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2/第一の試練 -2 女の武器?

「──…………」


 中学校に近付くにつれ、人の往来が激しくなっていく。

 ほぐれたはずの緊張が前以上に凝り固まってしまい、僕はまた歌音の背中に隠れることしかできなかった。

 僕は無力だ……。


「もー」


 歌音が苦笑する。


「あ、そうだ。人前ではみさおって呼ぶけど、いいよね」


「……うん。それで頼むよ」


 正体がバレるとは思わないけど、不審に思われる要素は排除すべきだ。

 びくびくしながら校門をくぐると、途端に懐かしさが込み上げた。

 そうだ、こんな空気だった。

 年号が進んでも、生徒たちが入れ替わっても、その学校が纏う空気は変わらない。

 いつかくぐった玄関を抜け、校舎に入る。


「──…………」


 視線を感じる。

 特定の誰かのものではなく、不特定多数からの不躾な視線だ。

 明らかに目立っている。


「かのんん……!」


「いい加減姪離れしなさい。職員室まではついてかないからね、さすがに」


「そこをなんとか」


「だーめ」


「オーダーメイドで新しい服作ってあげるから」


「うぐ……」


 心が揺らいだらしい。


「……でもだめ! おじ──みさおのためになりません!」


 それはそうだ。


 わかってはいるのだ。


 僕は、歌音に甘えている。


「……わかった。わがまま言ってごめんな」


 歌音が、ほっと笑みを浮かべる。


「わかってくれたらいいよ。友達づくり、頑張ってね。応援してるから」


「うん、ありがとう」


 下足場で歌音と別れ、交錯する視線の中心で肩身の狭い想いをしながら職員室へと逃げ込んだ。

 転入手続きは思いのほか手短で、紙袋に入った大量の教科書を差し出されただけだった。


「わからないことがあれば、聞いてくれたらいいから。俺じゃなくても、誰か先生に」


 僕より年下と思しき担任の男性教師が爽やかな笑顔を浮かべる。


「あ、はい。わかりました」


 同性の上、比較的年齢が近いからか、生徒たちより拒絶感はない。


「俺も転校したことあるからわかるけど、挨拶は考えておいたほうがいいぞ。ぶっつけ本番だと、普段は喋れるやつでも喋れなくなったりするから」


「そういうもんなんですね……」


 なるほど、説得力がある。

 職員室の隅でパンチのある自己紹介の言葉を考えるうち、気付けば予鈴が鳴っていた。


「田町、行くぞー」


「はい!」


 紙袋の持ち手を握り、持ち上げ──


「に」


 持ち上げ、


「にににに……」


 持ち上がらなかった。


「田町?」


「す、すみません……!」


「あー、重いよな。いいよいいよ、俺が運ぶから」


 男性教師が僕の代わりに軽々と紙袋を持ち上げる。


「一気に持ち帰るのが難しそうなら、小分けにするといいぞ」


「あ、はい。ありがとうございます」


「気にすんな」


「──…………」


 ほう、なるほど。

 これが、女の武器を使って男を働かせる感覚か。悪くない。

 悪女みたいなことを考えながら、歩幅の広い男性教師のあとを必死でついていく。

 辿り着いたのは、一年三組。

 僕が転入するクラスだ。

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