黎媧の祖
すいません、今週は多忙で水曜の更新が出来ませんでした。今日も短めです
羋蒼旅と敖虎は蔿峨から、黎媧族についてさらに詳しく教わることにした。
蔿峨によると黎媧族とは南方に棲む諸族の一つであったらしい。その営みが茨国と交わることはほとんどなかったのだが、ただ一度だけ、武王の時代に越国を攻めんとした武王に請われて助力したことがあるのだと言う。
「武王がそこまで南に手を伸ばしていた、という話は知りませんね。それに越というのは、今の茨の属国の中にはありません。武王は敗れたということになるのでしょうか?」
「いいえ、武王は越を一度は降されました。ただし武王の死後、再び背いたのです」
敖虎の問いに蔿峨はそう答えた。
「今日まで黎媧族は武王を敬仰しております。しかし、敢えて茨国と交わろうとする者はいないと聞いています。それは偏に、武王より後の茨国において、越にまで攻め込まんとする気骨ある王が現れなかったからでしょう」
「ならば武王は何故、黎媧族からそれほどまでに敬仰されているのですか?」
「武王とその将兵が強かった、という一事に尽きます。黎媧族では強さがすべてであり、武勇に秀でた者ほど尊敬されるのです」
単純で、そしてとても明瞭な基準である。同時に、強さがすべてという価値観が形成されうるほどに、黎媧族の置かれた環境は過酷なものなのだろうと敖虎は想到した。
「黎媧族では戦士に男女の別はありません。そもそも、黎媧族の祖はシーファン・ニュイワーという女の戦士だったと言われています」
「シーファン・ニュイワー、ですか?」
「はい。かつて石を練った武具にてターグウェイとフェイロンなる天地を支配する怪物を打倒し、南林の地の安寧を築いたとされる無双の勇者であり、黎媧族では三つの幼子であってもその伝承を知らぬものはございません」
「その、ターグウェイとフェイロンなる怪物はどのようなものなのですか?」
「ターグウェイは空を背負えるほどの大きな甲羅を持った亀であり、フェイロンは漆黒の巨躯を持った龍なる長巻きの怪物です」
龍、という語が出たとき、羋蒼旅と敖虎は顔を見合わせた。先に莫耶が語った神話の中にもその怪物は出てきたからである。
そして、武王の宝物にも龍冠というものがある。
様々な神話と伝承とが、龍という怪物によって結び付けられているように二人には感じられてならなかった。
「のう、蔿峨よ。そのフェイロンとやらは、武王の龍冠と何か関係はあるのか?」
「それはわかりません。ですが、私の聞いた龍冠の伝承には不可解なところがある、とは思っております」
蔿峨が疑念を口にすると、敖虎も頷いた。
「聞いていると、どうやら龍というのは人に仇なす生き物のように思えます。その怪物の名を持った冠を武王が戴いた、というのは今ひとつ腑に落ちません」
「私もそこが気になっているのです」




