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2/第一の試練 -1 転入

「──よし、と」


 身支度を整え、時計を見上げる。

 午前七時半。

 もうすぐ歌音が迎えに来るはずだ。


「……大丈夫かな」


 脱衣所へ向かい、浴室の鏡に全身を映す。


「田町みさお、です」


 なんて、自己紹介の練習をしてみたりして。


「……僕、今日もかわいいなあ」


 昨日から何度も何度も無闇矢鱈に鏡を覗き込んでしまうのだった。

 とは言え、これも今だけの特権だ。

 九日後には見られなくなるものだから、今のうちに目に焼き付けておかなくては。


「あ、写真もいいなあ。僕に合う新しい服、デザインしちゃおうかな!」


 正直、楽しい。

 このまま元の姿に戻れない可能性を考えなければ、だが。


「……はァー……」


 完全に現実逃避なのだった。

 ちなみに、逃避したい事実はそれだけじゃない。


 ──ぴんぽーん。


「おじさーん」


「──…………」


 来てしまった。


「……いい加減、現実を見つめよう」


 ひとつ溜め息をつき、扉の鍵を開く。


「おはよう、おじさ──」


 そこまで言って、歌音が絶句する。


「か、……ッわ!」


「はは……」


「おじさん、うちの制服も似合うね! 複雑だろうけど」


 そうなのだ。

 僕は今、歌音と同じ中学の女子制服に身を包んでいる。

 ふと、キツネコさまの言葉が脳裏をよぎった。


『第一の試練。それは、そこの中学校に転入し、友達を作り、その友達と一緒に放課後買い食いをすることじゃ!』


 はい、意味がわからない。

 意味がわからないくせに妙に具体的で、用意は迅速だった。

 帰宅すると玄関に、制服、体操着、学生カバン、ローファー等の必需品から、数着分の私服に至るまで、もろもろ詰まったどでかいダンボール箱が置かれていたのだ。

 転入手続きは既に済ませてあるらしく、あとはこのまま中学校に行って職員室に顔を出せばいいらしい。


「あ、胸のリボン曲がってるよ」


 歌音が僕の胸元に手を伸ばし、リボンを整えてくれる。


「お姉さま……」


「誰がじゃ」


 ツッコミが入る。


「ボケられるってことは、すこしは余裕あるみたいだね」


「僕が最後の力を振り絞って必死に紡ぎ出したひとひらの輝きかもしれないだろ」


「最後の輝きが今のでいいの?」


 あんまりよくない。


「……あのさ、歌音」


「うん?」


「すごいこと聞くけど、悲しい目をしないでほしいんだ」


「場合によるけど、努力はするよ」


 軽く逡巡したのち、口を開く。


「……友達って、どうやって作るの?」


「──…………」


 歌音が悲しそうに目を伏せた。


「言ったのに! 悲しい目をしないって言ったのに!」


「ご、ごめん。あまりに不憫で。そっか、おじさん友達いないもんね……」


「鬼瓦さんがボーダーラインにいるくらい」


「うーん……」


 腕組みをして考え込んだ歌音が、壁掛け時計に視線を向ける。


「登校しながら話そっか」


「うん」


 早めに迎えに来てもらったとは言え、のたくたしていては遅刻しかねないものな。

 おろしたてのローファーを履き、玄関を出る。

 施錠した鍵に指差し確認をして振り返ると、学校や会社に向かっているであろう人々の姿がぽつぽつと見えた。

 こんな時間に出歩くなんて久し振りだから、新鮮な気分だ。


「それで、友達だったよね」


「歌音は友達多いほうなのか?」


「普通じゃないかな。特に仲がいいのは数人で、たまに遊ぶ程度なら二十人くらいだし」


「……フレンドリー星人?」


「何その星人。部活やってたから知り合う機会が多いだけだよ」


「僕は高校時代手芸部だったけど、三年間孤独だったぞ。三年生の先輩が卒業したら僕一人しか残らなくて、そのあと誰も入部してこなかったから……」


「そう……」


 歌音が気の毒そうにこちらを見つめる。


「こんなの、僕のぼっちエピソードの中では序の口だぞ。一人で夢の国に行った話する?」


「主旨変わってる! 友達を作る方法でしょ!」


 そうだった。おじさん、反省。


「それで、どうしたらいいのかな」


「改めて考えたことないけど、そうだなあ」


 しばし思案し、歌音が答える。


「ちゃんと話をすること、かな」


「話をすること……」


 小中高の十二年間を思い出す。


「誰も僕に話し掛けてこなかったんだけど」


「自分で話し掛けたことは……」


「何度か勇気を出して」


 でも、親の仇のように会話が弾まないのだ。


「ま、まあ、今回は話し掛ける必要ないから!」


「そうなの?」


「自分の容姿を考えてみなさい。絶世の美少女が転入してきたら、クラスはどうなる?」


「お祭り騒ぎ……」


「その通り。放課後まで自由ないかもしれないよ。そのままクラスメイト全員でカラオケ行けちゃったりして」


「そ、そんなパリピイベントは嫌だ!」


「パリピイベント、かなあ……」


 違うのだろうか。


「ともあれ、今のおじさんならニコニコしてれば勝手に友達できるよ。仮にダメでも、あたしの友達紹介してあげる」


「……わかった。ありがとな」


 うん、すこしだけ緊張がほぐれた。

 やっぱり歌音は頼りになるのだ。

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