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d|IF|fer Affection  作者: 江川無名
第一章 「依存と信頼」
13/31

第十一話  遺跡に潜りて、セイがわらう

 俺は走ってアレクのもとに追いつき、左側について肩を揃えて歩く。

 そのまま、文句の一つでも言おうと口を開こうとするが、アレクが悪戯な笑みを溢して、先に言葉を発することで、俺の文句を制止した。


「遺跡の外だけ見ても面白くないだろ?」

「だからって! 俺、死にたくはないからな!」


 俺の切実な懇願に、アレクは悪戯な笑みを大笑いに変える。



「大丈夫大丈夫! もしもの時は俺が守ってやるって!」


 

 と、かなりまずい死亡フラグを立てたアレクに「嘘だろ」と思いつつ、遺跡内部の狭い道に目を通す。


 体の半分くらいはある、形がバラバラな巨大な灰色の石を、崩れないように隙間なくぎっしりと積み上げることで出来た壁。

 シンプルだからこそ味のある壁には、一定の距離毎に小さな穴が作られており、その穴の中には、一本の蝋燭が設置され、薄暗く遺跡の通路を灯していた。



 ――どうやって灯し続けているのかは定かではないが、きっと魔法でどうにかなっているのだろう。



 道は人が三人並べるか並べないかの広さで、地下に向かって緩やかな斜面となっている。

 道も壁と作りは変わりなく、至ってシンプルだった。


 色合いからか、狭さからか――強めの威圧感を遺跡から感じ取ってしまう。


 威圧感に圧倒されながらも、新鮮な光景に俺は、壁や道に目を通し続けていると――不思議な装飾が目に入り、自然と小さな声が漏れる。



「なんだろう、あれ」

「ん? どうかしたか?」

「……いや、なんでもない!」



 よく見ると「1ニ+23」という、明らかに装飾ではない異質な文字であり、しかも、分かりにくくするためか、かなり小さめのサイズで刻まれていた。その文字の意味は全く分からないが、一応頭の片隅に残しておき、いつの間にか先に進んでいたアレクの後を走って追った。



 そのまま、二分程歩いた時――狭かった道が一気に開かれ、十人が横に並んでもまだ横に人が並べそうな大きさの道になった。

 アレクはこの光景を見て、これからが本番というように、俺に対してこの遺跡の説明を始める。



「薄々気づいてるかもしんないけど、この遺跡は上に……じゃなくて、地下に向かって広がっているタイプの遺跡だな。つまり、あの豪華な建造物は見てくれだけってこと」


「なんか勿体無いな。あんな綺麗だったのに」


「まあ、虚仮威(こけおど)しの意味が大きいんだろうさ。……それはそれとして、こういう地下に続くタイプの遺跡は、大体六階層からなっていることが多い」

「虚仮威し……ねえ。確かにあんな威圧感のある建物を見たら中に入る気が失せる人がいてもおかしくはないな」


「だろ? それに遺跡って敵とか怪物みたいなのが出てきそうなイメージだけど、基本罠とかがメインだから、最後以外に敵がいるってことは滅多にないんだ。――だから建物で脅して篩にかけるってことなんだろうな。……それで、遺跡内部の罠の癖とかは俺が知ってる。――つまり、俺がいれば死なない」

「あの、さっきから――」


「それに……ぱっと見は死ぬ要素なさそうな遺跡だしな」



「お前、さっきからなんでそんなに死亡フラグ連発してんの!? 死に急いでるの!?」



 俺の詰問にアレクは「違う違う」と首を左右に振って、一言。


「三本の矢みたいなものさ」

「……三本の矢?」


「そっ。一個の死亡フラグだと死にそうだから、何個も死亡フラグを言っておけば、死なない!」


「何その謎理論」

「まあ、そういうことだから、ハルキも言っておけ」

「え、やだよ絶対」


 そもそも、三本の矢は折れないようにするものだし、死亡フラグだから折れるべきでは? と、思ったりもしたが、結局、勢いに負けて、第三層に辿り着くまでの間、死亡フラグ建築合戦になった。

 



◇◇◇


 

 最終階層と思われる階層に辿り着いても、アレクの言う通り、襲い掛かってくる敵は出てこなかった。

 更には、アレクが徹底して罠に気が付き避けるように誘導してくれるため、遺跡探索の時間は平和な時間そのものになっている。


 ――しかし、一つ気になるのは、その後も各階層に不可思議な文字が刻まれていたということ。

 それは「6 ニ -34」、「7 ニ -10」、「8 ニ +55」、「3 ニ -12」――と、一階層と似たような文字列だった。結局、これを覚えるだけで一苦労だったため、階層までは覚えていない。

 

 文字列を片隅にとどめつつも俺は、喧噪でありながら静謐という矛盾あふれる都市(まち)の店で行われた会話を思い出し、疑問に思ったことをアレクに尋ねた。

 

「……よく考えたらさ、店での会話で、遺跡に入ったら生きるか死ぬかって話してたけどさ」

「うん」

「これ、当然じゃないか?」



「…………バレたか」



 世の中、いついかなる時も生きるか死ぬか――そう考えると、あの発言は驚くほど中身がないことになる。

「――いや、今まで気が付いていなかったから、案外納得いってたんだろうけど」


「いやあ、食後だったこともあって、あの時は脳死だったからなあ。……細かく言うとさ、一度入ったら外に出られないから、助けを求められないわけ。もっと言うと、どれだけ危機的状況になっても、脱出することはできない。……最後までたどり着くか――それとも、途中で死ぬかの二択」


「…………まあ、命がけなことに変わりはないか」


「そだな。――あ、その石踏んだら駄目だから気をつけて」


 俺はアレクの指示に従って、道を形成している一個の石を回避して先に進む。

 安全に越したことはないし、死ぬのは当然嫌なのだが――どこかで刺激を欲している自分がいる。


 それが表情に出ていたのか――アレクが俺の顔を見ながら、右側の一つの石に手を置いた。


「なんだ? ハラハラドキドキな展開を待ってたのか? 良いんだぜ? この壁のボタンを押しても」

「いや、そんなことはない。死にたくないから、安全に越したことはないよ」

「それはそうだな」


 そう言うと、アレクは何度も頷き賛同の意を示して、右手を壁から離した。

 周囲を確認すると、蠟燭の間隔が広がっており、全体的に薄暗さが増している。この遺跡の最深部に近づいているのだろうか。



 声を出せばやまびこのように反響し、一歩進めば合唱のように跫音が響く。



 安全になっているからこそ、耳を傾ける事が出来る不思議な音色を聞きながら、アレクとの会話を続ける。


「結局遺跡ってのはラストだけってことが多いんだよな。……ごめん、話変わるけど、腹減った」

「三時間前に食ったばっかじゃん!!」


 不思議な音色を全てかき消した俺の突っ込みに、アレクは不服そうな顔をして反駁する。


「しゃあないだろ! 腹減ったんだから!! 空腹イコール生理現象! モトムリカイ!」

「それはそうだけどさあ」


 と言いながらも、俺は腑に落ちてはいなかった。

 勿論、人によって食事量は異なるため、すぐに空腹になるのは分かる。しかし、彼が食べた量は一般人の三倍くらいの量だった。

 新陳代謝が良すぎる気もするし、アレクにとってはそんなものなのかと、どっちつかずの考えで頭を悩ませていると、ふと目の前に大きな壁が立ちはだかる。


「あ、行き止まりだ――じゃなくて、扉だ」

「いつの間にか、最下層まで辿り着いてたんだな。あとは、この中に入って、なんかお宝を守ってるでっかい敵を倒せば終わり」


 目の前に聳え立つ、高さ三メートル程度の両開きの扉は、奴隷の競合場に侵入するときに壁から出現したものと見た目と色は酷似していた。


 素材不明な真っ赤で巨大な扉。

 俺とアレクは、左右分かれて手を当てて、扉を押し開けようと試みる。

 しかし、どれだけ強く押し込んでも、びくともしない。念の為、引っ張っても見たが、結果は同じ。


 扉から一歩離れて、俺は扉全体を見渡して、何か仕掛けがないか確認する。

 暫く扉と睨めっこしていると――。

 


「なんか扉に文字が書いてある」


 

 扉の上の方には、文字こそ違うものの、「ん」が左下にあるタイプの五十音表が書かれており、更にその下には不可解な文字の羅列が彫り込まれていることに気がつく。



 最初の時点で気が付きそうなものだったが――何故こんな長期間、気が付かなかったのだろう。



 そんな疑問を俺が抱いていることを知ってか知らずか、アレクは「なるほど」と口元に手を当てて、数回頷いた後、口を開く。


「謎解きになってるんだな。たまにある」

「……へぇ」


 俺はアレクの言葉を受けて、不可解な文字の羅列をしっかりと確認する。



――――――――――――――

《忠告》考えなくても構わない。


 SXNWH

S = NONE or S、X = AKSTNHMYRW、N = 1~5、W = →、H = ↓


1  N442

2  ー

3 K3-21

4 SS220

5 H300

6 ST531

7 M1-52

8 Y510

――――――――――――――



 ………………。



「意味分かんないけど」

「簡単じゃないか」


 

「はあ!?」


 俺と同じタイミングで、最も対比の位置にある言葉を発したアレクに、俺は思わず素っ頓狂な声を上げる。

 彼はその声をきいて、「ふふーん」と言いたげなどや顔を浮かべた後、扉に向かって答えを提示する。


「答えはアーティファクトだろ? どうよ、正解だって言いなよ」


 数秒間の沈黙。そして――。



『ブー!』



「いや、違うじゃん。――というかどっから声でてきたんだ」


 どこからともなく発せられた、機械音声のような女の子の声の出所を疑問に思っている俺の横では、アレクが「ありえない」と言いながら頭を抱えていた。


『バーカバーカバーカバーカ!!』


 少女っぽい何かからの激しい罵倒に、アレクは頭を抱えるのをやめて、苛立ちを隠そうとせず、扉を右足で何回も蹴飛ばし始める。


「てめえ、舐めてんのか!! 二百年前の遺跡のくせに! 二百年前のやつのくせに!!」

「落ち着け落ち着け。機械的に話してる人工物にイライラするな! もう一回じっくりと考えて――」


 その瞬間――背後から、何かが落ちてくる音が聞こえてきた。

 おそるおそる後ろを振り返るとそこには――。


 道を完全にふさいだ巨大な岩の球体が俺たちの方に向かって転がってきていた。

 


「ワーオ。アンビリーバボー」

「生が嗤って、死が笑ってますね、これは。――あと、三本の矢理論が破綻しかけてるな」


 

 死へ一気に近づいたからか――呑気な会話が成立してしまう。

 俺は両手で頬を叩き、現実に意識を連れ戻し、何とかして謎解きの答えを絞り出す。


 今まで各階層にあったあの文字が絶対必要になるはずだった。それを単純に当てはめると、「1ニ+23」は1のところに当てはめればいい。

 同じように、各階層の文字の羅列を全て思い出して適用していくが、浮かび上がった文字は――レーナィフトスロにしかならない。


 何か他に足りないものがあるはず。


 そう考えながら、左側の壁に一つ小さな文字――いや、記号が刻まれていた。

 その記号は左右反転の矢印。


 そのたった一つの記号が真の答えへと導いていく。


「! 正解はロストフィナーレ! どうだ機械音声!」



『正解正解!』


 機械音声の明るい祝福の声が通路に反響した後、目の前にある扉がゆっくりと開き始める。

 俺たちは、完全に開かれるのを待たずに、急いで扉の向こうへと飛び込んだ。


 その後、開きかけの扉に岩の球体が直撃――遺跡を震わせそうな程の爆音を響かせて、完膚なきまでに壊れた。 


 俺とアレクはその光景を確認して、安堵のあまりその場にへたり込む。



「「助かったぁ」」

 


 俺は安堵の域を漏らしながらも、今までのようにこの空間の全体を確認する。


 最後の場所と思われる、俺たちが今いるこの空間は、円柱状の部屋で、高さ二百メートルは下らず、奥行きも百メートルは余裕で有りそうだった。

 その中でも最も印象付けられたのは、今までの通路とは異なり、真昼の地上のような明るさを保っていることだろう。

 

 広々とした空間に圧巻されていると、アレクが土でできた地面に両手をつけて、さっきの謎解きの件に関して質問してくる。


「お前、なんで答えがわかったんだ? 俺、あれで間違っていないと思ったんだけどな」

「確かに、扉に書かれていた文字の羅列だけだったら、アレクの答えで正解なんだ。――ただ各階層に変な文字があったから、それをもう一回やっていかないといけなかっただけ。言っておけばよかったな。……ごめん」


「いや、ハルキが謝ることじゃないだろ! …………でもなるほど、そっかあ。遺跡探索のし過ぎで、何処かで俺は死なないって油断してたんだろうな。――お前がいなきゃここで死んでたんだな、俺。……ありがとう、ハルキ」

「どういたしまして。――お前が死ななくてよかったよ」


 自分でも言っていた通り、アレクは慢心していた。

 遺跡で死ぬことはないという確かな自信が芽生えていたせいで、彼は周囲の観察を怠り、謎解きに失敗することになった。

 


 慣れというのは、本当に怖いものらしい。

 


 もし、あの時、アレクが俺をこの遺跡に無理矢理押し込まなかったら、アレクはここで死んでいた。

 そう考えると、ぞっとするし、彼が生きていることに胸をなでおろしてしまう。


 命の終わりというのは、本当にめぐりあわせだな、と再認識させられた。

 それはまさしく――ロストフィナーレ。


 本来、ここで終わってしまう予定だったアレクの命が救われ、彼の終わりがここから消え去った。


 

 ――本当に良かった。



 そんな単純な気持ちを抱いていると、アレクがその場から立ち上がり、俺に右手を差し出す。


「まだ、遺跡最後の大勝負が残ってる。――ハルキ、戦えそうか?」

「まあ、疲れてはないから。……戦いそのものには自信ないけど、何とかするさ」


 俺は差し出されたその右手をしっかりと握って起き上がり、背中に納刀していた直剣を抜き出した。

 俺が構えたのを確認した後、アレクは真剣な表情で、右手をぱちんと鳴らし、魔法を唱える。



取り出せ(デベロティア)!」


 

 魔法を唱え終えると同時に、彼の左手に、見る者すべてを魅了する程の美しさを持った白き直剣が出現する。

 

 余計な装飾はいらないというように、シンプルさを追求したその直剣は、見ただけでも軽いということがわかる。――また、直剣のすべてが白いわけではなく、鍔と握りは黒と赤の二色でデザインが施されていた。


 上空を見据えながら、アレクは美しき剣を両手で握り、洗練された動きで構える。

 


「――――――!!」



「!!」

 

 準備が整ったことを見張らかうかのように、一切の表現が適用しないレベルの異音が巨大な空間に響き渡った後。



 ――上から何かが降ってきた。

 


 その何かが落ちてきた衝撃で、土の地面が煙を上げて、視界を歪ませる。俺は煙が目の中に入らないように、左腕で反射的に目を覆った。


 その煙は十秒程で宙に消え去り、視界が従来の基準に戻り、そして、煙が立っていた場所から――五メートルに達する程の体長を持った、巨大な機械人形が姿を見せる。

 しかし、この世界に地球と同じ概念の機械は存在しないため、正魔法で金属板をつなぎ合わせて動いている人形というのが正確かもしれない。


 足が二本で、腕も二本――完全な人型をした人形であるが、まるで古いロボットのように、関節がむき出しになっている。

 


 そして、何より――青いコアのようなものが、心臓部からむき出しの状態だった。

 炎の如く、魂の如く、生命(いのち)の如く――核は静かに、しかし、激しく鋭く燃え滾る。



 俺とアレクはもう一度剣を構えなおし、怪物との交戦態勢に入る。



 俺達の交戦態勢を確認したからなのか――鉄塊の怪物は、くるりと一回転した後、透き通った女性の声で、世界全域に届くようにこう告げた。




「サア、楽シミヲ語リ愛マショウ!!」

後日、謎解きの詳細を「活動報告」に記載します。これがおそらく最初で最後の謎解きです。個人的には簡単な部類だと思っていますので、お時間に余裕がある方は考えてみてはいかがでしょうか。

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