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d|IF|fer Affection  作者: 江川無名
第一章 「依存と信頼」
12/31

第十話   空腹が襲いて、カレにであう

《調査》 ロダンは奴隷売買という手段を用いて、この世界の経済を回していた人物ともいえる。しかし、それと同時に、多くの子ども達の人生を奪った。この事実を理解した上で質問したい。


 彼は「生きるべき」だったか、それとも「死ぬべき」だったか。


 時間があるならば、「文字を入力する事がゆるされる場所」に理由とともに意見を残しておいてほしい。……理由はなくても構わない。

 ……また、多くの人間の意見を聞きたい。可能ならば、この調査を広めて欲しい。

 翌日。

 雲一つない空から燦々と照りつける陽光の下、俺たちは暑さを感じながら、土の道を歩いていく。土の道の左右には、等間隔に並んだ針葉樹が聳え立っており、風が吹くたび美しい緑色の葉を宙に躍らせていた。


 目の前にはユリアとティシアが、左側にはルイがいる。

 都市を出発してから、既に五時間前後経過しており、今はティシアの先導に従って歩いている状態。歩いている間、俺とルイだけが他愛ない話をしている感じだった。


 全体的に平和なのか剣呑なのかと聞かれれば、先ず間違いなく後者なわけだが、前者にするための解決策はない。


「ん、んー」


 その現状を打破しようしたわけでは決してないだろうが、唐突に、ユリアが声を出しながら、両足のくるぶしを何度も確認し始める。


「どうしたんですか? ユリアさん」


「…………ティシアさんには関係ない」


「いえいえ、な、か、ま! なんですから、関係はありますよ。――あと、私もさんとかつけなくて構いません」


 ティシアはユリアに対して、一気に詰め寄って身体を近づける。

 ユリアはビクッと体を震わせた後、圧に押し負けるように一歩二歩と足を後ろにずらす。


「……あいつ、凄えな」


 数日前の夜の会話が嘘のように、明るく覇気があり――それでいて、お淑やかさも兼ね備えた状態でユリアに声をかけるティシアに、素直に感心してしまう。

 


 ユリアに対する接し方としては悪手な気もするが。



「うるさい……。あ、顔が近い、分かったので、言うので言うので」


 ティシアの圧に負けた――というより、怯えたユリアは、何故くるぶしを気にしてたのかを端的に伝える。

「ずっと、重しをくるぶしに着けてたから、妙に軽くて気持ち悪いの……それだけ」



「なるほど……じゃあ、重しがここに。着けますか?」



「なんであるの!? いや、別にいらないし、じゃなくて、ないほうがいいの! それは!!」


 どこからともなく出現させた重しを前に、ユリアは大きめの声で反駁(はんばく)する。

 その光景を前に、俺は左にいるルイに話しかけた。


「仲良く見えるな」

「仲良く見えるねー」

「でも、ティシアのやってること結構えぐいんだよな」

「確かに……えぐいね」



「「止める?」」



 ルイとの不思議なやりとりを交わしていると――。



「ヴォオオオオオオオ……」



「!? え、何この音こっわ!!」


 突如として左の木々の向こう側から聞こえてきた音に、俺は足を止めて後ろ歩きを始める。

 暫くして、その場所から――一人の青年が地面に這いつくばって、ゆっくりとこちらに向かって進んでくる。


「アイ……ム、ハングリー…………ナウ」


 焦げ茶色の髪を前髪以外短めに揃えた、俺と同い年くらいの青年に、俺は恐怖心をどこかに追いやり、寧ろ興味から彼に対して近づいていく。

 

「おお、初めて見たぞ、ホームレス」

「意外と多いですけどね」


 ティシアの発言に「そうなんだ」と、一言添えた後、更に青年に対して近づいていく。

 

「アイ、ム……はっ!! 肉だ!!」


 教室の机が二台くらい収まりそうな距離に近づいたとき、俺に気が付いたらしい青年が、獣のように獰猛な視線をこちらに向けて一気に飛びついてくる。そのまま、両手で俺の二の腕の強く握り、口を大きく開ける。


「俺は肉じゃない!! いや、肉だけど食えないし、うまくはないって!!」


 痛みを感じるほど強く、俺の二の腕を掴み喰らおうとしてくる彼を振り払うために、目を閉じて何回もその場で回転していると、二の腕から急に痛みがなくなる。


 ゆっくりと瞼を持ち上げると、青年の姿が見当たらなかったが、その五秒後。地面の方から小さないびきが聞こえてきた。

 


「「あ、とんだ」」



 意識が飛んだ青年を見て、ルイと言葉がハモる。


「とりあえず、近くの都市(まち)にまで彼を運んだほうがよさそうですね」

「…………なんで、こうなるの。私はさっさと――」


「気にしたら負けだな」


「……話しかけないで。特に君は――」



「えぇ……」



 俺はユリアの辛辣な言葉に軽く傷つきつつ、目の前に転がっている屍のような青年を担ぎあげる。

 

「んで、近くの都市まで距離ってどのくらい?」

「大体三十分くらいですね。頑張ってください、ハルキさん」



「……えぇ」



◇◇◇


 

 何とか青年を運び続けて、三十分。

 最初にいた都市よりも殺風景な都市にやってきた。

 しかし、建築物の数に大きな差は見られず、殺風景に見えてしまう理由は、色合いが単調であることが原因のようだ。

 

 灰色が基調となった建物が多いこの都市は、空の明るさとは対比的で、薄気味悪いような、ノスタルジックなような――何とも形容しがたい空間が広がっている。

 人も多く賑やかで、商店街では呼び込みの声が沈黙を生み出さずに聞こえてくる。



 しかし、何故か静けさを感じてしまう。――その理由は、本当に色合いだけが原因なのだろうか。



「取り合えず、そこのお店で食事をとりましょうか。実は私もおなかが空いていたので」


 ティシアの言葉に我に返った俺は一度頷いた後、俺は彼女の後にアヒルの子のようにぴったりとついていく。

 彼女がお店のドアを開けると、上についていたベルがからんからんと鳴り響いた。


「あ、いらっしゃいませ! 何名様でしょうか?」


 店指定の質素な制服を着ている赤髪の女性店員が、ティシアとテンプレートなやり取りを交わしている中、俺は店の内装を確認する。



 外とは違い、温かさのある暖色系の壁紙が貼られており、十卓の木で出来たシンプルで大きめのテーブルとカウンターが設置されていた。

 


 ファミレスよりも喫茶店に近い雰囲気だった。



 ティシアは一連のやり取りを終えたらしく、俺達は店員の指示に従って窓側の席に向かう。

 俺は窓際に座り、右に担いでいた青年を座らせた。青年の横にはルイが座って、対面の椅子にはティシアが座る。

 

 あいも変わらず、ユリアは俺の斜め側に座って、会話することを拒否していた。

 俺は悲しみを込めた溜息を吐いた後、自分もお腹が空いていたことに気がつき、テーブルに置かれていたメニューに目を通す。

 お金に関しては、ティシアから幾らか貰っているため、この程度の出費であれば問題ない。


 青年が食べそうな肉類の料理も選んで、全員分含めて合計七品を店員に注文する。


 客が少ないわけでもないのに、要領がいいのか――五分も立たないうちに、全ての料理が運ばれてきた。

 俺が頼んだのは、米っぽい何かでできたドリア。ティシアとルイは、俺に取っては見た目も材料も未知の領域すぎる料理――日本にはなかったため――を注文していたらしい。


 そして、ユリアはというと、自分からは決して頼みはしなかったが、いつの間にかティシアに頼まれていたらしく、目の前にスパゲッティのような料理が置かれていた。


 俺は手を合わせた後、料理の前に横置きされていたスプーンを右手で握って、ドリア(?)を口に運ぶ。

 

 正直、表現に困る美味しさだった。


 そもそも日本とは味の文化も食材の種類も異なるわけで、味付けや旨さの基準に違いがあるのは当然なのだが、この世界に来てから今まで食べた料理は普通だったのに、とつい考えてしまう。

 美味しいには美味しいけれど、表現が可能かと言われれば、全くの別問題という状況である。



 ただ、一つ言えるのは――これは米ではない。



 少しでも期待していた自分が馬鹿みたいだったが、普通に食べられるから良いか、と自分を納得させて、もう一度料理を掬って口に運んだ。


 俺は黙々と食べ続け、ドリア(?)が半分くらいなくなった頃、匂いに釣られてか――青年が呻き声を上げながらゆっくりと目を開ける。

 そして、半目状態で彼は左右を見渡した後、目の前にある料理を見て、思い切り目を見開いて――。


「誰か知らないけれど、これ食べていいか?」 

「……はい、構いませんよ」


 ティシアの言葉にぱっと目を輝かせた青年は、「いただきます」と手を合わせた後、目の前にあったパスタを豪快に掬って口の中に頬張っていく。

 空腹は最大の調味料という言葉を誰かに理解させるには十分すぎる程、美味しそうに頬張る姿を見て、料理を作ったわけでも運んだわけでもないのに、幸せな気分になる。


 ものの数分で全てを平らげた青年は、手を合わせた後、俺たちの顔をもう一度しっかりと見直して、頭を下げた。

「俺はアレク。飯を注文(・・)してくれたこと、それに助けてくれたこと、感謝する。後で金はちゃんと返すよ」


「このくらい別に構いませんよ。――お安いものですので」


「いや、本当に金ならあるんだ。……まあ、でも奢ってもらえるなら言葉に甘えようかな」

 もう一度、アレクは頭を深く下げた。

 彼が頭を上げなおした後、俺たちは各々、彼に対して名前を告げていく。

 一頻り、名前を伝え終えた後、アレクは俺に対して、また頭を下げた。


「ハルキ……お前も悪いな。なんか二の腕に食らいつこうとしてたっぽいし……記憶が曖昧だけど」

「いや、別にいいけど……お前、俺のことどう見えてたの?」



「え? ――肉」



「いや、それはそうだろうけど」


 適切な突っ込みが思いつかなかったせいで、不自然な雰囲気が生まれたため、俺は一度咳払いをして、話題をすり替える。


「まあそれは良しとして……。なんで、あそこで倒れてたの?」


「え、ああ。近くの遺跡から抜け出したものの、空腹で気を失ってたってところかな」



「遺跡?」



 その疑問にはティシアが答える。


「お宝? と言われている何かを封印している場所の総称です。百年から二百年の間に造られたものとされているのですが……誰かが造ったのか、それとも自然生成されたものなのか――世界で最も謎が多い場所として有名ですね。また、危険性が高いことから、あまり調査に乗り出されていない場所でもあります」


「危険って言っても、中に入ったら最後、生きるか死ぬかの選択しかないってだけだけどな」



「「十分危険だわ!!」」



 もう何度目か分からないルイとのハモりに、ティシアは右手で口元をおさえて楚々として笑い、アレクは「ぐうの音も出ねえ」と言いながらも、左手で机を叩いて爆笑していた。

 

「危険なのは分かったよ。……ところで付近に遺跡あったりするのか?」

「あるぞ? 結構すぐ近くに」

「行ってみたいんだけど、場所教えてれないか? 中に入る気はないけど、外観とか普通に気になる」

「良いぞ! 折角なら、案内してやろう。どうせ、次に俺が行く予定だった遺跡だしな」

「本当か? ありがとう、アレク」

 

 「気にすんな」とアレクの添えた一言を添えた後、俺は残り僅かになっていたドリアを食べる。



 そんなこんなで、全員が食事を済ませた後、ティシアが纏めて会計をして外に出た。


 外はやはり、不自然な静けさがあり、妙な違和感を覚えてしまう。更には、この都市に来た時よりも、何処か賑わいがなくなっているような気さえした。


 結局、違和感や静けさの正体は分からぬまま、都市の外に出て、遺跡に向かって草原をまっすぐと進んでいく。



 俺は都市から意識を逸らすように、左側にいたアレクに声をかける。


「アレクはなんで遺跡探索をするようになったんだ? やっぱりお金のため?」

「あー、今はそれもあるけど。……俺が遺跡に潜り込むようになった理由はただ一つ。――四つのアーティファクトを見つけること」


「あ、アーティファクト?」


「そう! 数多くある遺跡の中には、繋がりを持つ四つのアーティファクトが存在する。その四つをすべて集めたとき、何かが起こる!! っていう逸話があるんだわ。取ってつけたような子どもの作り話みたいな……。でも、この話を初めて知ったとき、子どもだった俺は、自分で全部集めるんだ! って思って、気が付いたらこうなってた」



「行動力の化身だな。――尊敬するよ」



「褒められると照れるな。……ちなみに既に一つある」


 そういうと、アレクは革でできたウエストポーチから、一つの大きな欠片を取り出した。

 それは周囲の光を乱反射させて美しく輝いている。中に混じっている物質が理由か――反射した光は橙や緑、黄色に輝き、全体的に明るい雰囲気を醸し出している。


「俺が言ってるだけだけど、この欠片の名前は《喜びの欠片》ってとこかな。なんか明るい雰囲気があるし」

「それは僕も思った!」


 ルイが元気に同意を示すと、「そうだろ!」と、アレクが嬉しそうに何度も頷いていた。

 ルイもアレクも懐っこい性格らしく、何かと息が合いそうだった。


 二人の盛り上がった会話が落ち着き、アレクがウエストポーチの中に欠片を戻した時、「待ってました」と言わんばかりに、目の前に巨大な建造物が立ち塞がった。



「ここだ」

「これが……遺跡」



 高さ五十メートルを優に超える、鼠色の石で造り上げられた巨大な建造物。遺跡より奥は森となっていて、入り口は、某トレジャーハンターの映画の舞台となったペトラ遺跡のようだった。苔や蔦が絡みついてはいるものの、崩れた場所が一か所も見当たらない程、綺麗に現存している。



 こんな巨大な建造物なのに、何故遺跡の存在に気が付かなかったのだろう。

 もし、魔法によって、遺跡そのものが視認できないようになっていたとするならば、「この世界の魔法はどうなっているんだ!」と大声で叫びたくなる。


 俺は平然を装ったまま、入り口に近づいていく。

 美しくも、どこか威圧的で不気味さを奏でる入り口の扉は――その雰囲気とは対照的に、完全に開け放たれており、来るもの拒まずという感じだった。


「ふーん。それでアレクはこれからこの遺跡に――」


「とう!」



「は?」


 いきなり背後から押された俺は、抗うことも出来ず、入り口を跨ぎ遺跡の内部に闖入する。

 その後、アレクも同じように入り込んだと思ったら、開放的であった扉は、ミシミシという豪快な爆音を響かせて、かなりの速度で閉ざされた。


 俺の脳裏は「は?」という言葉で埋め尽くされ、咄嗟に左側にいたアレクに対して詰問する。


「お前、なんてこと!!」


 それなりに怒りそうなのだが――アレクはそのことを知ってか知らずか、悪戯な笑みを溢して、右手拳を天井の向かって突き上げた。


「ふっふっふ。それでは二人で遺跡探索だ!」

「アレク!? お前遺跡は生きるか死ぬかってさっき――」


「細かいことは気にしなさんなって!!」



「…………いや、細かくはないからな!!」



 外に引き返すことは不可能らしく、俺は覚悟を決めて、鼠色の壁と床が造る遺跡の一本道を、危機感ゼロで進み出すアレクの後を走って追いかけた。



◇◆◇



「……えっ、えぇ」

「ハルキ!? アレク!? ……もう聞こえないかな。――アレクは一体何がしたかったんだろう」


「少なくとも死ぬことはないと思いますが、私たちはどうすれば良いんでしょうね」

「…………少しだけ離れてよっか」


 ルイの言葉に、ティシアのみが一度だけ頷いて、三人は遺跡から百メートルほど離れた。

 周囲には草原であり、視界を遮るものは何一つない。雲もないため、遮られるものがない陽光が、三人に汗をかかせるために、暑く照りつける。


 ルイは右手で服の襟をパタパタと揺らして、服の内側に風を生み出す。


「ところでさ……ユリアはなんでハルキに対してあんなにあたりが強いの? 何かあったの?」

「……やっぱり、救出したことが……でしたら、あれは私が言ったことですので、ハルキさんを責めないでいただけると――」



「違うよ。それは違うの。――あの件に関しては、今はすごく感謝してる。……二日間考えたけど、あの場所に居続けても、私は誰かに買われて、不幸になっていただけだろうし、しかも、パパとママが居なくなったっていう事実を知らないまま、生き続けることになったんだと思う。だから、助けてくれたこと自体は感謝してる。…………魔王? を殺せば、私自身が今抱えてる――大っ嫌いな感情にも終止符が打てると思うし。……ただ――」

「ただ?」

「ただ、今はハルキと、それにティシアとも話したいとは思わない。ごめん。……一応ルイと話すのは大丈夫、だと思うけど」


「おっ、それは嬉しい! これから、どんどん話すねっ!」


 「あ、それはちょっと」と、ユリアが付け足したことで、ルイは露骨に落ち込み、ティシアはティシアで別の理由から、翳った表情を浮かべていた。


「でも、それは少し残念ですね……今までの行動も悔い改めないと――。でも、私もそれにハルキさんもユリアさんとは仲良くしたいと思っていますので。理由があるなら教えてくださると嬉しいのですが……」

「…………だって――」



 ハルキとティシアは「本当」を視せていないから。



 ユリアはその言葉を飲み込んで、ティシアに簡素な言葉で返事をする。


「なんでも……だよ」


 ユリアは、色々な人の良い想いも悪い想いもみてきていた。



 そのせいで――二人が自分を隠していることに、薄々と気が付いているのだろう。



 ユリアは遺跡の方を見つめながら、少しだけしゃがみ込んで、右足のくるぶしをゆっくりとさすった。

 最上部にあった《調査》は、物語に大きな影響を及ぼすものではありません。

 単純に、「誰か」もしくは「何か」が、多くの「ヒト」の意見を聞きたいということから、調査をしているようです。お時間に余裕がある方は、是非協力してあげてください。

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