親子の再会
王宮で、羋蒼旅が闘氏を率いて襲撃してきたとの報せを聞いた敖宜伯は騒然として君主の下を去ると、すぐに兵を集めようとした。
しかし次いで、武郢の門が内側から開かれ、王宮へ続く大路を進んできていると知らされて、焦りより先に困惑が勝ったのである。
――王子の動きが速すぎる。今の武郢に、王子に呼応する者がいたというのか?
そもそも、羋蒼旅が闘氏を味方につけたこと。その上で、武郢の貴族たちをも味方につけていること。何もかも、敖宜伯は想像だにしなかったことである。
つい先だって羋烙漣が言ったことを、敖宜伯は今、肌で感じていた。
先王弑逆からまだ十日も経っていない。もし咸伯明が羋蒼旅を仕留め損ねたとして、逃げた羋蒼旅が諸国の有力な貴族を頼んで兵を挙げるには早くともひと月は後のことであろうと見ていたのだ。
――虎は武郢から出たようだが、あやつ一人が王子の側にいたからといって何かが変わるはずがない。
他に、羋蒼旅の側にあって軍師のようなことを行っている者がいる。そう考えたが、しかしそれが誰かなど今は些事であった。まずは王宮の護りを固めなければならない。敖宜伯は長い廊下をひた走っていた。
「おう、そう無暗に走るものではない。性急なのはよいことだが、過ぎれば躓いて取り返しのつかぬ痛手を負うことになるぞ」
横合いから声がして、敖宜伯は足を止めた。その声は、決して聞き間違うことのない相手の者だった。
「……父上」
「おう、久しいな宜伯。お前は昔から優秀であったが、肝心なところで詰めが甘い」
そこには、かつての茨国の令尹、敖賈の姿があった。身には寸鉄さえ帯びておらず、たった一人だけである。
「どうして、ここへ?」
幽鬼の類でも現れたかと、敖宜伯は声を震わせた。しかしその声は間違いなく、何度となく聞いた父のそれだった。
「これでもかつては令尹を務めた身だ。王城から外へ逃げるための隧道くらい知っているとも」
敖賈は朗らかに笑っていた。敖宜伯にとっては、親であり師でもある老人の顏であり、それが空恐ろしい。敖宜伯は無言のままに剣を抜き放った。
「そう怯えずともよい。兵は連れてきておらぬし、ここへ抜ける隧道のことは闘氏にも王子にも教えてはおらんよ。私が来たのはただ一つ、お前に会うためだけだ」
「……私に、ですか?」
「ああ。この乱の後には死んでいるかもしれんからな。いずれ黄泉で見えるとはいえ、その前にどうしても聞いておきたかったのだよ。お前が何故、羋烙漣に与したのかをな――」
たった一つ。それを確かめるためだけに、敖賈は単身、王宮に乗り込んできたのであった。




