2/第一の試練 -3 大失敗
ばくん。
ばくん。
心臓がうるさい。
呼吸が荒い。
見れば、手が震えていた。
「……は、はは。たかだか十二、三歳の子供じゃないか。緊張することなんてない。うん」
などと自分に言い聞かせたところで、緊張を誤魔化すことはできなかった。
僕は転校したことがない。
でも、それだけが理由じゃない。
一挙手一投足に、これからの人生がのしかかっているのだ。
これで緊張しないやつは頭がおかしい。
「──それでは、転入生を紹介する。女の子だぞ!」
男性教師がそう言った瞬間、教室内から歓声が響き渡った。
「──…………」
ああ、期待されている。
自己紹介の言葉は、まだ半分ほどしか決まっていなかった。
あとは野となれ山となれ、だ。
「転入生、入ってきてくれ」
「──…………」
震える手で引き戸を開き、ぐらぐら揺れる視界の中を歩いていく。
でも、僕が教室に入った瞬間、教室内がしんと静まり返った。
え、なんで?
どうして?
お祭り騒ぎになるはずだろ!
お祭り騒ぎコースで組み立てていた愉快痛快な自己紹介がいきなり頓挫した。
教壇の隣に立ち、生徒たちへと向き直る。
目を伏せたまま。
とてもじゃないけど、生徒たちを直視することができなかった。
「田町。自己紹介、できるか?」
「──…………」
なんとかかんとか首を縦に振る。
何を言えばいい。
何を言えばいい。
何を言えばいい。
あ、そうだ。
歌音のアドバイスを実行すればいいんだ。
適当にニコニコしていれば──
「……へ、……へへへ……」
引きつりながらもなんとか笑みを形作る。
でも、教室は静まり返ったままだった。
あれ。
もっと笑えばいいのかな……。
「うっへへ、へ、た、田町みさお、へへ、です……」
おかしい。
地獄の空気が払拭されない。
「……ああ、うん。そうだな。みんな、仲良くしてやってくれ!」
男性教師が僕の挨拶を切り上げる。
「朝のホームルームは以上だ。田町の席は、最後部の窓際だな。教科書は、田町の席の真後ろにある棚に入れておいた。自分の棚は自由に使ってくれ」
「……はい」
こくりと頷く。
男性教師を見送ったあと、クラスメイト全員の視線を浴びながら、自分の席へと向かった。
見られている。
こんなの、ほとんど拷問だ。
僕は、正直、彼らが怖い。
自分だってかつては中学生だったくせに、今となっては未知の生き物でしかない。
自分の席に座り、窓の外へと視線を巡らせる。
三階の教室から、懐かしい運動場が見えた。
明らかに注目されているにも関わらず、僕に話し掛ける生徒は皆無だった。




