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d|IF|fer Affection  作者: 江川無名
第二章 「憎悪と感情」
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第十九話  拒絶と拝借

「ありがとう!  引き受けてくれて!!」



 ユリアの両手を握り、感涙の声をあげるリア。

 そんなリアの高いテンションと、気持ちを表すかの如く、激しく上下に動かされる両手に、ユリアは酷く困惑していた。

 

「えっと……どういた、しまし……て?」


 ユリアはしどろもどろで引き気味に――怯えた猫のように一歩後ろに下がる。

 リアは満足が行くまで一頻り振り回した後、手を離し、今度は燃えたぎる闘志を表さんと腕を曲げてガッツポーツを取る。


「これでいける! ……かどうかは分からないけれど、一歩は進めるはず!!」


 燃えていた。

 考えの重さとは裏腹に、明るく軽快な様子で――燃えていた。


 ただでさえ、少しばかり暑いアンティークの部屋が更に暑くなるのを感じる。


 でも、この暑さは嫌いじゃない。


「取り敢えず、ニアを呼んでくるわね! さあて、次のステップに進みましょう!」


 部屋を後にするリアの表情は楽しそうだった。


 この暑さは嫌いじゃない。――でも、彼女のあつさは痩せ我慢のような気がした。




◇◇◇




「というわけで、ルイとユリアと一緒にマジックショーを――」

「いや……!!」



 即答である。

 銃弾が放たれたとして、それが届く前に返ってくる程には即答である。

 しかし、銃弾は止まらずに飛んでくるわけで、リアは反射した鋭利な銃弾を喰らい、面食らった表情を浮かべた。


「なんでかな? 別にマジックショーくらい誰とやったって同じよ?」

「馬鹿! 馬鹿馬鹿……! リアは何もわかってない!」


 ニアは知らぬマジックショーの目的を、偽りで塗り固めたリアの発言に、ニアは短い言葉で反駁する。


「あのショーはニアとリアの大切な時間なの! もし、誰か別の子としちゃったら、リア以外の想い出の時間が……リアとの――時間が奪われる」


 リアと、もしかしたらそれ以上に重たく考えているニアの言葉に、何か知っているのではないかと思わされてしまう。

 それとも、一年の間に塞ぎ込んでしまったが、心の何処かで残っている何かがぐちゃぐちゃに混ざり合っているのか。

 この場合、どちらだから良いというわけでもないが。



 ――兎にも角にも、次のステップに進めないことには意味がない。


 いきなりマジックショーというのは無理かもしれない。何より、この状態だと、ユリア達とニアの距離を縮めることから始めなければならないだろう。

 距離を縮めるのには相当時間がかかりそうではあるが、時間がかかったとしても、ここで手詰まりになるより余程マシである。


「ユリア……ちょっとこっちに」

「? …………何?」


 小さな声で左隣にいたユリアに声をかけると、彼女は不思議そうな表情で俺の方に顔を近づけた。


「今言うことじゃないんだけど、俺ティシアに魔法教えてもらえないことが今朝わかった」

「本当に今言うことじゃない……!」


 俺が小さな声で話しかけたためか、彼女も倣って小さな声でツッコミをいれてくる。

 ただ、ちゃんとこの話をしているのにも意味がある。


「それで、一人でティシアに教えてもらうことってできる?」

「……分からない」



「だったらさ――」


 

 俺は単純だが効果がありそうな提案を耳打ちする。ユリアはそれを聞いて、更に不思議そうな表情になり、小さく首をかしげた。


「それで……いいの?」

「分からない。――でも、先ずは距離を縮めて仲良くなることから始めた方が良さそうだから」

「……そっか、そうだよね」


 幾何かの疑問を抱きつつも、納得したらしいユリアは、数回首を縦に振ってニアのもとに近づいていく。

 そして、儚さと健気さの残る声でリアを責め立てているニアに声をかけた。


「あの……ニアさん」

「……!! ……何? ユ……ユ――」

「あっ、私の名前はユリアです」

「ユリア……。何? ニアは今リアと話をしてるの」

「知っています。私達とのマジックショーの話ですよね」

「そう。……でも、私は貴方達とやることはできない」


 それは近くにいた者なら全員聞こえていたはずだ。しかし、彼女は念押しの意味ではなく、本当に今伝えたと言わんばかりだった。

 ニアにはリア以外が見えていない。昨日と全く同じだった。



 リアは依存を避けてたいと言っていたが、こんなの既に――。



 俺は両頬を叩き、考えを頭の隅に追いやる。今考えても仕方がないことでしかない。

 

 ユリアの方に意識を戻すと、彼女はニアに対して楚々として笑っていた。そして、言葉を選ぶためにゆっくりと口を動かしていく。

 

「マジックショーは今は良いです。……出来たら、やりたいって気持ちもありますけど。それよりも――」

「それよりも……?」



「ニアさん。――私に魔法を教えてくれませんか?」



「ニアが?」


 ニアは「何言ってんだこいつ」と言わんばかりの表情で、ユリアのことを見つめていた。

 しかし、暫くしてユリアが本気であると分かったのか――考えるために目を閉じて俯く。


 そして、短いような長いような、どっちつかずの時間が経過した時、ニアは目を開けて、リアの服の袖を掴んだ。


「ねえ、近くにリアはいてくれる?」

「…………私はちょっと近くにいられないかしらね」



「だったら……無理」


 即答である。

 なんなら光が地球を四周する前に返ってくる程には即答である。

 しかし、光は同じ場所を何周もするわけで、ユリアとリアに何回も光が突き刺さり、最終的にリアは折れた。


「――ああ、分かったわニア。可能な限り近くにいてあげるから。――その代わり! ちゃんとユリアに魔法を教えてあげてちょうだい」


「…………リアが言うなら、分かった」

「うん、よし。――いい子よ、ニア」


 リアはニアの頭を優しくゆっくりと撫でる。

 それはまるで年の離れた姉妹のようで、会話だけを聞いて双子と呼ぶには難しい。

 しかし、全てをみれば家族であり、双子であり、なにより強固な関係であると容易に分かる。


 ――強固な関係ではあるが、その関係性はリアが求める関係性とは程遠いように思えた。


「ユリア……とりあえず、準備するから魔法を教えるのは明日からでも、良い?」

「はい、大丈夫です……!」


「ありがとう。……それと、敬称も敬語もいらない……から」

「分かり……分かった。ありがとう……ニア」


 ユリアは言葉を詰まらせながらも、ニアにため口で感謝を伝える。

 その後、話は終わったからというようにリアは俺達を部屋の入口の方へと引っ張っていく。

 少々乱暴ではあったが、実際今回はこれ以上目的に近づくことはできないため、抵抗せずについていった。

 

「それじゃあ、一度ユリア達を送ってくるから、ニアは待ってて頂戴ね」


 ニアは無言で頷くと、俺達に小さく手を振って、椅子に腰かけた。

 その光景を横目に、リアは部屋の扉を閉めて、玄関に向かおうと階段を下っていく。

 俺達も後に続き階段を下っていると、リアは振り向かずにただ告げた。


「まだ時間はあるから、ゆっくりでもいいのかしらね」


 外に出ると、蒸し暑さが一気に襲い掛かってくる。

 日本でも感じたことのない暑さで――体感三十度は超えている。


「もうお昼時ですね」

「お腹がすいた」

「……僕も!」


 俺の言葉に激しく同意したルイは、早く昼食を食べようと早歩きで、今泊まっている宿屋に向かって走っていく。

 俺も、と少し急ぎ早に歩こうとした時、リアに手を掴まれて動きを止められた。


「私、ハルキに少しだけ用があるの。だから、少しだけかりてもいいかしら?」

「え!? 俺お腹すいてんだけど……」

「あんまり時間はかけないわよ」

「本当に?」

「本当よ」

「……はあ。どこ行くの?」

「こっちよ」


「――えっと……先に行ってますね!」


 ティシアの戸惑い交じりの大声に、俺は軽く右手を挙げて返答する。

 そして、リアに案内されるがままに、俺は彼女についていった。




◇◇◇




「こんな場所があったんだな」

「もう何百年も前から誰も使ってないからね。他の都市(まち)の人が知らないのは当然のことね」


 リアに案内されたのは、崖の下――正確には、崖となっている山をくり抜いて造り上げられた闘技場のような場所だった。

 石でできていたであろう、人が観戦するように造られた場所も人同士が啀み合うために造られた場所も――何もかもが崩れ去っており、原型はとどめていない。

 

 床は完全に土となっており、床だけでなく天井も土、壁も土だった。

 地下のような場所であるにもかかわらず、何処からともなく差し込んでいる光のおかげで、暗さは感じず、寧ろ明るいと言い切れる空間だった。


「それで、ここに俺を連れてきた理由は?」

「……そうね」


 リアは俺から離れるように歩きだし、それによって間合いが生まれる。

 「これから剣を交えますよ」と言うかの如くの距離が、俺とリアの間に生まれるが、その感覚はあながち間違いではなかったらしい。

 一定の距離を確保したリアは、まじめな表情で俺に視線を向けてこう言った。



「――一回お手合わせ願いたいのだけれど? いいかしら?」



 そして、リアは俺に対して、いつの間にか右手に持っていた木剣を投げ渡してきたのだった。

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