たちを一瞥していくが、さして気にならなかった。

 背中をさすってもらいながら溜まった涙を流しきり、なんとか落ち着きを取り戻す。


「……ごめんね、ありがとうね。ハンカチ、洗って返すね」


「ん、わかった」


 さえちゃんが優しく頷いた瞬間、授業開始のチャイムが鳴り響いた。


「あ!」


「もう戻らないと……」


「おしっこするの忘れてた」


「わ、ごめん!」


「いいよ、気にしないで。ちょっと授業に遅れるより、友達慰めるほうが大事だもん」


「……友、達……?」


 友達。

 友達。

 友達!


「ささささえちゃん!」


 思わずさえちゃんに詰め寄る。


「えっ、なに? どうしたの?」


「こ、こ、これから! ……よろしく、ね!」


 必死の声音で僕がそう言うと、さえちゃんは弾ける笑顔で頷いた。


「うん! よろしくね、みさお!」


 嗚呼。

 場所が女子トイレでなければ、もっと映えたのに。

 でも、よかった。

 陽の者だとか勝手に区分けして、苦手意識を持っててごめん。

 君は僕の天使だ……。

 若干気持ち悪いことを考えながら、さえちゃんに手を振って教室へ戻る。

 教師にすこし注意されたが、そんなことはどうでもよかった。

 だって、友達ができたのだ。

 それに勝る出来事など、あるだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ